
日本テレビでスポーツアナウンサーとして名実況を刻み、その後は事業部長として数々の新規事業を成功させてきた船越雅史氏。現在は、「キャナリープロダクション」の代表として、声優・俳優・アナウンサーのマネジメントおよび育成に全力を注いでいる。業界水準の半分以下に抑えられた費用、現役の音響監督による1クラス6名程度の少人数制レッスン、そして希望者全員との直接所属契約。「声優業界に新風を巻き起こしたい」と語る同氏が、自身の経営者視点と圧倒的な行動力で仕掛ける、業界改革の全貌に迫った。
小学生からの実況練習と異例の面接で掴んだ日本テレビ入社
ーーまずは、日本テレビへ入社されるまでの経緯を教えていただけますか。
船越雅史:
もともと野球が好きで、小学生の頃は毎日球場へ通い、実況の練習をしていました。周囲の大人に囲まれる環境でしたが、6年間本気で訓練を積んだのです。そして中学生のときに自分の実況を周囲に聞かせた際、「これ以上上手いアナウンサーはいないのではないか」と評価されました。「小学生の努力で頂点に立てるなら、一生の仕事ではない」と感じ、一度はアナウンサーの道を諦めました。
ーーそこから、なぜ日本テレビへ入社することになったのですか。
船越雅史:
最終的な決め手は、母親の「テレビに出れば毎日元気なことがわかり、電話代が助かる」という一言でした。当時の就職活動は売り手市場で、私はやりたいことが明確ではありませんでした。しかし、さまざまな企業を見る中で報道に興味を持ち、日本テレビの面接を受けたのです。面接の際は「日本の野球中継について言いたいことはないか」と問われ、アナウンサーの視点や解説者の在り方について、自身の意見を30分間語り尽くしました。その結果、アナウンサーとして内定をいただきました。
業界に新風を吹き込む 事業部で培った経営者視点
ーー入社後はどのような経験を積みましたか。
船越雅史:
アナウンサー時代は、1年目でパ・リーグの優勝決定戦の実況メンバーに帯同したり、新人でありながら全国で選ばれた6人しか担当できない高校サッカーの準決勝の実況に抜擢されるなど、非常に恵まれた環境で経験を積みました。その後も、オリンピックやワールドカップの現地取材、世界陸上でのメイン実況を担当。さらには、マイク・タイソン、モハメド・アリ、ジーコ、マイケル・フェルプスといった世界的トップアスリートや、ドナルド・トランプ氏への3時間にわたる単独インタビューなど、普通では考えられないような実績を残すことができました。しかし、その後は一般職へ移り、事業部長としてM&Aや出版、インターネット配信など、新たな分野へ挑戦することになったのです。
ーー畑違いの部署で、どのように成果を出されたのか教えてください。
船越雅史:
経営者の視点を持ち、過去を踏襲せず常に新しいことに挑む姿勢を貫いたことが成果につながりました。異動後、日本テレビでの当時の上司に「やりたいことはあるか」と問われ、「業界に新風を吹き込みたい」と答えました。すると、「好きにやれ。ただし、24時間365日、一秒たりとも寝る必要はない。ベンチャーの経営者はそれほどの気迫で挑んでいるのだから、同じ覚悟を持て」と強烈な発破をかけられたのです。そこで腹を括り、徹底的に事業に向き合いました。社内の反対を押し切って立ち上げたプロ野球のネット配信事業が、後に大きな利益を生み出す結果となりました。
声優業界の厳しい現状に向き合い育成の仕組みを変えたい

ーー現在キャナリープロダクションを率いて、声優業界に携わる理由をお聞かせください。
船越雅史:
現在の声優業界が抱えている、育成に関する厳しい構造を変えたいと強く感じたからです。声優を目指す人は多いものの、大手の養成所へ高額な入所金や月謝を支払った後、1年などの短期間で契約を終えられてしまうケースが少なくありません。こうした「若者の夢を食いつぶす」ような育成の仕組みが常態化している状況を、私はどうしても変えたいと思いました。
ーー具体的には、どのような改革を行っているのでしょうか。
船越雅史:
費用の負担を大幅に下げ、質の高いレッスンを提供できる環境を整えました。入所金や月謝を業界水準の半分以下に設定し、希望する方全員と直接、事務所所属の契約を結んでいます。また、ご本人から辞めるとの申し出がない限り、短期間で所属契約を解除することはありません。さらに、レッスンにおいては現役の音響監督などを講師に招き、1クラス6名程度の少人数制で徹底的に指導を行っています。技術だけでなく、「継続する努力」の大切さを伝え、オーディションに懸ける覚悟を育てています。
人生に最後まで寄り添う トップスターを生み出す3つのビジョン
ーー貴社の今後の展望について教えてください。
船越雅史:
最終的な目標として、大きく3つのビジョンを掲げています。
1つ目は、所属してくれたすべての人の人生に最後まで寄り添うことです。全員がプロになれるとは限りません。万が一別の道を歩むことになった際も、その後の人生を一緒に考えるところまで責任を持ちたいと考えています。2つ目は、声優の仕事だけで生活できる人材を10人育成すること。そして3つ目は、誰もが知るトップクラスの声優、あるいは俳優やアナウンサーを1人輩出することです。
ーー採用面ではどのような人材を求めていますか。
船越雅史:
この業界が好きであることは大前提として、「自ら考え、主体的に動ける人」を求めて活動を強化しています。単に指示されたことをこなして報告するのではなく、自分なりに思考して行動できることが重要です。そうした方こそが、将来的に経営者の視点を持ち、ともに事業を牽引する存在になれると信じています。
編集後記
誰もが知る歴史的スポーツイベントの数々を伝え、世界的トップスターたちと渡り合ってきた輝かしいアナウンサーとしての実績と、事業部長としての異例の成功体験。その両方を持つ船越氏が、次世代の業界構造を根底から変えようとしている。育成における厳しい現状に異を唱え、徹底して一人ひとりの人生に寄り添う姿勢からは、単なる事業を超えた深い情熱が感じられた。業界に新風を吹き込むキャナリープロダクションから、どのようなスターが誕生するのか、その未来が非常に楽しみである。

船越雅史/1962年、奈良県生まれ。早稲田大学卒業。1986年、日本テレビアナウンス部。2012年、コンテンツ事業部長。2012年、タツノコプロダクション取締役。2013年、配信事業社Hulu代表。2016年、株式会社バップ取締役副社長、株式会社サウンドインスタジオ取締役、株式会社バップ音楽出版(現:株式会社バップ)取締役。2023年、KIRIYA PICTURES COO最高執行責任者。2025年、JIN合同会社代表、キャナリープロダクション代表。