インタビュー内容
【ナレーター】
家電から生活用品、食品まで、多岐にわたる製品を手掛ける生活用品総合メーカー「アイリスオーヤマ株式会社」。
生活者の目線で不満や不便を解決する「ユーザーイン発想」のもと、年間で1000点以上の新製品を開発している。
近年ではロボティクス事業に注力をしており、のべ6000社以上(※1)の企業が導入。さらなる成長に向けた挑戦を続けている。
経営者が語る、「アイリスオーヤマ」の矜持とは。
【ナレーター】
自社の強みについて、アイデアを創出する量にあると大山は言い切る。
【大山】
プラスチック製品から木製品、金属製品、そこから家電、食品まで、お客様の不満をトータルで解決する、そんなものづくりを目指しています。私たちはアイデアを非常に大事にしており、毎週、年間で50回近く新商品開発会議を開いています。
新商品のアイデアだけではなく、お客様からのご意見なども、役員や営業・製造の責任者、加えて中国やアメリカの責任者なども交えながら、全員がいる場で議論します。そのアイデアがいいのか、それとも意見を取り入れるべきなのかを議論し、そこからものづくりにつなげていくんです。できるだけ早く、スピーディーに商品開発ができる体制を整えています。
たとえば、冷凍庫です。今まで、家庭に冷凍庫がある人はほとんどいなかったんですね。ただ、日本で共働き家庭が増える中で冷凍食品の消費が増え、冷蔵庫の冷凍室に入りきらなくなったというニーズに開発者が気がつきました。そこで、家庭にある無駄な隙間に置けるような商品を作れないかと考え、現在「スキマックス」という商品名で、隙間に入る冷凍庫を作り、新たなニーズを掘り起こしているところです。
【ナレーター】
大山の原点は、入社1年目のアメリカでの経験にある。2003年にアイリスオーヤマのアメリカのグループ会社に入社。当時、芳しくなかった業績の立て直しを図るべく、同年11月に同社のチェアマンに抜擢された。当時について、次のように振り返る。
【大山】
当時は、お客様に値上げを求めたり、工場を閉鎖したりしなければならない状況でした。その時、やはり経営トップとして従業員の皆さんの前で、会社の苦しい状況や、これからの方針について自ら発信し、理解をいただくことが大事だと感じました。
その経験から、会社としてリーダーシップを発揮しなければ社員の皆さんはついてこないということ、そしてしっかりとした方針を出して変えていかない限りは、企業業績は改善しないということを学びました。当時は積極的に新商品開発に取り組んだり、経営全体を見させていただいたりしたことが、社長になるための糧になったのだと思っています。
【ナレーター】
その後、2010年に帰国。グローバル開発部部長などを歴任し、40歳を迎えた2018年7月に代表取締役社長に就任した。カリスマ経営者と言われていた父の跡を継ぎ、1万人を超える従業員を率いる。プレッシャーはなかったのだろうか。
【大山】
不安と期待が半々でした。いわゆるカリスマ経営者の下で仕事をするのに慣れている社員が多かったものですから、チームで仕事をするにしてもトップダウンをいかに効率的に行うかという組織文化が強かったと感じています。
私が社長に就任した時は、創業者ではない私自身がカリスマ性を維持していくのは難しいだろうなと感じました。
創業者とは違い、成功に至るまでの失敗や成功体験、ノウハウがないので、創業者のようにはできないのであれば、トップダウン型の組織ではなく、ボトムアップやミドルアップといった形で、いかに社員のモチベーションやポテンシャルを生かしたチーム経営をしなければならない、そのような課題感を抱いていました。
【ナレーター】
どの領域で新規事業を行うのか。さまざまな意思決定をする中で、大山が重要だと感じている要素のひとつだ。その真意に迫った。
【大山】
新規事業をどこにするか、という点が一番大事だと思っています。社会全体に課題があること、それを解決するソリューションを持っていけるかどうかが、事業を判断する上での大きな材料になります。
たとえば、2012年に参入した食品事業です(※2)。当時は東日本大震災があり、津波の影響で沿岸部の農家さんが非常に大きなダメージを受けました。その時、農家さんをいかに支援し、復興させるかという大きな社会的ニーズが生まれたんですね。
私たちも被災企業ですから、日本全国、そして海外からもたくさんの支援をいただきました。それをどうお返しすべきかと考えた時に、単純に寄付をするのではなく、ビジネスとして復興できないかという発想から食品事業への参入を決めたんです。
※1: 2020年1月~2024年12月までのサービスロボットの累計導入社数(アイリス電工株式会社での販売分、及びトライアルを含む)
※2: 製品のリリースは2013年
【ナレーター】
大山は、いかに必要な機能を見極め、「値ごろ価格」を実現するかがアイリスオーヤマがメーカーとして最も重要にしていることだと語る。
【大山】
私たちは柔軟に物事を考えています。マーケットインといって、世の中にある商品をただ真似したり、同じ値段なら機能が一つでも多い方がいい、スペックが上だ、という考えでものづくりをしていくと、不要な機能が増えて価格も高くなってしまいます。
だからこそ「引き算の開発」と言っています。お客様が本当に求める機能と価格をベースに、そこからどうやって無駄を省き、ものづくりができるかを開発で突き詰めて考えているんです。
【ナレーター】
今後は、国内外問わず、新規事業を軸に、さらに事業を拡大していきたいと語る大山。見据える展望とは。
【大山】
国内に関しては、食品や消耗品をさらに伸ばしていきたいと考えています。今、国内は競争が非常に激しくなっており、購買活動もオンライン中心になってきたことで、お客様がいつでも買い物をする機会が増えています。
その時に一番大事なことは、お客様との接触頻度だろうと考えています。これまでは、どちらかというと年に1回、あるいは5年、10年に1回といった購入頻度の商品が多かったのですが、顧客との接点を増やすためにお米やお茶といった商品を広げながら、生活全体をサポートする事業を考えています。食品から最終的には家電までつながるような、そんなストーリーで生活をサポートしていきたいですね。
もう一つは海外です。中国のサプライチェーンが今、東南アジアに移動していることもあり、大きな社会変革が起きています。私たちは「変化がチャンス」と言っていますので、そのチャンスが生まれているというところで、積極的に北米、そしてヨーロッパ、中国の事業を伸ばしていきたいです。
今後私たちがフォーカスしていく事業の一つにロボティクス事業があります。日本は少子高齢化の中で労働人口がどんどん減っていくという大きな社会的ニーズがあると思っています。
それに対して私たちはサービスロボットという形で、まずはお掃除や配膳といったところから進めていますが、この人手不足をロボットやサービスで代替していくことで、少子高齢化の社会でも、日本が便利で、そして成長できる、そんな社会を実現したいと考えています。
【ナレーター】
求める人材像について、大山は次のように語る。
【大山】
私たちの採用基準は、意欲、人柄、能力という順番で決めています。アイリスオーヤマは事業の幅が非常に広いので、一つの分野で成功したことが他の分野でも成功する、そんなことがよくあります。ですから、自分の業務に没頭するのではなく、広い視野を持って、「今後5年、10年先はどうなるだろう」といったことを考えて行動してほしいと思っています。
アイリスオーヤマの平均年齢は約30歳で、若い方がマネージャーになり、30代の執行役員も2名います。そういった意味では、意欲さえあれば、さまざまなことに挑戦できる。それがアイリスオーヤマにとっての一番の魅力じゃないかなと思います。
■大事にしている言葉
【大山】
「変化はチャンス」です。世の中が大きく変わる時に、たくさんのニーズが生まれます。そのニーズにいち早く気づき、事業化するということが、企業競争の中で大事になってくると思っています。
「昨日までの満足は明日の不満になる」と創業者の会長がよく言っています。今いる立場に満足することなく、新しいこと、新しい事業を生み出していく。
それを支えるためには、やはり変化に目をつけ、そこから将来の需要を予測して取り込むことが大事だと考えています。だからこそ、変化はチャンスだと捉えているのです。
経営者プロフィール
| 氏名 | 大山 晃弘 |
|---|---|
| 役職 | 代表取締役社長 |
| 生年月日 | 1978年4月11日 |
| 出身地 | 宮城県仙台市 |
会社概要
| 社名 | アイリスオーヤマ株式会社 |
|---|---|
| 本社所在地 | 宮城県仙台市青葉区五橋2-12-1 |
| 設立 | 1971年 |
| 業種分類 | 電気機器 |
| 代表者名 |
大山 晃弘
|
| 従業員数 | 6,223名(2025年1月時点) |
| WEBサイト | https://www.irisohyama.co.jp/ |
| 事業概要 | 生活用品の企画、製造、販売 |