
広島県福山市を拠点に、半導体関連の製造装置やプリント基板などを手掛ける株式会社石井表記。独自のニッチな技術力で、世界中のモノづくりを根底から支えている。2023年に代表取締役社長に就任した山本晋宏氏は、設計一筋の技術者としてキャリアをスタートさせ、フィリピンでの工場立ち上げや営業活動の最前線など、多岐にわたる現場を経験してきた。数々の困難を乗り越え、多角的な事業展開と組織改革を進める山本氏に、モノづくりへの信念と今後の展望をうかがった。
技術者からフィリピンの工場責任者へ ゼロからの挑戦
ーーまずは、これまでのご経歴を教えていただけますか。
山本晋宏:
大学の機械工学科を卒業後、設計事務所を経て、8年ほど機械設計に携わりました。その後、子どもの小学校入学を機に地元へ戻り、石井表記に入社したのです。配属された機械設計課では、技術職としてキャリアを積んでいきました。
ーーフィリピンの工場責任者に抜擢されたそうですが、どのような背景があったのですか。
山本晋宏:
当時、弊社では印刷関係の事業を展開しており、海外で設備を製作するための新工場を立ち上げる計画がありました。その頃、私は機械設計課の課長を務めていたのですが、新工場の立ち上げという重要なミッションを牽引する役割として声がかかり、二つ返事で「行きます」と回答しました。現地には、日本で研修を受けていた日本語が話せるフィリピン人のスタッフと共に向かい、彼らに通訳を助けてもらいながら、手探りで工場の立ち上げに臨みました。
ーー現地での立ち上げにおいて、特に苦労されたことは何でしょうか。
山本晋宏:
現地にいる日本人の方々との付き合いです。それまでは設計一筋でしたので、社外の方との関わりといえば現場サイドのみでした。しかし、現地へ行くと他社のオーナー層の方々と交流することになり、価値観の違いに戸惑うことも多かったです。
また、赴任直後に市場全体の設備投資が冷え込み、厳しい状況に直面しました。そこで、既存の枠にとらわれず現地で異業種のお客様のもとへ積極的に足を運び、新たな設備の受注につなげていったのです。スペックの打ち合わせなどの営業活動から設計、製作、納品、そしてアフターフォローまで全て自分で行いました。この経験は、帰国後も大いに生かされています。
小回りの効く「一貫生産」と「少量多品種」への対応力

ーー帰国後はどのような役割を担いましたか。
山本晋宏:
設計畑に戻り、次第に技術全般を見るようになりました。そして、ある日突然、「事業全体を見るように」と言われたのです。営業的な業務はフィリピンで経験したのが初めてだったのですが、あの時に一連の業務を一貫して手掛けた経験があったからこそ、対応できたのだと思います。
ーー現在の主要な事業内容と、それぞれの強みについて教えてください。
山本晋宏:
現在は主に3つの事業を展開しています。まず、「装置事業」では半導体関連の設備などを扱っています。強みは、すべてお客様の仕様に合わせて完全オーダーメイドで製作していることです。お客様の仕様に応じて装置の高さや横幅などを変えられるため、細かなご要望にもお応えできます。
次に「デバイス事業」では、印刷を中心に、工作機械の操作パネルや車の内装、タッチパネルなどを手掛けています。最後に「インクジェット事業」では、液晶テレビの配向膜を塗るための大型インクジェット装置などを扱っています。
ーーデバイス事業において、お客様からはどのような点で評価されていますか。
山本晋宏:
設計から基板印刷、そして筐体の板金加工まで、すべて一貫して自社で手掛けられることです。他社の場合、基板の製作など一部の工程のみを担うこともありますが、弊社はその全工程を社内で完結できるため、お客様の手間を大幅に省けます。また、大手企業があまり手掛けない小ロット・多品種の製造が得意です。小回りがよく利くという点で、国内の中堅企業のお客様から大変喜ばれています。
変わらぬ「モノづくりの信念」と、進化する「自立的な組織づくり」
ーーモノづくりにおいて、社長が最も大切にされている信念は何でしょうか。
山本晋宏:
若い頃に面倒を見てくれていた先輩から教わった言葉があります。それは、仕入先に対しては「買っているのではなく、売ってもらっている」、お客様に対しては「物を売ってやっているのではなく、買っていただいている」と思うこと。つまり、常に相手の立場で考えるということです。この姿勢を持っていれば、モノづくりも仕事全般も必ずうまくいくと信じており、定期的に社員にも伝えています。
ーー今後の組織づくりや事業展開について、どのような展望を描かれていますか。
山本晋宏:
各事業部を1つの単位の会社と考え、独立採算制に近い形で運営しています。すべての事業が本業だと思っていますので、それぞれが自立して競争力を持つことが重要です。
その一環として、2025年からは事業部ごとの業績を反映する評価制度を導入しました。業績を考慮し、賞与などに反映する仕組みです。当初は反対する声もありましたが、成果を上げた部署の頑張りに報いることが、社員の意欲につながると考えています。実際に導入してからは、「会社が認めてくれている」という好意的な声も聞かれるようになりました。今後も社員の頑張りに報いる環境を整えながら、各事業をさらに成長させていく決意です。
編集後記
技術者としてのルーツを持ち、フィリピンでの地道な営業や現場対応を経て、経営トップへと上り詰めた山本社長。言葉の端々から、現場を誰よりも知る者ならではのリアリティと、モノづくりへの深い愛情が感じられた。「買っていただいている、売ってもらっている」という謙虚な姿勢は、同社が長年お客様から信頼される最大の理由だろう。独立採算制による組織改革という新たなフェーズに入った同社が、今後どのような進化を遂げるのか、さらなる飛躍に期待が高まる。

山本晋宏/1963年広島県生まれ。日本大学工学部機械工学科卒業後、設計事務所を経て1994年に石井表記入社。機械設計に携わった後、フィリピン子会社で3年間工場責任者を務める。帰国後、技術・営業部門の要職、装置事業本部長兼インクジェット事業本部長を歴任し、2023年4月に代表取締役社長に就任。