※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

学生時代に起業で失敗した経験を経て不動産業界へ入り、現場のアナログな非効率に直面した伊藤嘉盛氏。同氏が率いるトグルホールディングス株式会社は、不動産という巨大市場において、最新のAI技術を武器に独自のポジションを築いている。成長を牽引する組織カルチャーやAIによる仕事の全自動化、そして次世代への展望について、テクノロジーで仕事の在り方をアップデートし続ける伊藤氏に、詳しく話をうかがった。

起業の原体験と覚悟 アナログな不便さへの怒りをテクノロジーで解決したい

ーー学生時代のご経験から不動産業界を経て、再起業に至った経緯をお聞かせください。

伊藤嘉盛:
20歳の頃、著名な起業家たちに憧れて友人と会社を立ち上げたのですが、「どんな業種で」というよりも、起業自体が目的だったため、結果的に失敗して就職することになりました。その後の就職活動で、採用された業界が不動産だったのです。一度目の失敗を通して学んだのは、「最終的なリスクや結果はすべて自分が背負う」という覚悟を持って事業を始める大切さです。ですから、社会人になって一人で再起業した際は、逃げ場のない環境で決断を重ねてきました。その主体性が現在の経営の軸となっています。

ーー不動産業務を経験される中で、事業を立ち上げるきっかけになったことは何ですか。

伊藤嘉盛:
現場で不動産業務をアナログに行う中で、あまりの非効率さに半ば怒りを覚えたことが最大の原動力ですね。もっと効率的にできるはずだという怒りのようなものがパワーになり、効率化を追求してきました。自分自身が不便だと思ったことを突き詰めて解決に導くことが、商品や事業の立ち上げにつながっています。弊社の事業においても土地の仕入れや、ボリュームチェックと呼ばれる建築図面の確認作業に何週間もかかっていたところを、どうにかできないかと考えたことが出発点です。

トグルホールディングスの由来と信念 テクノロジーの可能性を信じる組織

ーー社名の由来と、貴社の信念についてうかがえますか。

伊藤嘉盛:
「トグル」とは、プログラミング用語で「反転させる」という意味があり、古い産業の常識を覆し、スイッチを入れ替えるような突破口をつくりたいという思いを込めています。私たちの信念は、世の中でできないと思われていることを、技術を使ってできるようにし続けることです。「誰もが求めているけれども誰もできないこと」を実現していくのが、我々の果たすべき役割だと考えています。

ーー貴社独自の強みはどういった点にありますか。

伊藤嘉盛:
経営のトップメンバーが、コンピュータサイエンスやテクノロジーの可能性を信じていることが最大の強みです。弊社では、不動産営業のプロフェッショナルと、数理系のエンジニアが同じ組織に所属しています。本来なら働き方もノルマも違う人たちが共存するのは難しいことですが、「テクノロジーの可能性を信じる」という根底の目線が揃っているため、成り立っているのです。ビジネスサイドの人間がプロダクト開発に関わり、エンジニアが事業部にヒアリングして自動化を進めるということが当たり前に行われています。

そして、こうした技術陣と営業陣の垣根を越えた組織力を最大限に活かしているのが、当社のメイン事業である「ランドクリエーション」です。一般的には、土地を分析する技術機能と、地権者への営業・土地の取りまとめを担う不動産事業機能は分かれています。弊社では、独自のシステムにより、通常は数週間を要するボリュームチェックを約1分で行い、再開発の可能性がある土地を効率的に特定します。そのうえで、自社の営業組織が候補地の地権者にアプローチし、複数の土地の取りまとめまでを一貫して行っています。技術によって候補地の特定を高速化し、営業組織がその候補地に直接アプローチして土地を取りまとめる、この一連の体制こそが、他社にはない競争力につながっています。

成長を支える「体力」と限界突破 労働の概念を変える

ーー目標を達成するための組織力には、どのような要素が必要だとお考えですか。

伊藤嘉盛:
一言で言えば「体力」ですね。これには知的体力と身体的体力の両方が含まれます。知的体力とは、頭がちぎれるぐらい考え続けて、成果が上がるまで方法を増やし続ける気力を意味します。身体的体力とは、自分が100%のパフォーマンスを発揮できるように体力を改善し続けることを指します。自分が限界だと思った先に、それまでしたことのない努力ができる。限界突破の先に成果があることを信じられるからこそ、誰も見たことのない景色を切り拓くことが可能なのです。また、一人ひとりが目標という自分との小さな約束を守り抜くことの積み重ねが、組織全体の成長を支えています。

ーー社長ご自身が労働の概念を変え続けている現状について教えていただけますか。

伊藤嘉盛:
私は月400時間ほど仕事に向き合っていますが、昔でいう「働く」という感覚はほぼなくなっています。作業をAIに任せており、AIの反応を待ち続けている状態に近いですね。たとえば、社内のシステム開発においてもプロンプト一つでAIが対応し、以前なら数年かかっていたような量のプログラム更新をわずか1週間で処理しています。このような環境を会社全体や他の産業にも広げていき、人間はお客様と向き合うことだけに集中できる仕組みをつくりたいと考えています。

属人知の超克 承認欲求を捨てて何かのオタクになる

ーー今後の展望や描かれている社会像はどのようなものですか。

伊藤嘉盛:
今後は、最新のAI・LLM(大規模言語モデル)を極限まで駆使し、「仕事の全自動化」を推進していくことを目指しています。これまでの人が人生をかけて築き上げてきた知識や経験を、消えゆくものにするのではなく「属人知の超克」としてシステムに保存していく。次世代の人材やあらゆる産業の「スタート地点を飛躍的に高くする」という壮大な未来を描いています。

「世の中でできないと思われていることを、技術を使って実現し続ける会社でありたい」という揺るぎない信念のもと、不動産業界にとどまらず、社会全体のインフラを根本から変革したいと考えています。テクノロジーの力で古い常識を「トグル(反転)」させ、人々がただ労働に追われるのではなく、本当に夢中になれることや大切なことに時間を使えるようになる。そんな新しい社会の在り方を自ら証明し、牽引していくワクワクするような未来をつくっていきたいですね。

ーー次世代を担うビジネスパーソンへ、最後にメッセージをお願いします。

伊藤嘉盛:
若い人には、「何かのオタクになりましょう」とお伝えしたいですね。好きなことというのは待っていても空から降ってこないので、まずは行動してみること。そこで楽しいと感じるからやる気が出るのです。親や世間からどう思われるか、就職につながるかといった承認欲求は捨てるべきです。打算を捨てて一つの経験を深く探求し続け、物事に詳しくなることで、初めて「不便なこと」に気づけます。その気づきこそが最大のチャンスになるはずです。

編集後記

「現場の不便さ」への課題感をバネに、圧倒的な実行力で業界の常識を覆してきた伊藤社長。最先端のAI技術を自ら使い倒し、労働の概念そのものをアップデートしようとする姿勢からは、未来への揺るぎない確信と熱量が伝わってきた。業務効率化にとどまらず、「あらゆる人のスタート地点を高くする」という壮大なビジョン。テクノロジーで社会のインフラを反転させ、私たちが真に価値あるものへ時間を使えるようにするトグルホールディングス株式会社の挑戦は、これからのAI時代における力強い道標となるだろう。

伊藤嘉盛/トグルホールディングス株式会社 代表取締役CEO。学生時代の起業と失敗を原点に、事業づくりを続ける。2008年に不動産仲介会社を創業し売却。2012年にイタンジ株式会社を創業、2018年に売却。2020年にトグルホールディングス株式会社を創業し、現在はAIによる業務と知識の再設計を手がける。東京大学大学院工学系研究科博士課程に在籍し、脳神経科学を研究。