
「『まなぶ』と『はたらく』がつながっていないこと。これが現代の大きな課題だと認識しています」。そう語るのは、株式会社ベネッセ i-キャリアの代表取締役社長、風間直樹氏だ。同社は大学や企業と連携し、学生を育てて社会へ送り出す独自の「教育HRモデル」を展開している。新卒採用における情報の非対称性や理想と現実の乖離をなくし、「まなぶ」と「はたらく」をつなぐことが同社のミッションだ。教育現場の課題感から生まれた自身の原点、これからのAI時代にこそ求められる思考力を測るアセスメント「GPS-Business」の展開、そして大学1、2年生向けビジネスコンテストなどの実践的な取り組みについて風間氏に話をうかがった。
社会のリアリティを伝えるため教育を外部から支える道へ
ーーまずは、教育に関わる仕事を選んだ原点を教えてください。
風間直樹:
原点は、自分自身が一度社会に出て、社会の現実を子どもたちに伝える必要があると考えたことにあります。もともと私は高校の教師を目指していました。しかし、教育実習などを通じて、社会に出てから本当に必要なことを子どもたちにリアリティを持って伝えるには、教師の立場だけでは限界があると感じたのです。学校の役割が変化していく中で、地域や外部から教育を支える側になることが重要だと思い、大学卒業後は事業会社であるベネッセコーポレーションへ入社し、主に高校生のキャリア支援に携わっていました。
ーー学生のキャリア支援をする中で、気づいた課題について教えてください。
風間直樹:
就職活動において「まなぶ」と「はたらく」がつながっていないことが最大の課題です。大学受験までは目標達成のプロセスが明確ですが、社会に出る際の就職活動は全く異なるルールになります。情報の非対称性が大きく、企業から何が評価されるのかわからないまま、数万社の中から自分に合う企業を選ばなければなりません。大学の4年間での学びが就職活動でどう評価され、実際の仕事にどう活きるのかが提示されていないため、学生は社会に出るための助走期間を持てず、結果として入社後に理想と現実の乖離を感じ、ミスマッチが起きるということも多々発生しています。AIの台頭など働く環境が変化している今こそ、現在の学びがどんな仕事に活きるのかをしっかりと伝える必要があります。
学生を育て可視化し社会へつなぐ「教育HRモデル」

ーーその課題に対して、貴社が展開している事業についてお聞かせください。
風間直樹:
私たちは「育成」「可視化」「マッチング」の3つを軸とした取り組みを行っており、これらを「教育HRモデル」と呼んでいます。人を集めて企業とつなぐ一般的な人材事業とは異なり、大学というパートナーと協力して学生を育て、能力や経験を魅力として可視化し、社会で活躍する人材として企業へ送り出しています。現在は300の大学と取引があり、企業向けの新卒採用支援も行っています。
ーー大学と協力した「育成」において、具体的にどのような取り組みを行っていますか。
風間直樹:
専門のプロ講師を派遣したキャリア教育の授業や、思考力を測るアセスメント「BPS-Business」や「GPS-Academic」の提供を通じて学生自身の自己理解を促す取り組みなどを行っています。私たちが育成において重視しているのは、学生に日々の授業での経験を就職活動へ生かしてもらうことです。現代の大学では一斉講義型の授業が減少し、少人数で議論しながら課題解決を進める実践的な授業が増加傾向にあります。多様な価値観を持つ人たちと協働して答えを導き出す経験は、社会に出る前の助走として非常に有効と言えるでしょう。
だからこそ学生には、特別なエピソードがなくても、些細な経験から「何を感じ、どのように行動を変えたのか」を自分の言葉で語れるようになってほしいと伝えています。その内省と実践のプロセスこそが社会での再現性につながり、企業からの高い評価を生むと考えているからです。
AI時代に求められる能力の定義とキャリアオーナーシップ
ーー今後はどのようなことに注力していくお考えですか。
風間直樹:
直近で最も注力したいのは、AI時代に必要とされる人材要件を明確化していくことです。これからのAIネイティブ世代が社会人として活躍するための素養を定義し、可視化します。これは小中高校を含めた今後の「学び」のあり方を変えていくための提言につながる可能性があると考えます。もちろん、私たちの基盤である「教育HRモデル」の価値を社会へ示していくことも重要な目標です。
ーーAI時代に活躍できる社会人の素養とは、具体的にどのような力だとお考えですか。
風間直樹:
基本となる「批判的思考力」や、多様な人々と協力して問題を解決に導く「協働する力」、そして何より「志」だと捉えています。自ら「何を実現したいのか」という明確な目的意識がなければ、どれほど優れたAIであっても効果的に活用することはできないからです。
ただ、こうした次世代に必要な能力は従来の枠組みでは見えづらいため、企業側が客観的に評価できる仕組みが必要だと考えました。そこで現在は、「GPS-Business」の展開に注力しています。今後はパートナー企業とも連携を図りながら、従来型の検査に代わる新たな基準として、広く社会へ普及させていきたいですね。
ーー新たな基準で能力を測り育むことは、学生の人生にどう影響するとお考えですか。
風間直樹:
自ら目標に向けて学び続ける、自律的な大人へと成長していくでしょう。自分の強みや特徴を理解し、それが仕事にどう活きるのかを実感できれば、社会に出るのが楽しみになるはずです。学べばできることが増え、成果につながる。この循環を生み出すことで、人生の操縦桿を自分で握る「キャリアオーナーシップ」を持った人が増える社会にしていきたいと考えています。
学びを実践へ昇華する「ビジネスコンテスト」の挑戦
ーーキャリアオーナーシップを育む上で、他に注力している取り組みはありますか。
風間直樹:
学んだことを活用し、実践する場の提供です。その一つとして、大学1、2年生を対象とした育成目的のビジネスコンテストを開催しています。テーマとして設定された社会課題を、アプリケーションを用いて解決するアイデアを提案し、企業担当者から直接フィードバックを受けられるプログラムです。
この場を設ける狙いとしては、ビジネスや社会の仕組みを深く理解してもらうことにあります。参加する学生は一般の方への市場調査を通じて需要や売上高を算出し、自ら事業計画をつくり上げます。これにより、消費者の立場から、課題を解決して価値を提供する側へと視点が切り替わっていくでしょう。社会人からの率直な意見は学生に大きなインパクトを与え、大学での学びが社会でどう活きるのかという気づきをもたらしてくれます。ここはまさに、「まなぶ」と「はたらく」がつながる実践の場といえるのではないでしょうか。
ーー最後に、貴社が求める人材像をお聞かせください。
風間直樹:
新卒・中途ともに「学び続ける力」を土台に持つ方です。そして、仮説を立てて検証と実行を繰り返す力や、何かに熱中して壁を乗り越えた経験を持つ方を歓迎します。何より、「『まなぶ』と『はたらく』をつなぐ」という私たちの世界観に深く共感し、ともに事業を成長させていく仲間をお待ちしています。
編集後記
「もし自分が就職活動をする前に、こんな話を聞けていたら。」取材中、思わず自身の学生時代を振り返っていた。同社が目指すのは、単なる就職支援事業ではない。学びが仕事に活きる喜びを知り、自ら人生の操縦桿を握る「キャリアオーナーシップ」を持った大人を増やすという、壮大で温かい挑戦だ。AIが台頭し、働く意味が問い直される今だからこそ、「まなぶ」と「はたらく」をなめらかに結ぶ風間社長の視座は、これからの社会を担う若者たちへの力強いエールになるだろう。

風間直樹/新卒で株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、高校生の進路・進学支援に従事。その後、株式会社ベネッセ i-キャリアへ異動。大学のキャリア教育変革や企業の新卒採用支援など、高校・大学・企業といった幅広いステージで学びとキャリア開発の支援に携わる。アセスメントテスト『GPSシリーズ』の事業責任者などを経て、2025年に代表取締役社長に就任。