インタビュー内容
―人材への拘り―
【大山】
当社の企業理念第三条には、働く社員にとって良い会社を目指すこと、社員が良くなると会社が良くなるということが書いてあります。この理念に沿った組織を作ろうという事が基本にあります。経営者、資本家という存在は、株主に任命されて会社を運営するわけですが、経営者は社員のいない会社は世の中に存在しませんから、経営と社員は一体化しなければいけないと思います。社員が頑張るから会社が良くなる、会社が良くなるから社員に報いる、という好循環をどのように繰り返していくのか、そこがポイントだと思っております。そのために我々は、目標を明確にし、評価をできるだけ公平にしています。社員が一年間で与えられたミッションは何なのかということも考えながら、業績、成果だけではなく能力や意欲を含めながら公平、公正な評価をします。社員にとってのモチベーションに繋がっていきますから、非常に大切だと思います。
人材教育はいろんな形でプログラムを組んで進めていきますが、私は教育してもしっぱなしでは意味が無いと考えています。常に正しい評価をして、次の目標を決めるというステップを繰り返していけば、自ずと社員のスキルアップに繋がっていくと思っています。また、企業理念の第五条には常に高い志を持つとあります。やはりいかに志を上に向けさせるか、それが企業としての使命だと思っています。
毎年2月に人事評価委員会を行っています。当社は部門がたくさんありますので等級ごとでそのプレゼンテーションをして頂きます。毎年年末に課題を与えて、書いていただいた論文についてのプレゼンテーションをしていただく、という形です。もう一つは業績、また能力も分かりますから、そういった形で毎年2月の人材評価委員会で人事評価をします。
それだけでなく、当社の場合は「360度評価」という形で、上司、同僚、部下が色々な項目にわたって評価を行います。これでポイントが出てくるということで、多面的評価が最終的には評価される人にとって重要な意味をもちます。いくら数字が良くても業績というのは環境要因の影響も大きいですから、良い得意先に恵まれる、ヒット商品に恵まれるといい数字を叩き出す、ということもあります。そういう人たちは、常に良いお客さんに恵まれたり、良い商品に恵まれたりということになるとは限らないわけですから、それはそれで評価しますが、組織の中では部下から慕われ、同僚から評価され、上から期待されるような人材に出来るだけスポットライトを当てようと思っています。単に業績一辺倒でもなければ、能力一辺倒でもなく、出来るだけ多面的に社員の評価をする。その為には時間がかかりますし、社員にもしっかりと努力してもらわないといけないということです。
―メッセージ―
【大山】
夢を持つことはとても大切なことですが、夢は中々現実にはなりません。だから夢と言うんですよ。その夢を現実化させるためには、志が大切だと思います。そして、その志は自分に関することだけではなく、対外的に、それが個人に向いているのか、組織、あるいは会社に向いているのかは別にしても、自分の志は明確にすべきだと思っています。
しかし、志だけ持っていても、それを実行に移さなくては意味がありません。人間は、物事を知らないよりは知っていた方が良い。ですから、知ってることが一番だ、と勘違いする人も多いのですが、私はいくら物事を知っていてもそれを実行できなければ何の意味もないと思っています。ですから、諦めずに自分の志、目標に対してチャレンジをし続けることが大事だと思いますね。
―商品について―
【大山】
一般的に、製造業とはプロダクトアウトなんですね。自分の技術や商品をいかに川上から川下に流していくか、といったマネージメントをするのですが、供給過剰になると値段が崩れる。そのプロダクトアウトからマーケットインしよう、つまり、お客様のニーズに合った製品を作ろうと思い、我々もシュートしたのですが、マーケットインも競争なんですね。取引先のお店にとってみれば、商品は安いに越したことはありません。また、競合メーカーが出てくれば、商品は常に比較される。そうすると安定した売上、利益を挙げることは出来ません。そこで、私どもは「ユーザーイン」という方針を取りました。
私どもにとって、お客さんというと2通りの意味があります。商品を買っていただける取引先、得意先が私どもにとって目の前のお客様です。しかしそのお客様は我々の商品を実際に使うお客様ではなく、それを再販して売上を上げる方々です。そして、最終的に我々の商品をお店で買っていただく消費者こそが私どもにとってのお客さんだ、という考えから、常に消費者、生活者の目線に合った商品を開発しようと思いました。今顕在化している商品は必ず過当競争になっていきますから、まだ市場に出回っていない潜在的なニーズをいかに顕在化させるか、そのためには、私が生活の中で感じた不足、不満、不便を解消するものを商品化すれば、一般の消費者、生活者の方にも買っていただけるのだろうと考え、商品開発を進めていきました。
潜在的なニーズを顕在化する事業をやっているので、競合商品がない状態で商品を市場に出すことになります。お客さんにとってみれば、競合する商品がないので、他メーカーに比べて高い安いという概念は生じません。また、製造会社は当然原価を知っていますが、消費者は製造原価を知らない人がほとんどです。しかし、その商品を買うのにどのくらいの値段であれば適切か、という認識は持っています。これが値頃価格という価格です。
私どもは新しく商品を製造する時、常に原価目線ではなくお客様の目線に立ち、いくらなら買っていただけるだろう、と考え、この値頃価格を設定します。そしてその値頃価格から当社の必要経費や利益を差し引きし、商品の原価を決めていき、その原価の中で商品を作るという、「引き算」の商品開発をしています。ほとんどの企業は、原価、製造コスト、物流コスト、販管費がいくらかかる、ということをまず考えて、そこに利益などを上乗せするという「足し算」の方法で売価を決めています。しかし、その工程の中で考慮される費用は、お客さんにとっては何の関係もありません。お客さんにとってみればその商品一つ一つの価値の中で値段を見て買うか買わないかを決めるわけです。当社は、常に値頃価格を決め、それに基づいたモノづくりを行います。
一般的な企業は、常に同じ業界や業種の中で新商品を出し、お互いに競っています。どちらかというとキャッチアップ型という、先発商品があればそれの横並びで商品化をしていく、品揃えを増やすという方法を取っています。一方で私どもは、「ホームソリューション」と言っていますが、生活の中での問題点を発見し、そうした不足、不満、不便といった部分から答えを見出そうとしています。
アイディアは生活の中にあるのだ、と考えています。ですから、園芸用品を開発しようという時には庭で自分が園芸をする、ペット用品を開発するとなれば自らがペットを飼います。そうすることで自分が生活者として生活していく中で不満や不足や不便を改良していく、ということです。私から見れば、その問題点は無限大なんです。当然、不満がない、最高だ、という商品もありますが、その満足が来年になっても得られるかは分かりません。価値観、ニーズは常に変わっていく、そういう目線で、今の生活者視点でソリューションを見い出せる、ということです。
―ビジョン―
【大山】
お陰様で、得意先に恵まれたことや当社の商品力もあり、まるで倍々ゲームのように会社が大きくなっていきました。水産からスタートし、水産資材だけではなくプラスチックの農業資材まで作るようになりました。ちょうどその当時、田植えの主流が手植えから機械植えに変わるという事で、苗を作る苗箱を木箱からプラスチックに変え、これが大ヒットしました。
大阪で商品を製造、出荷すると西日本にとっては便利なのですが、農業水産は東日本により大きなマーケットがあったので、私が27歳の時、仙台に東北、北海道向けの工場を作りました。ちょうどその頃、オイルショックが起こりました。石油が突然無くなる、あるいは価格が2倍、3倍と上がる、という経験をしました。大変な事態ではありましたが、我々の商品も非常に飛ぶように売れたので、原料さえ調達できればビジネスチャンスはどんどん広がると思い、工場拡大をしました。
しかし2年後にオイルショックが終了すると、今まで頂いていた注文が一気になくなりました。私どもの取り組んでいた事業は産業資材なので、一気に需要が増えたり減ったりするものではありませんでした。何故一気に注文が減ったのだろうと思い、お客さんの所に話を聞きに行ったんですね。すると、結論としては、将来値上がりするなら値上がり前に買おう、ということでした。いわゆる「仮需」だったんですね。当社だけではなく、プラスチック産業全体が仮需に踊らされました。当時20代の私は一生懸命頑張り、会社の売上を17億円ほどまで上げていたのですが、その利益がオイルショックのリバウンドによって、たった2年間で全て無くなるというダンピングを経験しました。結局、事業拡大によってスタートした大阪の工場を閉鎖せざるを得なくなってしまいました。
私が20歳から事業を始め、採用した社員はほとんどが私の仲間でした。そういう人を解雇せざるを得ないという経験をして、二度とそういう経験をしたくないと思い、景気に左右されない会社を作ろうと思いました。そう考えると、産業資材は需要を見込めますが、競争が非常に激しい。一方、一般の消費者に向けた商品であれば、もちろん全く景気に左右されないわけではありませんが、産業資材の生産を続けるよりもその可能性が少ない、と考えました。それでも今ある既存の品揃えでは過当競争で非常に厳しいわけですから、新しく需要創造する形で会社をスタートしたわけです。
お陰様で、園芸用品の需要創造によって会社は大きくなりました。しかし、園芸もいずれブームは去るでしょうし、競争相手が出てきて儲からなくなる可能性も考えると、オイルショックの時の経験が思い出されました。常に会社を大きくするよりも、いかなる時代環境、変化があっても利益の出せる会社を作りたい。そういう信念で企業理念を決めました。
その為には一つの業種にこだわっていると、結局は好不況に影響を受けてしまいます。ですから、新しい需要を創造する、という事業方針に至り、ガーデニングブームを作り、次にペットブーム、その次にプラスチックの収納といった事業に取り組みました。今までは「しまう」ということに終始していた収納を、「探す」という新たなキーワードを作り、新しい需要を作りました。当社の企業理念第一条を実践するために、常に需要創造するということに会社の軸足を変えてきました。
【ナレーター】
家電から生活用品、食品まで、多岐にわたる製品を手掛ける生活用品総合メーカー「アイリスオーヤマ株式会社」。
生活者の目線で不満や不便を解決する「ユーザーイン発想」のもと、年間で1000点以上の新製品を開発している。
近年ではロボティクス事業に注力をしており、のべ6000社以上(※1)の企業が導入。さらなる成長に向けた挑戦を続けている。
経営者が語る、「アイリスオーヤマ」の矜持とは。
【ナレーター】
自社の強みについて、アイデアを創出する量にあると大山は言い切る。
【大山】
プラスチック製品から木製品、金属製品、そこから家電、食品まで、お客様の不満をトータルで解決する、そんなものづくりを目指しています。私たちはアイデアを非常に大事にしており、毎週、年間で50回近く新商品開発会議を開いています。
新商品のアイデアだけではなく、お客様からのご意見なども、役員や営業・製造の責任者、加えて中国やアメリカの責任者なども交えながら、全員がいる場で議論します。そのアイデアがいいのか、それとも意見を取り入れるべきなのかを議論し、そこからものづくりにつなげていくんです。できるだけ早く、スピーディーに商品開発ができる体制を整えています。
たとえば、冷凍庫です。今まで、家庭に冷凍庫がある人はほとんどいなかったんですね。ただ、日本で共働き家庭が増える中で冷凍食品の消費が増え、冷蔵庫の冷凍室に入りきらなくなったというニーズに開発者が気がつきました。そこで、家庭にある無駄な隙間に置けるような商品を作れないかと考え、現在「スキマックス」という商品名で、隙間に入る冷凍庫を作り、新たなニーズを掘り起こしているところです。
【ナレーター】
大山の原点は、入社1年目のアメリカでの経験にある。2003年にアイリスオーヤマのアメリカのグループ会社に入社。当時、芳しくなかった業績の立て直しを図るべく、同年11月に同社のチェアマンに抜擢された。当時について、次のように振り返る。
【大山】
当時は、お客様に値上げを求めたり、工場を閉鎖したりしなければならない状況でした。その時、やはり経営トップとして従業員の皆さんの前で、会社の苦しい状況や、これからの方針について自ら発信し、理解をいただくことが大事だと感じました。
その経験から、会社としてリーダーシップを発揮しなければ社員の皆さんはついてこないということ、そしてしっかりとした方針を出して変えていかない限りは、企業業績は改善しないということを学びました。当時は積極的に新商品開発に取り組んだり、経営全体を見させていただいたりしたことが、社長になるための糧になったのだと思っています。
【ナレーター】
その後、2010年に帰国。グローバル開発部部長などを歴任し、40歳を迎えた2018年7月に代表取締役社長に就任した。カリスマ経営者と言われていた父の跡を継ぎ、1万人を超える従業員を率いる。プレッシャーはなかったのだろうか。
【大山】
不安と期待が半々でした。いわゆるカリスマ経営者の下で仕事をするのに慣れている社員が多かったものですから、チームで仕事をするにしてもトップダウンをいかに効率的に行うかという組織文化が強かったと感じています。
私が社長に就任した時は、創業者ではない私自身がカリスマ性を維持していくのは難しいだろうなと感じました。
創業者とは違い、成功に至るまでの失敗や成功体験、ノウハウがないので、創業者のようにはできないのであれば、トップダウン型の組織ではなく、ボトムアップやミドルアップといった形で、いかに社員のモチベーションやポテンシャルを生かしたチーム経営をしなければならない、そのような課題感を抱いていました。
【ナレーター】
どの領域で新規事業を行うのか。さまざまな意思決定をする中で、大山が重要だと感じている要素のひとつだ。その真意に迫った。
【大山】
新規事業をどこにするか、という点が一番大事だと思っています。社会全体に課題があること、それを解決するソリューションを持っていけるかどうかが、事業を判断する上での大きな材料になります。
たとえば、2012年に参入した食品事業です(※2)。当時は東日本大震災があり、津波の影響で沿岸部の農家さんが非常に大きなダメージを受けました。その時、農家さんをいかに支援し、復興させるかという大きな社会的ニーズが生まれたんですね。
私たちも被災企業ですから、日本全国、そして海外からもたくさんの支援をいただきました。それをどうお返しすべきかと考えた時に、単純に寄付をするのではなく、ビジネスとして復興できないかという発想から食品事業への参入を決めたんです。
※1: 2020年1月~2024年12月までのサービスロボットの累計導入社数(アイリス電工株式会社での販売分、及びトライアルを含む)
※2: 製品のリリースは2013年
経営者プロフィール
| 氏名 | 大山 晃弘 |
|---|---|
| 役職 | 代表取締役社長 |
| 生年月日 | 1978年4月11日 |
| 出身地 | 宮城県仙台市 |
会社概要
| 社名 | アイリスオーヤマ株式会社 |
|---|---|
| 本社所在地 | 宮城県仙台市青葉区五橋2-12-1 |
| 設立 | 1971年 |
| 業種分類 | 電気機器 |
| 代表者名 |
大山 晃弘
|
| 従業員数 | 6,223名(2025年1月時点) |
| WEBサイト | https://www.irisohyama.co.jp/ |
| 事業概要 | 生活用品の企画、製造、販売 |