
「3万から5万円が当たり前だった眼鏡をもっと自由に、楽しく、気軽に、Tシャツのように毎日着替えて楽しめるカルチャーをつくりたい」。株式会社インターメスティックが展開する「Zoff」はそんな思いからスタートした。日本のアイウェア業界にSPA(製造小売)モデルという変革をもたらして急成長を遂げた同社は、現在、人々の健康を守る「トータルアイケアカンパニー」への進化を掲げている。社会課題の解決に挑み続ける同社の代表取締役社長、上野博史氏に組織の強みと未来へのビジョンを聞いた。
過酷な制作現場で培った環境適応力と父の起業を支える決断
ーーまずは、ご自身のキャリアのスタートについてお聞かせください。
上野博史:
イギリスの大学院を卒業後、自分の考えを形にする仕事をしたいという思いから、テレビ・CM制作会社に入社し、映像制作の現場からキャリアをスタートしました。しかし、そこは多忙を極める厳しい環境で、長時間の業務が続いて自宅に帰る暇もない日々を過ごすなど、多くの試練を経験することになりました。ただ、あの過酷な現場のおかげで「あそこで耐えられたのだからどんなことにも耐えられる」という環境適応力が身につき、今の私にとって非常に大きな財産となっています。
ーーそこから、貴社へ参画された理由は何でしたか。
上野博史:
最大の理由は、現会長である父が60歳という年齢で会社を立ち上げたことにあります。その年齢からの起業となると身近に信頼できる右腕が必要ですが、周囲には適任の若手がいませんでした。そういった背景から、自然な流れで私がサポートに入ったのです。
父はもともとアパレル業界で長くビジネスをしており、その延長線上でライセンスビジネスなどを展開していました。その中で、取引先と「海外で眼鏡をつくれる仕組みがある」という話になったのが事業の始まりです。当時は眼鏡といえば3万から5万円ほどするのが当たり前の時代でした。それを安く提供できれば、ファッションの一部として眼鏡をかける新しいカルチャーがつくれるのではないか。そんな仮説のもとに「Zoff」のビジネスは大きくなっていきました。
アパレルの弱点を克服した独自のSPAモデルと品質への飽くなき探求
ーー独自のSPAモデルはどのような経緯で生まれたのですか。
上野博史:
父がアパレルビジネスの限界や弱点を肌で感じていたことが大きいですね。アパレルには常に在庫やシーズンの問題がつきまといますが、眼鏡であればサイズが小さいため管理がしやすく、明確なシーズンの縛りもありません。カラーバリエーションの展開や素材の制約もアパレルほど複雑ではないため、ビジネスモデルとして非常にコントロールしやすいメリットがありました。これらを掛け合わせた結果が現在のSPAモデルにつながっています。
ーー海外で製造を行う上で苦労された点はありましたか。
上野博史:
当初は福井県鯖江市で製造の9割を担っていたものの、その後は海外での生産へとシフトしていくことになり、数え切れないほどの苦労を経験しました。当時の海外生産は形だけは完成しても中身のクオリティは非常に低く、店舗でお客様の鼻パッドを調整しようとすると目の前で折れてしまうようなことが日常茶飯事でした。プラスティック生地の乾燥が不十分で水分が多く含まれていたり、フレームがねじれて納品されていたりするなど、安定した品質には程遠い状態が続いていたのです。
ーーその品質の壁をどのように乗り越えてこられたのですか。
上野博史:
お客様が求めている品質を提供できなければお店は立ち行かなくなります。その危機感を常に持ち、どうすれば品質を上げられるかを必死で模索しました。そこで、鯖江の熟練技術者にお願いして、弊社の社員数名とともに海外の生産拠点に住み込みで赴任していただいたのです。そのとき現地で徹底的に品質管理と技術指導を行った地道な努力の積み重ねが、現在の高い品質水準を支える礎となっています。
「半医半商」の理念に共感 社員が主役となる組織づくり
ーー現在貴社にはどのような思いを持った社員が集まっていると思われますか。
上野博史:
実は眼鏡業界出身で入社してくる方はそこまで多くはなく、他の業界からの転職者が非常に多いのが特徴です。彼らが惹かれているのは「社会を変える」という私たちのビジョンです。
眼鏡業界には「半医半商」という言葉があり、ファッションアイテムの販売にとどまらず、視力を測定して適切なレンズを提供するという医学的な側面も持ち合わせています。私たちはそこからさらに踏み込み、アイウェアを通じて社会課題を解決する企業を目指しています。こうした社会性や新しいカルチャーをつくり出す姿勢にやりがいを感じるメンバーが集まっていると思いますね。
ーー現場の店舗を支えるスタッフについて印象に残っているエピソードを教えてください。
上野博史:
新しいビジネスモデルをつくっていく中で、現場スタッフの力は不可欠でした。特に昔から支えてくれている、「レジェンド」と呼ばれる店長たちの存在は大きかったと思います。ファッションとしてメガネを訴求する中で、業界イメージの刷新は大きなテーマでした。常に新鮮な品揃えを訴求するうえで、接客においても現場スタッフによる積極的なアプローチが重要でした。
ある店長は遠くからでも聞こえるような活気あふれる挨拶をしており、眼鏡屋に持たれがちな静かで暗いイメージを、明るい接客によって新しいブランドイメージへと変えてくれたのです。
また、その店長には社会との接点の持ち方で悩んでいたご子息がいらっしゃいましたが、自身が店舗で一生懸命に働く姿を見て、そのご子息に変化があり、働き始めたのです。我々が彼らの情熱に助けられてきた一方で、彼らとそのご家族の人生に少しでも良い影響を与えられたのだとすれば、これほど嬉しいことはありません。単なる「会社と従業員」という枠を超え、互いに感謝し、長く支え合える血の通った関係性が社内に根付いていることを、非常に誇りに思っています。
社員の飛び込み営業から始まった学校公認サングラス導入の波

ーーアイケアを通じた社会課題解決に関する、具体的な取り組みをうかがえますか。
上野博史:
現在進めているものとして、学生向けの「サングラス啓発プロジェクト」があります。これは社員からの発案でスタートしました。健康のためにサングラスをかけるという信念を持ったメンバーが自らチームを発足させ、学校の教育現場の方々にその意義を伝えたいと立ち上がったのです。
最初は学校へのルートなど全くなかったため、関東の学校を中心に一件一件飛び込みで提案を重ねました。その熱意と信念が伝わり、一番初めに賛同していただいたのが東京都にある女子聖学院中学校高等学校です。国内の中学校高等学校で初となる「指定サングラス着用」を正式解禁し、定着に向けた生徒主導のプロジェクトが進行しています。
ーー学校への導入はその後どのように広がりましたか。
上野博史:
茨城県立水海道第一高等学校・附属中学校でも、公立初となる導入に向けて生徒会が中心となり、ルール整備や全校への啓発活動が進められてきました。その後、メディアで取り上げられたことや先生方の口コミなども影響し、現在の協力校は、出張授業や試験導入を含めて全国30校に到達しています。
少子化で学校側も特色づくりを模索する中、生徒自身がキーとなって取り組みを進める点に大きな意義を感じていただけているのでしょう。社員が自らどうやったら社会を変えられるかを考え、プロジェクトを動かして道を切り開いてくれたことを非常に誇りに思っています。
ーーサングラスに対する従来のイメージも変わりつつある実感はありますか。
上野博史:
よく「色が濃いほど紫外線をカットできる」イメージを持たれるのですが、それは大きな誤解で、レンズの色の濃さと紫外線カット率は無関係なのです。現在は、表情が見え、瞳孔の開きを抑える濃度20〜40%の薄色レンズを導入する学校が増えており、薄色でも紫外線を99%以上カットできるのです。
かつては「サングラス=不良」というネガティブなイメージがありましたが、それを覆すために生徒自身がプロジェクトチームを発足して全校や学会に向けて紫外線対策の正しい知識を啓発してくれています。生徒主導による校則改定やルール整備が進行中であることも心強いですね。若年層の目は水晶体が大人より透明で紫外線が透過しやすいです。だからこそ、若いうちから目をケアする健康のためのサングラスカルチャーをつくることが、今後の大きなテーマです。
トータルアイケアカンパニーへの進化と日本のサングラス着用率50%への道
ーー今後の展望としてどのようなビジョンを描いていらっしゃいますか。
上野博史:
まずは日本におけるサングラスの着用率を引き上げることが目標です。先進国では着用率が約70%程度あるのに対し、日本はまだ24.5%(自社調べ)にとどまっています。これを今後5年ほどのスパンで50%にまで引き上げたいと考えており、他社もサングラス市場に力を入れてきている状況です。競合が増えることは社会全体への普及につながるため、歓迎すべき流れだと捉えており、その中で度付きのサングラスなど弊社の強みである領域でしっかりと差別化を図っていく方針です。
ーー統合先企業との連携策についてお聞かせください。
上野博史:
昨年10月に、「メガネスーパー」を運営する株式会社ビジョナリーホールディングスと統合しました。今後、私たちは眼鏡販売にとどまらず、眼鏡やサングラス、コンタクトレンズを含めた「トータルアイケアカンパニー」への進化を目指していきます。統合先の企業とは客層や強みが異なります。彼らは年配のお客様が多く、最大の強みとしてコンタクトレンズ事業を展開しています。
眼鏡をかける方の多くはコンタクトレンズも併用しており、コンタクトは購買周期が短く長期的な関係を築きやすいビジネスです。だからこそ、顧客データの連携や弊社が持つSPAモデルのノウハウ共有など、お互いの強みを活かせる統合や連携の形を模索しているところです。
ーー最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
上野博史:
アイウェアの市場規模自体はそこまで大きくありませんが、私は非常に夢のあるビジネスだと思っています。なぜなら、アイウェアが持つ本当の価値に気づいていない方がまだまだたくさんいらっしゃるからです。
これまでは、決められたビジネスモデルを長く続けてきましたが、これからは市場の中身の構造改革こそが私たちの大きなテーマとなります。単なる利益追求の事業体にとどまらず、社会課題を解決し、社会をより良くしていくことを目指す企業として取り組んでいきます。この思いに共感し、一緒に社会を変えていきたいという情熱を持った方とぜひ共に働きたいと願っています。
編集後記
SPAモデルによるアパレルの弱点克服と、半医半商というメガネ業界ならではの特性を掛け合わせたビジネスモデル。上野博史氏の言葉からは、アイウェア業界における圧倒的な論理性とビジネスモデルに対する深い自信がうかがえた。しかし、それ以上に印象的だったのは飛び込み営業で学校という新たな市場を開拓した社員たちを誇らしげに語る姿だ。トップのビジョンに共鳴して現場の社員が自律的に動き、社会の常識を変えていく。その熱量こそが同社のブランドが放つ活気の源泉なのだろう。トータルアイケアカンパニーとして日本のアイウェアの常識をどのように塗り替えていくのか。彼らの飽くなき挑戦により、サングラス文化の新たな扉が開く。

上野博史/1973年、東京都渋谷生まれ。イギリスの大学院卒業後、テレビ・CM制作会社にて活動。2001年「Zoff」ブランドの立ち上げに参画し、株式会社インターメスティック取締役に就任。PR、マーケティング、商品開発、店舗設計等、あらゆるサービス設計のクリエイティブを担当し、全体のブランディングにも携わる。2020年11月、株式会社インターメスティックおよび株式会社ゾフの代表取締役社長に就任。