
一般家庭から医療現場まで、生活に欠かせない「救急絆創膏」を製造・販売する東洋化学株式会社。同社は現在、ハイドロコロイドを用いた創傷被覆材(傷口保護材)において、国内OTC(一般用医薬品など)メーカーで唯一(※自社調べ)の「一貫製造体制」を構築している。小野薬品工業での勤務や滋賀県の職員を経て、父が創業した同社へ入社した現・代表取締役の岡幸一氏。全体の約8割を占めていたOEM事業から自社ブランド中心へのシフトを掲げる現在、同社が目指す「絆創膏の枠を超えた製品開発」の真意と、時代を見据えた組織づくりの全貌に迫る。
「滋賀県の職員」から父の創業会社へ
ーーまずは、東洋化学へ入社されるまでの経緯をお聞かせください。
岡幸一:
もともと大学卒業後はすぐに家業を継ぐことは考えておらず、まずは大手製薬会社へ就職することを選びました。その後、恩師の勧めもあって滋賀県の採用試験を受け、職員として5年間勤務することになります。そうして外の世界でいろいろな仕事を経験する中で、少しずつ先が見えてきたため、もともと創業者である父から入社を打診されていたこともあり、自分の親の会社で働きたいと考え、入社を決意した次第です。
ーー入社当時はどのような業務を担当されていましたか。
岡幸一:
当時の従業員は30名ほどでしたので、まさに「何でもやる」状況でした。資材の調達から工場の製造業務の手伝いまで、多岐にわたる仕事を経験しましたね。大変なこともありましたが、当時は世の中全体がのんびりしていたこともあり、楽しさを感じながら仕事に向き合っていました。
一貫製造の強みと「管理医療機器」取得へのハードル

ーー主力であるハイドロコロイド製品の強みを教えてください。
岡幸一:
一番の強みは、OTC向けのハイドロコロイド製品を一から「一貫製造」している点です。これは国内のOTCメーカーの中でも弊社でしか行っていません(※自社調べ)。素材を外部調達するのと異なり、自社で一貫して製造できるため、自由度の高いものづくりが可能です。非常に優れた防水性の「キズクイック」に加え、超薄型設計の「キズクイックfit」は目立ちにくさを徹底追求し、独自設計の一部形状ではグッドデザイン賞も受賞しました。
ーー開発にあたって特にご苦労されたことは何でしょうか。
岡幸一:
「管理医療機器」の認証を取得するハードルが極めて高かった点です。絆創膏の多くが該当する「一般医療機器」はリスクが低い反面、法律上「傷の保護」しか謳えません。「痛みを和らげ、傷の治癒を促進する」という効能を表示するには、よりリスク分類の高い「管理医療機器」として認証を受ける必要がありました。そのためには有効性の立証だけでなく外部機関での数々の安全性試験や経時変化の確認が必須であり、1つの認証申請に最低半年以上かかるのです。この厳しいハードルを試行錯誤の末に乗り越えたことが、今の製品展開に繋がっています。
「一人の悩み」から生まれたヒット商品とプロ仕様のこだわり
ーー商品開発のアイデアはどのように生まれているのでしょうか。
岡幸一:
お客様からの切実なご要望が、商品開発の大きなヒントになっています。たとえば、あるとき指の第一関節が痛む「ヘバーデン結節」に悩むお客様から、当社のとある絆創膏の「パッドを外して指に巻くと調子が良いので、ぜひ製品化してほしい」というお声をいただきました。調べてみると、更年期の女性を中心に300万人もの潜在的な患者様がいらっしゃることがわかったのです。そこで、適度な固定力を持たせつつ、水仕事でも使いやすいように防水性や蒸れにくさを兼ね備えた『家事がはかどる指保護テープ』を発売しました。この商品は、今では大変多くの方に喜んでいただけるヒット商品に成長しています。
ーーその他には、どういった製品を手掛けているのですか。
岡幸一:
水仕事が多く手荒れに悩む美容師さんなどに向けて、シリコーン系粘着剤を使用した特殊素材の保護フィルム『プロ仕様 手荒れ保護フィルム フィットバンN』などを展開しています。これは、一般的なアクリル系粘着剤と異なり、シリコーン系は皮膚の凹凸にぴったり密着して剥がれにくく、気温の影響を受けにくいのが特徴です。指先の複雑な形状に合わせた特殊なカッティングも、自社で設計から手掛けているからこそ実現できる強みです。
現場の声を活かす組織づくりと開発型企業としての未来

ーー社風や組織づくりにおける特徴的な取り組みについて教えてください。
岡幸一:
弊社の社員は、ハイドロコロイド素材の製造ラインなど一部を除き、現場オペレーションを担当するほぼ100%が女性です。そのため、育休復帰率も高水準を維持しており、子どもの急な体調不良による当日有休の取得なども、現場で互いにカバーし合える体制が整っています。これらの制度は決して上から押し付けたわけではなく、現場の事情や要望に合わせて柔軟に対応してきた結果出来ていったものであり、真面目で責任感の強い社員が力を発揮できる環境が自然と形づくられています。
ーー最後に、今後の事業展望と注力されるテーマについてお聞かせください。
岡幸一:
現在は売上の約8割をドラッグストアのPB製品やOEMが占めていますが、将来的には自社ブランド(NB)を中心とした事業構造へとシフトしていくことで、より社会貢献性を高めていく方針です。50年先を見据えた長い道のりになるかもしれませんが、まずは数年後からNBの比率を本格的に高めていきたいと考えています。
その目標に向けて不可欠なのが、マーケティングやブランディング戦略の強化です。以前はそこまで注力できていませんでしたが、エンドユーザーの皆様の困りごとを直接解決しようとすると、市場の声を深く理解する仕組みがなければ新たな開発を進めることは困難でしょう。広報活動などを通じて顧客との接点を持ち、知見を社内に蓄積していくことが非常に重要だと捉えています。
また、社会全体で課題となっている将来的な人手不足を見据え、DXやデジタル化の推進も急務です。書類のペーパーレス化にとどまらず、柔軟な働き方や突発トラブルに対応できる生産計画の管理など、デジタル技術を柔軟に活用して業務効率化を図らなければなりません。私たちが目指す姿は、単なる救急絆創膏の製造会社にとどまらない、エンドユーザーに新たな豊かさを提供する開発型企業への進化です。「体に貼る」という弊社のコア技術を伸ばし、傷のケアだけにこだわらず、関節をサポートするテーピングや就寝時の鼻呼吸を促す口閉じテープなど、皆様の生活の中にある多様な悩みを解決するものづくりを力強く進めていきます。
編集後記
「一人のユーザーの切実な声」に真摯に耳を傾け、積み重ねてきた高い技術力を惜しみなく注ぎ込む姿勢に、確固たる誇りと温かな優しさを感じた。OEMで培った確かな品質向上への追求を盤石の基盤とし、自社ブランドの強化やデジタル化といった新たな躍進へ向かう東洋化学。「体に貼る」というアプローチで人々の生活の質を高めていく同社の挑戦に、今後も期待が高まる。

岡幸一/1956年4月28日、滋賀県生まれ。京都薬科大学卒業。小野薬品工業株式会社を経て、滋賀県職員(薬剤師)として勤務。1986年4月に東洋化学株式会社に入社。専務取締役を経て2003年5月、代表取締役に就任。