※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

介護がまだ「福祉」と呼ばれ、行政の領域とされていた時代からいち早く市場に参入し、牽引してきたロングライフホールディング株式会社。現在、有料老人ホーム事業を手がける「日本ロングライフ株式会社」と在宅介護事業を手がける「エルケア株式会社」を両輪として、質の高いサービスを展開している。みずほ証券での法人営業を経て、新事業であったリゾート事業の立て直しを任されたことを機に家業へ身を投じた代表取締役社長の遠藤拓馬氏。先代の強力なトップダウン体制から自律型組織への転換を図る遠藤氏に、同社独自の強みや業界の未来を見据えた展望を聞いた。

証券営業から家業の立て直しへ 他業界で培った現場目線

ーーまずは、家業である貴社に入った経緯をお聞かせください。

遠藤拓馬:
もともとは家業を継ぐ予定はありませんでした。ただ、学生時代に実家の事業が株式上場を果たす姿を間近で見ていたので、証券市場や株式運用には強い興味を抱いていました。そこで、ファーストキャリアは証券会社を選択しました。

転機は名古屋で法人営業を担当していたときのことです。証券会社の仕事で東京へ出張した際に家業の決算説明会へ立ち寄ったのですが、その後、父と食事をして帰る車中で「立ち上げたばかりのリゾート事業の社長交代が続いているから任せたい」と打診を受けたのです。最初は断りましたが、当時担当していた企業の役員の方々から「事業規模のある会社の社長に挑戦できるのはチャンスだ」と背中を押され、最終的には家業に入る決断をしました。

ーー証券会社でのご経験は現在の経営にどう活きていますか。

遠藤拓馬:
初対面の方の懐に入るコミュニケーション能力や、訪問前の入念な事前準備といった営業の基本姿勢が活きています。また、外の世界で会社員を経験したこと自体が大きな財産ですね。創業者である父はカリスマ性があって強力なトップダウンで会社を牽引してきましたが、私は証券会社に勤めたことで、会社員としての考え方や現場が抱えがちな不満を理解しているつもりです。そのため、社員と距離の近いフラットな立場で組織を見ることができていると思います。

「右向け右」からの脱却 理念を基盤とした自律型組織へ

ーー貴社の代表に就任され、組織体制をどのように変革しましたか。

遠藤拓馬:
強力なトップダウン体制から、社員の主体性を重んじる自律型組織へとシフトしました。かつては「右を向け」と言えば全員がその通りに動くほどの統率力がありました。一方で、指示を的確にこなすことに終始し、社員が自ら「どうすればうまくいくか」を考える力が育ちにくい側面もあったのです。そこで現在は「自分たちでしっかり考えてほしい」と伝え、現場の裁量を広げています。

ただし、創業時から大切にしている企業理念は不変です。社員手帳を活用し、全国約200の拠点で毎日の朝礼時に「『ロングライフはこんなことまでしてくれるのか!』と世界中のお客様を笑顔にします。」という理念を唱和しており、これが全社でベクトルを合わせる確固たる基盤となっています。

五感に響くサービスと「こんなことまでしてくれるのか」という感動

ーー業界における貴社独自の強みを教えてください。

遠藤拓馬:
ステータスをお持ちの方々にふさわしい質の高いサービスを提供できる点が最大の強みです。弊社が創業した当時、株式会社が介護事業を行うことは珍しく、私たちが新たな市場を切り拓いてきたという自負があります。

お客様からのお声としても大変嬉しい評価をいただいております。たとえば、在宅介護の「エルケア」では、訪問入浴をご利用の方から「効率重視で終わってしまうことが多い中、エルケアはいろいろなことを考えて丁寧に対応してくれる」という声をいただきました。また、老人ホームを見学されたお客様と長年付き合いのあるヘルパーさんが、弊社のエントランスの庭を見た瞬間に「素敵な場所だ」と感じてくださり、入居の決め手になったケースもあります。これらの実績は機能面だけでなく、五感に響く良さを提供できている証だと捉えています。

ーー現場スタッフの対応から生まれたエピソードは他にもありますか。

遠藤拓馬:
たとえば、直木賞作家のお客様のエピソードがあります。その方はご入居されてから数年後、90代半ばの頃に体調を崩され、執筆活動ができないほどの状況になられました。ご本人もご家族も「もう自然のままに任せたい」と諦めかけているような深刻な状態でした。しかし、現場のスタッフは「どうすれば少しでも良くなってもらえるか」を諦めずに考え、食事や水分補給の工夫など、親身なケアを続けたのです。

その結果、見事に回復され、現在はお元気になられてホーム内で新しい本を執筆されています。先日お会いした際にも、「ここのスタッフは本当によくしてくれて、入居したおかげで何も気にせず好きな本を書けるようになった」と大変喜んでいただきました。

さらに驚くことに、その厚い信頼のきっかけは、一番初めの見学の際に、スタッフが車から抱えるようにして降ろした「何気ない配慮」だったそうです。こうした「こんなことまでしてくれるのか」というサービスは、特別な指示ではなくスタッフの自然な行動から生まれます。弊社では年に1回「ロングライフ学会」という事例発表の場を設け、そういった素晴らしいエピソードを共有することで、社員のモチベーション向上へとつなげています。

認知度を向上させ人生の最期を豊かに彩る選択肢へ

ーー最後に、今後の展望について教えてください。

遠藤拓馬:
有料老人ホーム事業では立地を厳選しつつ、京都や東京などへの新規出店を進めます。現在、在宅介護事業においては、厳しい経営環境により事業継続が困難になる事業者が増えています。そのため、救済案件としてスタッフやお客様を弊社で引き受ける形で業界に貢献していく方針です。

また、今後は積極的な情報発信や企業間連携を通じて、認知度向上にも注力していきます。若い世代を中心に、老人ホームに対して「病院のような場所」というイメージを持つ方が少なくありません。しかし弊社のホームを見学すると、その感覚は大きく覆るはずです。「最期は自分の人生を生きていて良かった、楽しかった」と思ってもらえる場所であることを、より多くの方に伝えていきたいと思います。

編集後記

強力なトップダウンの体制から、一人ひとりが自ら考え行動する組織への変革。遠藤社長の飾らないフラットな語り口からは、現場の社員への深い信頼と、自社サービスへの絶対的な自信がうかがえた。インタビューを通じて特に印象に残ったのは、顧客からの「こんなことまでしてくれるのか」という驚きや感動のエピソードだ。それは、毎日の朝礼で共有される創業時からの理念が、現場の隅々まで息づいている何よりの証左である。「最期を楽しく生きるための場所」として老人ホームの価値を再定義しようとする同社の温かな姿勢に触れ、この場所からさらに多くの人々の人生が豊かに彩られていく未来を確信した。

遠藤拓馬/1983年、静岡県浜松市生まれ。大阪府堺市育ち。桃山学院大学法学部卒業。2006年、新光証券(現・みずほ証券)に入社。リテール・法人営業を経て2017年、ロングライフグループへ入社。2024年、ロングライフホールディングの代表取締役社長に就任。幼少期から創業者である父の手伝いで同社関連の仕事を体験していたが、就活時には全く別の業界を選択。人が会社の品質であるという思いから、新卒や本社メンバーの最終面接には必ず参加している。