※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

1990年代から東京を中心に多様な飲食ブランドを展開し、外食文化の一翼を担ってきた株式会社テイクファイブ。創業から30年以上の歴史を刻む同社は、洗練された外食文化の原体験をもとに「自分が本当に通いたいと思えるお店」という視点で次々と人気店を生み出してきた。しかし、コロナ禍を経て経営の舵を大きく切り、トップダウンによる「社長が引っ張る会社」から、「スタッフの成長が会社の成長につながる会社」である自律型組織へと進化を遂げつつある。現在では飲食店の経営を追求しながらもその枠を超え、レストランや飲食店ができる新しい価値の提供を目指しているという。同社の代表取締役である遠山和輝氏に、組織変革の裏側と未来への展望を聞いた。

遊びの中から生まれた「本物の外食文化」への憧れ

ーーまずは、外食産業に興味を持った原体験をお聞かせください。

遠山和輝:
幼少のころから、祖母が営む焼肉店に出入りするなど、飲食店に触れる環境にはありました。ただ、本格的に興味を持ったきっかけは学生時代です。当時、六本木や赤坂、銀座などへ遊びに行く中で、洗練された外食の体験を重ねていきました。また、親族が麻布や六本木界隈でレストランやバーを経営しているのを目の当たりにし、文化レベルの高い大人たちが通うレストランに対する強い憧れを抱いたことが原体験となっています。

ーー創業当初は、どのような考えで店舗づくりを手掛けていたのですか。

遠山和輝:
「自分が行くなら、こんなお店」という視点を最も大切にしていました。最初に出店したのは表参道の「レッドペッパー」というイタリアンのお店です。当時の青山周辺には、5,000円前後で食べられるカジュアルなイタリアンレストランがありませんでした。私自身もまだお金がありませんでしたから、少し格好をつけて行けて、なおかつお財布にも優しいカジュアルなお店をつくりたかったのです。レストランやバーの流行を、どの街で、どんな塩梅で表現したらいいかなど、街の特性をよく考えて出店戦略を練っていました。

本物を追求するこだわりと初来店のお客様をファンに変える仕組み

ーー現在も多店舗展開されていますが、貴社の強みはどこにあるとお考えですか。

遠山和輝:
お客様とのコミュニケーションを増やし、常連様を増やしていくことを大切にしています。そのために、初来店のお客様には「初めてですか?」とお声がけをし、私たちのお店でしか食べられないメニューをご紹介します。

実際に食べていただいた方には感想をお伺いしたり、どんなきっかけで、私たちのお店を選んでくださったのかなどをヒアリングしたりしながら、再度ご来店いただけるようコミュニケーションを図ります。次に食べてほしい料理などもご紹介し、常連様になっていただくための行動をとっています。

さらに、地域との関係性を強め、「地域に愛される存在になる」という意識を持っていることも強みです。地域のイベントに積極的に参加するなどして、地域の人たちに安心して来てもらえるお店になろうと心がけていることだと思います。

「社長が引っ張る会社」の限界と手放す覚悟

ーー長年会社を成長させてきた中で、コロナ禍は組織にどのような影響がありましたか。

遠山和輝:
これまでの「社長が引っ張る会社」には限界があると痛感しました。創業から長らくは私が率先して引っ張ってきましたが、会社が永続的に成長するためには、スタッフの成長が会社の成長につながる「自律型組織」へと変化を遂げなければなりません。そう気づいてからは、組織のあり方を根本から見直そうと決断しました。

ーー組織を根本から見直すにあたり、ご自身の中で意識されたことは何でしょうか。

遠山和輝:
「正解を教えるのをぐっと我慢する」ことです。以前は、失敗しないように私が先に答えを教え、成功を促していました。しかし、それでは従業員の主体的な成長を妨げてしまいます。時々口を出してしまうこともありますが、今は基本的に社員の考えを聞き、信頼して任せるようにしています。本当の意味で失敗を許容し、彼ら自身が現場で悩んで経験を積むことが大切であり、それが結果として自律した組織づくりにつながるのです。現在は基盤を変革中ですので全てが少しずつの変化ではありますが、各部門が自ら目標を立てて動けるようになってきており、少しずつ手応えを感じています。

飲食店経営を追求しながらも、飲食店の枠を超えて「こだわりの食事の場」を提供できる企業へ

ーー自律した組織へと進化する中で、今後はどのような人材を求めていらっしゃいますか。

遠山和輝:
コミュニケーションを楽しむことができる人です。私たちの仕事は単に料理を提供するだけではなく、お客様との会話を通じて喜んでいただくことです。こうしたコミュニケーションこそが、AIにはできない人がやるべき仕事だと考えています。現在は、アルバイトさんの育成プログラムや社員登用にも力を入れており、失敗しても大丈夫という安心感の中で、成長の実感を持って働ける環境づくりを進めています。

ーー最後に、企業としての今後の展望をお聞かせください。

遠山和輝:
私たちが目指しているのは、単なる「店舗数の拡大」ではなく、「お客様に提供できる価値を増やす」という新しい企業のあり方です。具体的には、飲食店とお客様とのつながりをファンマーケティングのような形で深め、より近い関係をつくっていくこと。さらに、私たちのブランドを活かして、ご家庭でも「こだわりの食事の場」をつくってもらうという価値を提供したいと考えています。

コロナ禍に設立したセントラルキッチンの活用や生産性向上の取り組みは、あくまでこれらの本質的な価値を届けるための戦術に過ぎません。現場では失敗を許容し、社員に任せる自律型組織の構築を推進しています。従業員やキャストが自ら考え成長できる環境が整うことで、現在のアメリカ事業の更なる拡大にも必ず繋がっていくはずです。

編集後記

自身の原体験から生まれた「こんなお店に行きたい」という強い思いを原動力に、数々の人気店を形にしてきた遠山社長。最も心を打たれたのは、長年成功を収めてきたトップダウンのマネジメントを自ら手放した、社員を「待つ」経営者としての深い覚悟だ。「正解を言いたくなるのを我慢する」と語る言葉の裏には、従業員の主体性とポテンシャルを心から信じる強い熱量が宿っていた。AIにはできない人ならではの温かなコミュニケーションを大切にし、あらゆるシーンへ「こだわりの食事の場」を届けるという新たなビジョン。人が自律的に育つ土壌を持った株式会社テイクファイブが、今後どのような力強い未来を描いていくのか、期待が高まる取材となった。

遠山和輝/1968年、東京都生まれ。1991年、慶應義塾大学法学部卒業。旧イトマン株式会社へ入社。1年間外国為替ディーリングに携わった後、1993年5月に株式会社テイクファイブを設立。同年8月に「レッドペッパー表参道店」を開業。現在33期目。