
幼少期から競技スキーに打ち込み、大学在学中にアパレルメディアの起業を経験した石橋裕大氏。事業のスケーラビリティ(拡張性)と社会性に限界を感じた同氏が次なる舞台に選んだのは、巨大な市場規模とレガシーな課題を抱える歯科医療業界だった。現在は国内最大規模の歯科医療者向けポータルサイト「1D(ワンディー)」を運営し、メディア基盤とテクノロジーを駆使して業界のDXを牽引している。さらなる事業成長と日本発のグローバル展開を見据える同氏に、事業の強みや経営における信念、今後の展望をうかがった。
挫折と挑戦を繰り返して辿り着いた巨大な社会課題
ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。
石橋裕大:
私は幼少期から一つのことにのめり込む性格で、幼稚園の年中から大学まで競技スキーに打ち込んでいました。しかし、大学2年のときにビジネスコンテストに参加したことが転機となり、ビジネスの世界へ進むことを決意をします。その後、IT企業やベンチャーキャピタルでのインターンを経ました。自身の市場価値をさらに高めるためにアパレルメディアを起業し、順調にサイトを成長させました。しかし市場規模が小さく、ビジネスとして大きくスケールさせることが難しいと痛感する結果となります。そして次こそは市場規模が大きく、社会的なインパクトを与えられる産業で勝負したいと考えていたときに、偶然出会ったのが弊社の創業者だったのです。
ーーそこから貴社に参画することになったのですか。
石橋裕大:
そうです。歯科業界は市場規模が巨大であるにもかかわらず、アナログでさまざまな課題が残っている点に惹かれました。学生時代からワンディーに参画して事業を伸ばしていましたので、そのまま弊社にフルコミットする選択肢もありました。しかし、将来的に日本経済を牽引するような大きな企業を、自らの手でつくりたいという強い思いを抱いています。そのためには、大企業がどのような力学で動いているのかを肌で知る必要があると考えました。そこで、新卒の“切符”を使ってリクルートに入社し、1年間メディアのマーケティングを担当しました。予算規模の大きなマーケティングを経験し、大企業の構造やつながりを学べたことは非常に大きかったと感じています。
圧倒的なメディア基盤と「社会のための善」の追求

ーー現在展開されている事業の強みはどのようなところにあるのでしょうか。
石橋裕大:
国内最大規模の歯科医療者向けポータルサイト「1D(ワンディー)」を運営し、テクノロジーを基盤に業界内の課題を解決するサービスを提供しています。主力は、世界トップレベルの講師陣による治療技術や臨床知識を配信する教育サービス「1Dプレミアム」です。弊社の最大の強みは、国内の歯科医師の約2人に1人が利用する圧倒的なメディア基盤を持っていることです。これにより、歯科医師の先生方の課題を瞬時に吸い上げることができるのです。新しいサービスをリリースした際も自社でプロモーションを完結できる点が大きな優位性となっています。
ーー経営者として一貫して大事にされている考え方を教えてください。
石橋裕大:
「社会のために善であるか」ということを一番大事にしています。顧客が喜ぶことや自社が儲かることももちろん重要ですが、それ以上に事業が社会のためになっているかが根幹です。とはいえ、社会性だけに寄ってボランティアになってしまえば、一時的な価値しか生めず、永続的なインパクトは出せません。社会にとって善であるものを、いかにして商売として成り立たせ、持続的な価値提供につなげていくか。この「社会的な善」と「儲かること」を両立させる仕組みを常に考え、経営の舵取りを行っています。
テクノロジーで人手不足を解消し 世界へ広がる挑戦
ーー今後、国内で注力していきたいテーマについて教えてください。
石橋裕大:
最も取り組むべきは業界の人手不足です。歯科衛生士の求人倍率は20倍に達しており、歯科医師の高齢化と減少も進んでいます。診療の提供体制が不足すれば、食べる、味わう、話すといった人々のQOLの根幹が揺らぎかねません。この巨大な社会課題に対し、弊社に集まる優秀なエンジニアや事業開発人材の開発力を生かします。AIやテクノロジーを使ったサービスを次々と展開していく予定です。人手不足の解消と医療の充実を目指し、業界になくてはならないインフラのような存在になりたいと考えています。
ーー海外への展望についてはどのようにお考えでしょうか。
石橋裕大:
歯科業界は、個人商店のような1人開業医が全国に点在するというロングテールな市場構造を持っています。実はこの構造やそこから発生する課題は、日本だけでなく世界で共通しているのです。つまり、非常にグローバル展開がしやすい産業だといえます。日本発のグローバルスタートアップの成功例はまだ少ない状態ですから、この産業特性を生かして私たちが一つの成功例をつくりたいと考えています。日本でしっかりと検証したプロダクトを海外へと展開していく考えです。日本の歯科医療のみならず、世界経済にも良い影響を与えられる企業へと成長させていきます。
編集後記
学生時代からの起業経験や大企業での挑戦を経て、歯科医療というレガシーな産業に真っ向から挑む石橋氏。彼の言葉からは、「社会の善」と「ビジネスの成長」を冷静かつ情熱的に結びつける強い覚悟が感じられた。圧倒的なメディア基盤を武器に、テクノロジーで深刻な人手不足という社会課題を解決しようとするワンディー株式会社の取り組み。それは国内にとどまらず世界を見据えている。日本発のグローバルスタートアップとして、新たな歴史を切り拓く同社の未来が非常に楽しみだ。

石橋裕大/1997年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。大学在学中にアパレルメディアを起業し、売却。同時期の2019年よりワンディー株式会社に参画し、主幹事業であるデンタルプラットフォーム事業を新規立ち上げ、事業責任者として日本最大規模のサービスまでグロース(成長)を経験。大学卒業後、新卒で株式会社リクルートに入社。中古車情報を扱うカーセンサーにてWeb広告の戦略策定から運用マネジメントまでを担当。2022年よりワンディー株式会社の取締役CMOに就任。2025年より代表取締役社長に就任。