※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

高校2年の秋、クラスメイト44人全員を登場人物にしたゲームをつくった生徒がいた。その生徒が今、データ活用で企業や自治体を支える会社を率いている。INSIGHT LAB株式会社の遠山功氏だ。大学で数学を学び、システム開発とデータマーケティングを経て、中野のマンションの一室で一人、会社を立ち上げた。同社は2024年に株式を上場し、今はAIの使い方がわからない企業への伴走にも力を注ぐ。つくることはあくまで手段だと言い切る経営者、遠山氏の原点をたどった。

44人のクラスメイトが主役 ゲームづくりで知った「喜ばせる」面白さ

ーーまずは、これまでの歩みをお聞かせください。

遠山功:
コンピュータに興味を持ち始めたのは中学の終わり頃で、1年生から情報を専門に学べる高校があると知り、迷わずそこへ進みました。入学が決まると父がパソコンを買ってくれたので、あとはほぼ毎日触っていましたね。おかげで入学した年の初夏にはキーボードを見ずに打てるようになり、在学中に複数のプログラミング言語を身につけました。

ーー学生時代で、特に記憶に残っている出来事を教えてください。

遠山功:
高校2年の秋につくったゲームですね。44人のクラスメイト全員を登場人物にして、普段目立たない友人ほど、探し出さないと会えない「強い相手」として隠しておきました。2か月ほどかけて仕上げ、フロッピーディスクで配ったところ、みんなが夢中になって遊んでくれたのです。プログラミングそのものは、学ぶだけなら画面に計算結果が出て終わってしまいます。つくることはあくまで手段であって、誰かの喜びに変わって初めて意味を持つ。あのときの手応えが、今も仕事の原点になっています。

好奇心のままに現場を歩きデータの可能性に気づくまで

ーー大学卒業後は、どのような道に進まれたのでしょうか。

遠山功:
大学では数学を専攻し、教員免許も取得しましたが、私自身は教育よりもビジネスの世界に進みたいと考えていました。在学中に10種類以上のアルバイトを経験したのも、「世の中の製品やサービスがどのような裏側で成り立っているのか知りたい」という好奇心からです。就職活動では一度ITから離れることを考えたものの、やはり自分の強みを生かせるのはこの分野だと判断し、システム開発の会社に入りました。ところが最初に任されたのは、議事録づくりや電話対応といった仕事です。3か月で辞めたいと直訴して開発部門へ移りましたが、手書きで何度も書き直した議事録は、結果として要点をつかむ訓練になりました。

ーー開発部門に移られたあとは、どのような分野で経験を積まれたのでしょうか。

遠山功:
その後はデータマーケティングの分野に移りました。飲料や食品のキャンペーンに寄せられた応募情報を分析していくと、どの地域にどの年代の愛用者が多いのかが見えてきます。そうして描いた利用者像をもとに、次の施策の狙いを定めていくわけです。広告表現に制約のある商材であれば、店頭での接点づくりから始めて反応を集めました。3年ほど携わるうちに、世の中にあふれるデータを読み解く技術こそが価値になると確信するようになりました。

ーー独立を決めた理由と、創業当初に苦労された点を教えてください。

遠山功:
決め手になったのは、市場を調べたことでした。当時、日本のデータ分析の市場規模は、海外の主要国と比べて20倍近い差があったのです。裏を返せば、徹底して取り組むことで必ず伸びる領域だと考えました。そこで中野のマンションの一室を借り、一人で立ち上げたのです。扱う内容は当時から今までで、大きく変わってはいません。ただ、経営をまったく学んでこなかったため、最初は苦労しました。相談できる経営者の知り合いもおらず、資金がどう入ってどう出ていくのかを、月々の支払いを組み立てながら体で覚えていったのです。

データ活用の支援から AIの伴走へ広がる役割

ーーお一人で始めた事業は、現在どのような形になっているのでしょうか。

遠山功:
私たちは「データ戦力パートナー」を掲げ、大手企業や自治体のデータ活用を支援しています。ご相談として多いのは、データはあるものの何に使えばいいのかわからない、あるいは試してみたがうまくいかないという声です。強みは、分析の技術に加えて、その事業をどう伸ばすかという視点から一緒に考えられる点にあります。2024年に株式を上場したのも、日本のデジタル化を進めるという意思を対外的に示すためでした。

ーーそのうえで、今後に向けて力を入れているテーマを教えてください。

遠山功:
国際的なデジタル競争力の順位を見ると、日本は30位前後にとどまっています。すでに活用できている企業の質を高めるだけでは、全体の底上げにはつながりません。そこで、データという言葉に身構えてしまう企業にも歩み寄ろうと、デジタル教育やAIの伴走支援を始めました。必要性は理解していても、人手が足りずに踏み出せない中小企業は少なくありません。そうした会社にこそ、大きな可能性があると考えています。

個性が噛み合う組織へ 多様な力で日本のデジタル化を前へ

ーー仲間を増やしていくうえで、どのような方と働きたいとお考えでしょうか。

遠山功:
まず見ているのは、会社や社会をリスペクトできる方かどうかです。うまくいかないことを周りのせいにせず、本来はこうあるべきだと考えて動ける人は、驚くほど伸びていきます。逆に、IT経験の有無は問いません。ものをつくるのはあくまで手段ですから、生成AIを使いこなしてお客様を喜ばせられるのなら、それも立派な力だと考えています。実際に、20代の社員が現場を任される場面も増えてきました。

ーー最後に、数年先を見据えた展望をお聞かせください。

遠山功:
技術の移り変わりが速くなり、積み上げたものだけで勝負する時代ではなくなりました。だからこそ、新しい技術をどれだけ早く取り込み、必要に応じて入れ替えられるかを、個人にも組織にも求めていきます。事業としては、データを持つ企業との連携も含め、まだ手をつけていない領域へ踏み込んでいきたいですね。同じ技術を扱える人材を大量に揃えるのではなく、多様な個性が噛み合う集団として、日本のデジタル化を前へ進めていくつもりです。

編集後記

取材で最も印象に残ったのは、44人のクラスメイトを主役にしたゲームについて語るときの表情だった。技術の話をしているはずなのに、口をついて出るのは終始「誰がどう喜んだか」である。性能や効率に議論が傾きがちなAIの時代にあって、この視点はかえって新しく映る。積み上げたものを手放してでも新しい技術を取り込み、若い世代に思い切って任せていく。その二つが噛み合ったとき、INSIGHT LAB株式会社の掲げる目標はもう一段先へ進むのではないだろうか。

遠山功/1977年、東京都生まれ。東京電機大学卒業。新卒以来、企業のデータ活用一筋でキャリアを積む。2005年、アイウェイズ株式会社(現INSIGHT LAB株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。データエンジニアリングを核に、現在はAI活用支援にも領域を拡大。2024年8月、東京証券取引所TOKYO PRO Marketへ上場を果たす。