
サイバー攻撃が高度化する現代において、「侵入されても発症しない」という画期的なアプローチで企業の重大な情報やシステムを守り、注目を集める株式会社AppGuard。従来型のセキュリティとは一線を画す独自技術で、日本から世界へと事業を展開している。大手電機メーカーや外資系IT企業で最前線を走ってきた代表取締役社長の坂尻浩孝氏は、なぜ同社を自身の活躍の場として選んだのか。自社製品の強みや新たに策定したパーパス、そして国産ベンダーとして世界市場へ挑む今後の展望について詳しく話を聞いた。
外資系でのジレンマを経て選んだ「日本発」の挑戦
ーー転職を決意したきっかけと貴社に参画するまでのご経歴について教えてください。
坂尻浩孝:
自分が活躍できる領域を広げ、より本質的な仕事に挑戦したいと考えたことが転職のきっかけです。新卒で大手電機メーカーに入社し、約10年間エンジニアとして設計やプリセールスに携わった後、外資系のプロバイダーやセキュリティ企業へ転職しました。ただ、私が所属していた外資系企業の日本法人における主な役割は、海外の本国でつくられた製品をそのまま日本市場で販売することです。日本の市場規模の観点から、日本のお客様の声を本国の開発チームに伝えて製品改善に反映させることが極めて難しく、歯がゆいジレンマを抱えていました。
一方、弊社(AppGuard)は日本に本社を置き、製品開発においても現場の声や日本のニーズを直接反映できる強い影響力を持っています。日本発の製品として国内のお客様へ価値を届けるだけでなく、日本から再び世界市場へと挑戦していける環境に大きな面白みを感じ、参画を決めました。
「侵入されても発症しない」 革新的なテクノロジー
ーー日本発の製品として世界を目指す中で、貴社の製品のどんな点に魅力を感じましたか。
坂尻浩孝:
「侵入されても発症しない」という概念が非常に斬新だったことです。サイバーセキュリティは長年、攻撃者が防御を上回る手口を考え、それを防御側が防ぐというイタチごっこを繰り返してきました。近年は侵入されることを前提として、システムに入り込んだ脅威を見つけて対処する形が主流ですが、それだと運用担当者に24時間体制の監視など、多大な負荷がかかります。従来の対策は、侵入した脅威を人の目やAIで見つけ出し、対処するという流れが一般的でした。
しかし、弊社のテクノロジーは「許可された安全な命令しか実行させない」という根本的な防御設計になっています。そのため、攻撃の手口を分析したり人の判断を仰いだりする必要がなく、未知のウイルスが侵入した場合でも、内部で悪さをさせない(発症させない)状態でシステムを完全に守り切ることができます。特定用途の端末や機械だけでなく、一般的なパソコンやサーバーに適用でき、実用化されている点に衝撃を受けました。
ーーそのテクノロジーは、現在どのような企業やシステムで導入が進んでいるのですか。
坂尻浩孝:
情報漏洩やシステム停止が事業の存続にかかわるような、重要インフラを担う企業から専任の情報システム担当者が不在の中小企業など幅広く導入されています。数万台のスケールで運用される大手航空会社の端末をはじめ、大手旅行会社といった高度な安全性が求められる環境で活用されています。また、インターネットから分離された閉域環境で運用される病院の電子カルテシステムや、製造業の工場をコントロールする現場など、従来のセキュリティ対策を導入しづらい環境で重宝されています。さらに、OSのバージョンに依存せずにシステムを守り切れるため、業務の都合上、古いOSを使い続けなければならないシステムの延命対策としても高い効果を発揮しています。
「ANSHIN」を日本から世界へ届ける

ーー幅広い業界のシステムを守る中で、パーパスに込められた思いをお聞かせください。
坂尻浩孝:
私たちは「テクノロジーと知性の力で世界にANSHINを届ける」というパーパス(存在意義)を掲げています。サイバー攻撃によって事業が停止することは、経営者にとって非常に不幸な事態です。ですから、事業を継続できる「安心」を、そして現場の運用担当者にはサイバー攻撃から守られているという「安心」を感じていただきたいと考えています。夜もゆっくり眠れるといった日常の安心も含めて、弊社の技術への安心を実感していただくことが目標です。この「安心」を海外にも届けるべく、あえてローマ字で「ANSHIN」と表記し、日本の言葉とともに私たちの事業を世界へ発信しています。
ーー世界市場に挑む上で、今後の海外展開や組織の未来に向けた展望をお聞かせください。
坂尻浩孝:
今後はアジア太平洋地域も視野に入れ、日本発の国産サイバーセキュリティ企業として世界中のより多くの市場へ「ANSHIN」を届けていきます。売上高の8割以上はまだ日本国内が占めている段階ですが、海外市場でも着実に実績を重ねています。すでに米国の政府機関や大手グローバル企業で導入されているほか、欧州でも自治体レベルで活用されています。
弊社の環境には、テクノロジーの力との知性で日本から海外市場へ挑戦できる数少ないチャンスがあります。私たちの考えに共感し、一緒にサイバー空間の安全を確立していく仲間とともに、世界で通用する国産ブランドとしてのポジションを確立していきたいですね。
編集後記
最も胸を打たれたのは、坂尻社長の口から語られた「安心」という言葉の温かさと重みだ。最先端のテクノロジーを追求しながらも、その真の目的は顧客の事業継続を守り、現場担当者の穏やかな日常を支えることにあるという確固たる使命感がひしひしと伝わってきた。長年の葛藤を乗り越え、自社の技術に惚れ込んだ経営トップが率いるチームが、国産ブランドとして世界へ羽ばたこうとする熱き挑戦。これからのさらなる飛躍を期待せずにはいられない。

坂尻浩孝/1962年、埼玉県出身。1988年、横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了後、総合電機メーカー、外資系サービスプロバイダー、外資系セキュリティベンダーなどを経て、株式会社AppGuard(旧株式会社Blue Planet-works)の起業に参画。製品・技術責任者を経て2024年3月、代表取締役社長に就任。