※本ページ内の情報は2026年11月時点のものです。

1890年の創業以来、北九州の若松港築港を皮切りに日本の近代化とインフラ整備を支え続けてきた若築建設株式会社。同社は現在、海上・陸上土木から建築まで幅広い事業を展開している。2026年に代表取締役社長に就任した長廻幹彦氏は、設計、現場、経営企画と多様なフィールドで実績を積んできた。「従業員が楽しく働けることが、すべての源泉」と語る長廻社長に、これまでの歩みや企業理念への思い、洋上風力発電やDX推進など未来への積極的な投資について詳しくうかがった。

設計、現場、提案書。三つの経験が育んだ多角的な視点

ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。

長廻幹彦:
入社後は土木設計部に配属され、そこで14年間勤務しました。弊社の仕事は公共工事の比率が大きいため、ゼロから設計するというよりは、実際の現場で条件が異なった際の設計変更などの相談に乗り、図面を修正していく業務を主に担当していました。現場の最前線に何度も顔を出し、お客様とも直接対話しながら進める仕事は、非常にやりがいのあるものでしたね。そうした中、社内から「現場を経験したほうがいい」と声をかけられ、35歳で常陸那珂港の現場へと異動しました。

ーー14年間の設計業務から、現場の最前線に出られていかがでしたか。

長廻幹彦:
現場の職員としては新入社員と同じ立場ですから、生活環境も含めて大きなターニングポイントになりました。常陸那珂港での経験を経て、その後は労働組合の委員長を2年経験し、東京港の有明工事事務所の責任者を任されることになります。現場では他社と一緒に仕事をすることも多く、表面上は競争相手であっても、隣同士で協力し合わなければ物事はうまく進まないということを肌で学びました。みんなでつくり上げるという建設業の根本的なイメージや、他社の技術者との交流は、設計部にいた頃には得られなかった貴重な経験です。

ーー現場の責任者として、どのようなことを大切にされていたのでしょうか。

長廻幹彦:
建設工事は一人でできるものではありません。弊社の社員はもちろん、協力会社の皆様、そして発注者様も含め、関係する全員でつくり上げるものです。そのため、私はそれぞれが持ち場をしっかり発揮できるような環境づくりを最も重視していました。極端な言い方をすれば、方向性だけをしっかり示し、あとは皆が気持ちよく仕事ができるようサポートに徹するということです。設計部で培った知識や柔軟な発想も、現場での問題解決に役立っていたと思います。

ーーその後、技術提案書を作成する業務にも長く携わられたのでしょうか。

長廻幹彦:
入札の方式が総合評価方式に変わり、単に金額だけでなく、工事の進め方や品質確保に向けた技術提案書が評価されるようになりました。図面を読み解き、弊社ならどう進めるかを提案するこの業務を約10年間担当しました。結果が直結する厳しい世界でしたが、受注できたときの充実感は非常に大きかったです。振り返ると、設計、現場、そして技術提案と、三つの異なる立場から建設の仕事に携われたことが、事業全体を深く理解する上で大きな財産になっています。

「従業員が一番大事」バランスを重視した経営と社長就任への思い

ーー経営企画部へ異動し、会社全体を見る立場としてどのようなことを重視されていますか。

長廻幹彦:
経営企画部に入り、株主様や長期的な事業計画と向き合う中で、「会社とは誰のものか」ということを深く考えるようになりました。会社には、株主様、お客様、協力会社様など多くのステークホルダーが存在します。経営においては、このバランスをとることが不可欠です。ただ、その中でも強いて言えば、人生をかけて働いてくれている従業員が一番大事だと私は考えています。従業員が気持ちよく力を発揮し、楽しく仕事をすることが、結果的にすべてのステークホルダーの期待に応える最大の源泉になるからです。

ーー従業員が楽しく、誇りを持って働けるよう、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

長廻幹彦:
会社の歴史やアイデンティティを社員に知ってもらうことが重要だと考えました。北九州の若松にある「わかちく史料館」の展示を強化したり、土木学会が認定する選奨土木遺産に、私たちが初期に手掛けた構造物を申請し、認定を受けたりしました。明治時代、石炭を運ぶために港を整備した私たちの仕事が、日本の近代化を支えたのだという歴史的な意義を知ることで、社員が自社の仕事にプライドを持てるようになれば嬉しいですね。

ーー今年、社長に就任されましたが、その際の思いを教えてください。

長廻幹彦:
打診を受けたのは就任直前の2月で、非常に急な話でした。いざ社長になってみると、130余年続く企業を背負う責任の重さを痛感しています。最大の務めは、この歴史と、弊社が持つ責任感や和やかな空気感といった素晴らしい社風を、次の10年、20年へとつないでいくことです。建設業は現地に赴いてモノをつくるため、日々問題の連続と言っても過言ではありません。しかし、その問題を仲間と一緒に前向きに解決していくことこそが仕事の楽しさです。そうしたやりがいのある仕事ができる空気を、引き続き守っていきたいと考えています。

創業から変わらぬ「内外一致 同心協力」の理念と事業の強み

ーー貴社の事業内容と、他社にはない強みについて教えてください。

長廻幹彦:
弊社の事業は、大きく分けて海上の土木が3分の1、陸上の土木が3分の1、そして建築が3分の1という構成になっています。このバランスの良さが強みの一つです。もう一つは、海と陸の土木技術者を明確に分けず、双方が行き来する環境があることです。これにより、お互いの技術や視点を両方の現場で活かすことができています。また、官公庁の仕事が多く、実績主義の世界において、過去の先輩方がきちんと仕事を仕上げてきた信頼の蓄積が、現在の弊社の基盤となっているのです。

ーー現場における強みや、仕事の進め方についてはいかがでしょうか。

長廻幹彦:
近年は業界全体で人手不足が進み、現場の職員が直接現場を見ず、協力会社様に任せきりになる傾向も見受けられます。しかし弊社では、職員がしっかりと現場を見て、作業員の方々とコミュニケーションを取りながら進めるのが基本方針です。協力会社様からも「働きやすい」というお声をいただくことが多く、職員が現場を深く理解しているからこそ、安全面や品質面での高い信頼につながっているのだと自負しています。

ーー長年受け継がれている企業理念について教えてください。

長廻幹彦:
弊社の企業理念の一つに「内外一致 同心協力」という言葉があります。これは初代社長が、若松港の築港事業を振り返って述べた言葉に由来するものです。社内の人間だけでなく、発注者様や地域の方々も含めた内外の皆が心を一つにして協力し合うことで、初めて大きな事業を成し遂げることができるという思いが込められています。そして、この理念を実現するために、「品質と安全を確保し、お客様の信頼を高めて社会に貢献する」という経営理念を掲げ、日々の業務に取り組んでおります。

災害復旧から新エネルギーへ 未来を切り拓く積極的な投資

ーーこれからの事業展開として、注力されている分野を教えてください。

長廻幹彦:
私たちが手掛ける事業の大きな柱の一つが災害復旧工事です。近年、地震や豪雨などの災害が増加していますが、被災したインフラを復旧させることは建設会社の社会的使命だと考えています。利益の大小にかかわらず、困難な現場であっても全力で取り組んでいく姿勢は今後も変わりません。

そしてもう一つ、新たな事業領域(フロンティア)として注力しているのが、新エネルギー分野、特に洋上風力発電です。社会が再生可能エネルギーへシフトしていく中で、私たちが得意とする海の土木技術を活かし、他社と共同で大型の作業船を建造するなど、積極的な投資を進めています。

ーー洋上風力だけでなく、自社保有の新しい船も建造中だとうかがいました。

長廻幹彦:
防波堤の材料となる巨大なコンクリート構造物などをつくるためのフローティングドックという船を単独で建造しています。これからの時代、インフラの強靱化や急速な施工がますます求められるようになります。そうした社会的なニーズや安全保障上の課題にも迅速に対応できるよう、独自の機材投資を行っているところです。

ーー海外での事業展開についてのお考えを教えてください。

長廻幹彦:
海外事業については、アジアを中心とした港湾整備などのプロジェクトに携わっています。港というインフラは、自国だけでなく、相手国の港も整備され、ネットワークがつながって初めて貿易の拠点として機能するものです。為替などの影響もあり、すぐに大きな利益が出る事業ではありませんが、世の中のためになる重要な取り組みだと考えています。人材を育てながら、粘り強く継続していきたいですね。

次世代を担う若手の力とDXの推進で、社会課題を解決し続ける

ーー事業を牽引する人材の採用や育成は、どのように進められていますか。

長廻幹彦:
幸いなことに、ここ2、3年は20代の採用が順調に進み、社内の同年代の割合が増加しています。彼らのポテンシャルを引き出すことが、今後の成長の鍵です。育成面では、現場でのOJTに加え、20代の能力を定期的に振り返るサポートプランを策定し、資格取得の支援にも力を入れています。現場の経験を積みながら、着実に成長できる環境を整えているところです。

ーー建設業界の課題であるDX推進については、どのような取り組みをされていますか。

長廻幹彦:
現場の省力化は急務であり、最新技術の導入を進めています。具体的には、ドローンやレーザースキャナーを活用した地形の3次元データ取得や、カメラ映像の解析を用いた安全管理などがその一例です。一方、バックオフィスにおいても基幹システムを刷新し、デジタル化による業務効率化を図っています。間接部門の業務をスリム化し、より現場を支援できる体制を構築したいと考えています。

ーー最後に、今後の展望と読者へのメッセージを教えてください。

長廻幹彦:
弊社は創業以来、社会問題の解決に向き合ってきた会社です。これからも建設工事を通じて、皆様の安全な暮らしや社会の発展をサポートし続ける存在でありたいと思っています。そのためには、新エネルギー分野への投資やDXの推進、そして人材の育成を止めることなく進めていかなければなりません。社会の需要に応えていくという使命を胸に、これからも挑戦を続け、持続可能な社会の実現に向けて全社一丸となって邁進してまいります。

編集後記

130余年の歴史を持ちながら、未来への投資を続ける若築建設。インタビューで印象的だったのは、「従業員が楽しく仕事できることが最大の源泉」という長廻社長の揺るぎない信念だ。現場と経営の両視点を熟知するからこそ、その言葉には確かな説得力があった。洋上風力発電やフローティングドック建造などの挑戦を支えるのは、「内外一致 同心協力」の精神と、成長する20代社員たちの力なのだろう。同社が切り拓くインフラの未来から、目が離せない。

長廻幹彦/1964年、島根県出身。1987年京都大学工学部土木工学科卒業後、若築建設に入社。東京支店総合評価対策室長、東京支店副支店長、執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員を経て2026年4月、代表取締役社長に就任。