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1573年に両替商として始まり、近代では酒造、酒販、コンビニ運営へと形を変えながら450年以上続く株式会社大津屋。常に時代のニーズに寄り添い、地域から愛され続けている老舗企業だ。2011年に同社へ入社し、厳しい経営状況から見事に業績を立て直したのが、株式会社大津屋の第三十代 当主、大津屋孫左衛門氏である。お客様の要望に応える柔軟な発想で会社を牽引する同氏に、独自のビジネスモデルや今後の展望についてうかがった。

食への思いから始まったキャリアと老舗企業での改革

ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。

大津屋孫左衛門:
私は神奈川県で生まれ、幼少期の一時期をイギリスで過ごす機会がありました。当時、異なる食文化に触れる中で、改めて日本の食事のおいしさやありがたさを実感し、「美味しい食事は人を幸せにする」という強い思いを抱くようになったのです。そこから食産業に関心を持ち、将来的に複数店舗を展開するような経営感覚を養いたいと考え、2008年に株式会社ベンチャー・リンクへ入る道を選びました。しかし、直後にリーマン・ショックが起き、非常に厳しい経営環境に直面することになります。そこで、外食産業や小売業で幅広く経験を積んだ後、2011年に妻の実家がある福井へ移住し、大津屋でのキャリアをスタートさせました。

ーー貴社に入社された当初、会社はどのような状況だったのでしょうか。

大津屋孫左衛門:
入社当時は業績が非常に厳しく、まずは足元の改善から取り組む必要に迫られていました。そこで着手したのが「美味しさ」の徹底した追求です。お弁当のバイキング形式を導入し、店内調理を強化し、常にお客様へ出来立てを提供するオペレーションへとシフトさせました。地道な改善が実を結んで業績が回復し、テレビ番組『カンブリア宮殿』などでも取り上げられるようになった結果、さらなる成長を遂げることができたのです。その後、大学院での学び直しを経て2021年に現場へ復帰し、コロナ禍で打撃を受けた店舗の立て直しや新規事業を推進しました。そして38歳で社長に就任し、現在も柔軟な多角化戦略に力を注いでいます。

地域からの声に応え続ける多角化と内製化の強み

ーー450年以上続く歴史の中で、事業はどのように変化してきたのですか。

大津屋孫左衛門:
弊社の歴史は事業転換の連続です。もともとは両替商に始まり、近代では酒造りからコンビニエンスストア、さらにはパーキングエリアの運営へと領域を広げてきました。これらは初めから緻密な計画があったわけではなく、地域のお客様や行政、取引先からの「こんなことできないか」という声にお応えしてきた結果です。いただいたお声に対して、社内にある資源を組み合わせて試行錯誤するうちに新しい事業として形になり、それがまた次のお声がけにつながっていく。このサイクルこそが、弊社の成長の歴史そのものだと言えます。

ーーさまざまな事業を展開される中で、貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。

大津屋孫左衛門:
最大の強みは「内製化」へのこだわりと言えます。たとえばコンビニ事業では、店内調理によって出来立てを提供する仕組みを作り上げました。また、パーキングエリアの運営においても、問屋に全てを任せるのではなく、自社で直接仕入れ先を開拓し、独自の品揃えを追求し続けています。商品の選定から入れ替えまで、大切な意思決定を自社で行う本部機能をしっかりと備えているからこそ、他社にはない魅力的な売り場づくりができていると考えています。

「縁で始め、資源で育て、戦略で絞る」未来への展望

ーー今後、会社としてどのようなビジョンを描かれていますか。

大津屋孫左衛門:
私たちは「縁で始め、資源で育て、戦略で絞る」という考え方を大切にしています。最初から壮大な事業計画を掲げるのではなく、目の前にあるご縁やお客様の要望から小さく始め、手応えのある領域に資源を集中させていくアプローチです。これまでも、そうやって地域から必要とされる役割を見つけ、形にしてきました。これからも、時代の変化に合わせて柔軟に姿を変えながら、地域社会に貢献し続ける企業でありたいと思っています。

ーー具体的に、現在新しく取り組まれている事業について教えてください。

大津屋孫左衛門:
直近では、社員食堂の運営、社内売店、そして旅館の無人売店という3つの新しい取り組みを始めています。特に旅館の売店は、品揃えや価格、営業時間を最適化することで売上高が大きく伸び、お客様にも大変喜ばれています。また、外部企業との連携にも力を入れており、最新技術のテストマーケティングの場として弊社の店舗を活用していただく機会も増えました。外部の方と組んで新しい事業をつくることで新しい価値を創造し、地域から必要とされる企業へと進化していきます。

編集後記

450年以上の歴史を持ちながら、決して現状に満足することなく変化を続ける大津屋。その根底には、目の前の声に真摯に向き合う姿勢があった。壮大な計画から逆算するのではなく、ご縁を大切にしながら小さく試し、独自の強みへと育て上げていくアプローチは、先行きが不透明な現代において多くの企業のヒントになるだろう。地域に深く根差し、新たな商いの形を模索し続ける同社の未来に期待したい。

大津屋孫左衛門/1985年神奈川県生まれ。幼少期を国内外で過ごす。慶應義塾大学経済学部卒業後、ベンチャー・リンクに入社。小売・ECの現場経験を経て、2011年に大津屋入社。2015年専務取締役、2023年代表取締役社長に就任。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。2024年、第三十代大津屋孫左衛門を襲名。新規事業開発や事業改革を推進する。