
スーパーやコンビニなどにとっての一大行事といえる「棚卸」は、とかく負担が大きいものだ。株式会社エイジスは、そんな在庫調査を代行する「棚卸」の専門企業として、国内外の小売業を支えている。長年にわたり高い市場占有率を誇る同社だが、現在は棚卸事業に依存したビジネスモデルからの脱却を図る転換期を迎えた。エイジスグループの関連会社での勤務を経て株式会社エイジスへ転籍した福田久也氏は、海外赴任や国内棚卸事業の生産性向上という経験を重ね、2023年に代表取締役社長へ就任した。AIを活用した業務改善や次世代リーダーの育成を推し進め、新たな成長軌道を描く福田氏に、心理的安全性を重視する組織づくりと今後の展望を聞いた。
常識が覆された海外赴任 異文化への適応で学んだ「私が変わる」重要性
ーーまずは、貴社へ入社するまでの経緯を教えていただけますか。
福田久也:
大学卒業後は、関東電子株式会社というコンピューター関連の企業に勤めていました。しかし、2000年頃に当時エイジスの九州エリアのオーナーをしていた私の父が亡くなったため、急遽地元へ戻り、2001年に株式会社ニップスへ入社しました。その後、2003年にエイジス九州株式会社へ転籍し、株式会社エイジスへの出向を経て、2008年に同社へ転籍しました。
ーーこれまでのキャリアにおいて、ターニングポイントとなった出来事は何でしたか。
福田久也:
キャリアの中で大きな転機となったのは、中国への赴任です。その際、それまで日本で当たり前だと思っていた常識が全く通用せず、自分がマイノリティになるという初めての体験をしました。文化や価値観の違いに直面し、日本式のやり方をそのまま押し付けても仕事が進まないことを痛感させられましたね。
そこで行き着いたのが、「相手を私に合わせるのではなく、私が変わらなければならない」という考え方です。多様性を受け入れ、状況に合わせて業務を最適化していった実体験は、現在の経営における大きな財産となっています。
40年間変わらなかった壁を突破 生産性の大幅向上と「心理的安全性」の確保
ーー日本への帰任後には、どういった業務を担当されましたか。
福田久也:
国内の棚卸事業の責任者を約8年間務め、その間に棚卸の生産性を従来の2倍弱まで高めました。実は当時、弊社の棚卸の生産性は約40年間にわたって頭打ちの状況で、これ以上は伸びないと思われていたのです。また、当時は長時間労働への対応が経営上の重要課題となっており、従来の働き方やオペレーションを変えなければ、事業を持続させることができないという強い危機感がありました。そこで、単に現場の努力に頼るのではなく、高い目標を明確に掲げ、適切な人員を配置する仕組みを徹底したのです。現場には「他拠点の工夫を見て自らも改善していく」という素晴らしい風土が根付いており、それがうまく機能して大きな結果につながったのだと思います。
ーー2023年の社長就任後、組織を率いる上で大切にしている信条を教えてください。
福田久也:
「心理的安全性の確保」を最も重視しています。これは前社長からの教えでもありました。昨今の企業不祥事の多くは、心理的安全性が欠如していることに起因していると考えています。社長に対して耳の痛い本当の意見が上がってこなくなれば、組織は機能不全に陥ってしまいます。だからこそ、社員を絶対に怒らないように気をつけてきました。厳しい意見をいわれても「ありがとう」と受け入れる姿勢を徹底するようにしています。
強固な現場力と「脱・一本足打法」が導く課題解決企業への道

ーー心理的安全性を重視した組織づくりを進める中で、貴社の事業上の強みをどのように捉えていますか。
福田久也:
全国をカバーできる圧倒的な現場の実行力です。全国津々浦々において、同じ品質と作業レベルでサービスを提供できる体制は他社にはない強みだと考えています。そして、この実行力を根底で支えているのが、現場で長年働いてくれている多くのスタッフが持つ、会社への高いロイヤリティです。スタッフ一人ひとりが責任を持って高いレベルで業務を完遂してくれています。
こうした現場力は、「手を挙げた人に仕事を任せる」という弊社の文化によって育まれてきました。やる気があり、責任ある仕事に挑戦したいと望む人にどんどんチャンスを与える環境を整備してきたことが、現在の強固な現場力に結びついているのです。また、現場力をさらに高めるため、デジタル技術の活用にも継続して取り組んでいます。
ーー現在の中期経営計画において、どのような目標を掲げていますか。
福田久也:
中期経営計画の3年目として、最大のテーマは、長らく続いていた棚卸の「一本足打法」からの脱却にあります。ここから新たな成長を遂げるためには、事業の多角化が不可欠です。そこで、商品の補充や売り場づくりといった店舗運営を支援するリテイルサービスなどに注力しており、現在はM&Aなども積極的に活用している状況です。
さらに、メーカーと小売、消費者をつなぐマーケティング事業や、国際事業、NEXT事業開発の育成にも力を入れています。M&Aや事業譲受、他社とのアライアンスも活用していますが、重視しているのは、既存事業とのシナジーを創出し、新たな顧客価値につなげることです。小売業のお客様のあらゆるニーズに対し、一貫して課題を解決できる体制を整え、「何かあったらエイジス」と呼ばれる真のパートナー企業へと進化していきたいですね。
新しい技術の活用と自ら変化を楽しむ次世代リーダーの育成
ーー今後の成長に向けた、技術の導入や人材育成の具体的な取り組みを教えてください。
福田久也:
管理部門の業務においては、既存のプロセスにAIを組み込むのではなく、業務そのものを見直してAI活用を前提とした体制へとつくり変えている最中です。これに伴い、社員には学び直しの機会を積極的に提供しています。
持続的な成長を実現するためには、次世代の経営を担う人材を計画的に育成することも欠かせません。そこで、サクセッションプランの一環として「未来創造塾」を設けています。階層別に3つのプログラムを用意し、座学にとどまらず、実際の経営課題や難易度の高い業務を経験するタフアサインメントを組み合わせることで、次世代の経営候補人材を育成しています。

ーー最後に、読者やこれから貴社でともに働く方々へのメッセージをお願いします。
福田久也:
弊社は今、非公開化という大きな節目を経て、新たな成長に向けた変革の過渡期にあります。今後は、中長期的な視点で持続的な企業価値の向上を目指し、お客様への提供価値を一層高めるための事業・デジタル投資と、従業員の成長や活躍を支える人的投資に、これまで以上に力を注いでいきます。だからこそ、自ら学び、変化し、挑戦できる人に加わっていただきたいと考えています。エイジスには、手を挙げた人に仕事や成長の機会を任せる文化があります。自ら機会をつかみ、私たちとともに新しいエイジスの未来をつくっていきたいという方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。
編集後記
強固な事業基盤を持ちながらも、現状に満足することなく変革へ挑む福田社長。その姿勢の根底には、多様な価値観を受け入れ、自らを変え続けるというしなやかな強さがある。特に印象的だったのは、耳の痛い意見であっても「ありがとう」と受け止める懐の深さと、現場で働くスタッフ一人ひとりへの揺るぎない信頼だ。心理的安全性が保たれた組織の中で、次世代のリーダーたちは今後どのようなイノベーションを起こすのか。「何かあったらエイジス」というビジョンの実現に向け、さらなる飛躍を遂げる同社から目が離せない。

福田久也/1974年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、1996年に関東電子株式会社へ入社。2001年に株式会社ニップスへ入社し、2003年にエイジス九州株式会社へ転籍。2008年に株式会社エイジスへ転籍後、DO統括本部長、リテイルサービス開発本部長、常務取締役などを歴任し、2023年4月に代表取締役社長へ就任。