※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

2026年3月、創業10周年の節目を迎える株式会社HANDICAP CLOUD。同社は「障害者雇用バンク」をはじめとする革新的なサービスで、旧態依然とした障害者雇用マーケットに風穴を開けてきた。率いるのは、かつて株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)で組織づくりの薫陶を受け、株式会社サーキュレーションの創業役員としても手腕を振るった森木恭平氏だ。「誰もが自分らしく生きられる世界」を目指し、情報のオープン化から定着支援、そして未病領域へと事業を拡張させる森木氏に、その独自の戦略と組織論、そして次なる10年の展望をうかがった。

業界の「闇」を情報のオープン化で打破 国内最大級のプラットフォーム

ーー現在の主力事業である障害者雇用支援をスタートしたきっかけをお聞かせください。

森木恭平:
2016年に弊社を創業しましたが、障害者雇用事業を本格的に開始したのは7年前になります。当時、障害者雇用というマーケットに触れた際、そこが健常者の人材紹介モデルをそのまま模倣したような状態であることに強い違和感を覚えました。特に問題だと感じたのは、情報の非対称性です。新卒採用などでも見られる「情報を隠して自社に誘導する」ような業界の悪しき習慣が、障害者雇用ではより顕著でした。情報弱者になりがちな求職者が、限られた選択肢の中で意思決定を迫られる。そんな「闇」を感じたのです。

ーーそうした業界の課題に対して、具体的にどのような解決策を提示されたのですか。

森木恭平:
そこで私たちが立ち上げたのが「障害者雇用バンク」です。「釣り物件」のような手法は嫌いですから、真っ正面からユーザーに向き合い、情報をオープンにするプラットフォームをつくろうと考えました。自社で保有する求人だけでなく、ハローワークの求人情報もすべて掲載し、スマートフォン一台で誰もが気軽に情報を得られ、就活相談ができる環境を整えました。コロナ禍でオンライン化が加速しましたが、弊社はいち早くこの仕組みを構築していたため、事業が一気に伸長しました。現在では累計5万人以上の方にご利用いただく国内最大級のサービスへと成長しています。

定着率を高める「サテライトオフィス」と医療知識・AIを活用した独自の支援体制

ーー情報のオープン化の次に着手された課題は何だったのでしょうか。

森木恭平:
就職後における「職場定着」です。昨今、精神疾患をお持ちの方が爆発的に増えていますが、企業の現場では「どう接していいか分からない」と戸惑う人事担当者が多く、一方で働く側も「オフィス環境が合わない」といった理由で、早期離職してしまうケースが後を絶ちません。事実、精神疾患の方の定着率は厳しく、2人に1人が辞めてしまうというデータもあります。

そこで弊社が提供しているのが、医療知識とAIを活用した「サテライトオフィス」です。ここには看護師や精神保健福祉士などの有資格者が常駐しており、週に1回のカウンセリングを必ず実施しています。その記録をAIで解析し、エビデンスに基づいた適切な対応策を企業の人事担当者にフィードバックする仕組みを構築しました。

ーー現場に専門職の方がいることで、支援の内容は具体的にどう変わるのですか。

森木恭平:
「あの人はいい人だから」といった属人的な感覚ではなく、「こういう症状の方には、こういうアプローチが有効である」などの客観的なデータやファクトに基づいた支援を行っています。これにより、通常のオフィスでは就労が困難だった方々が、何百人も安定して働き続けられています。また、「サテライトオフィス」で働くのも難しい方には、生活リズムを整える就労移行支援も提供しており、平均3ヶ月という早さで一般就労へ送り出しています。情報提供から就職、そして定着までをワンストップで支援できるのが、弊社の最大の強みです。

「神は細部に宿る」現場主義で築く 次世代の社会インフラ

ーー貴社の組織風土や組織づくりのルーツはどこにありますか。

森木恭平:
私は以前、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)という人材会社にいたのですが、その時の経験が色濃く反映されていると思います。当時、私はそこで「文化づくり」の重要性を肌で感じました。誰かに言われてやるのではなく、仲間を喜ばせるために自発的に動く。そんな「ギブの精神」を持ったメンバーが集まっているのが弊社の自慢です。

ーー社長ご自身が大切にされているマネジメントの指針はありますか。

森木恭平:
徹底した「現場主義」ですね。私は「神は細部に宿る」と信じています。たとえば、雨の日に傘立ての傘が乱雑になっていないか、会議室の椅子は整っているか。そうした小さな違和感を見逃さないことが、サービスのクオリティを保つ上では不可欠です。「自分の家だったらゴミを拾うだろう?自分の会社ならなぜやらないんだ」と常に問いかけています。気づいた人間がやる、自分事として捉える。そうした感性を持った人間でないと、人の心に寄り添う障害者支援という事業は務まらないと考えています。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

森木恭平:
目指すのは、電気や水道のような社会インフラになることです。現在の支援の形をさらに磨き、「障害者手帳を取得したら、まずはHANDICAP CLOUDに相談しよう」と第一想起される存在になりたいと考えています。そのためには、現場で蓄積された膨大なデータを活用し、より科学的・客観的な支援モデルを確立していきます。

さらに、新たな挑戦として「未病領域」へのアプローチも進めています。障害者手帳を取得した後だけでなく、うつ病などの診断が下りる前の段階、つまり「予備軍」の方々を早期に検知し、ケアできる仕組みを作りたい。大切な人が苦しむ前に手を差し伸べられる、そんな「なくてはならないサービス」を次なる10年で築き上げ、業界の圧倒的No.1を目指します。

編集後記

「夢がない人の方がいいかなと思ってて」という森木氏の言葉に、一瞬驚かされた。だがその真意は、華美な理想を語るよりも「ありがとうと言われたい」「いいこともしたい」といった、人間本来の素直な欲求を大切にすることにある。目の前の「不」や「違和感」に実直に向き合う姿勢こそが、同社の急成長を支えているのだと感じた。傘立ての乱れ一つにも妥協しない繊細な感性と、AIやデータを駆使する論理的な戦略。この両輪が噛み合ったとき、同社は日本の雇用インフラとして、なくてはならない存在になるだろう。

森木恭平/大学卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。2014年株式会社サーキュレーションの創業役員として参画し、事業成長を牽引。2016年株式会社スペシフィック(現・株式会社HANDICAP CLOUD)を自ら創業。現在は同社の代表として、社会課題の解決に向けた事業展開を行っている。