―強みを生かした経営改革―
【聞き手】
実際にトップに立たれて、マイナスの状況からプラスに転じさせるために、一番心がけていらっしゃったのはどういったことでしたか。
【岡林】
先ほど何社か経験したということをお話させていただきましたが、各社とも強み弱みがあるので、まずはレーザーテックの強みを生かした事業をやるべきではないかと、うちの強みが発揮できるビジネスにリソースを集中投下することを推進しました。
【聞き手】
ここでぜひアピールいただきたいのですが、レーザーテックの強みというのは何なのでしょうか。
【岡林】
お客様の要求に対して真摯に対応する、戦略としてはグローバルニッチトップ戦略を取っているのですが、世界中のお客様に対して、どちらかというと小さいマーケット、あるいは大きなマーケットでもいろいろお客様の声を伺うとそれぞれ異なる要求があるので、それを要求ごとに分けたマーケットセグメント、それらのセグメントにベストフィットした製品をお客様に提供します。
それもいち早くお客様のニーズをくみ取って、それに対応する製品をいち早く開発して納品して、また納品した後もさらにお客様からいろいろな要求が出てきますので、それに真摯に対応して、最終的にお客様の十分満足する製品に仕上げると。
これは小さい会社、小回りの利くスピーディーな会社じゃないとなかなかできません。また、我々の強みとしてはスピード開発です。まずプロジェクトをスタートするかどうかという決定が早くて、開発スピードも非常に速いのです。
ということで、そういう強みを生かすことが我々のビジネスで最も世の中に貢献できるのではないかと思いフォーカスする方針を取りました。そもそもの当社の企業理念なのですが、それを推し進めるような格好に変えた事が、やったことの一つです。
【聞き手】
お客さんにとって、レーザーテックにしかできないとか、これはレーザーテックだったらやってくれると思われるような存在になるということですか?
【岡林】
そうですね。ビジョンとしては世の中のお客様が困ったときには真っ先にレーザーテックに声をかけて見ようと考えていただけるような会社になるというのを据えています。今は1歩ずつですけど、それが出来つつあるかなと感じています。
【聞き手】
製品開発でこだわっている部分はどういうところですか?
【岡林】
まずはme-too product(模倣製品)のように世の中に存在している製品と全く同じ製品は作らないこと。お客様の要求があったとき、仮に製品があったとしても、我々は別の技術を使ってもっとお客様に価値を提供できるような装置を開発するということを決めております。
【聞き手】
そういった取組みが功を奏して、赤字で引き継がれた翌年は黒字転換しました。これはすごいことだと思うのですが。
【岡林】
ただその年も、我々は決算期が6月末なのですが、5月の時点ではまだ黒字転換できるかどうかわからないという状況でしたので、最後の最後まで苦しい年でした。
【聞き手】
どういう姿勢で経営に臨もう、社員方に対してメッセージを投げていこうと思われていらしたのですか?
【岡林】
毎年7月に方針説明会を行っているのですが、その時に最初に言った言葉が「Change before you have to」。元GE(ゼネラルエレクトリック)CEOのジャック・ウエルチさんの言葉です。しなければいけなくなる前に、自ら行動を起こしましょうということなのですが、どうしても主体性を持たないで受け身になっていると、行動自体も遅れてしまいますし、自分で考えるという意識がなくなってしまいます。主体性を持って、状況を見て、自ら判断して行動を起こすというカルチャーに変えていきましょうということを、一番最初のメッセージとして従業員には伝えました。
―“赤字”という危機の中での社長就任―
【聞き手】
レーザーテック株式会社との出会いは、おいくつの時だったのですか?
【岡林】
レーザーテックとの出会いという意味では、私の大学時代の研究室の同期が、もともとレーザーテックに勤めていました。ちょうど当時のレーザーテックの営業部署が、人数も少なく非常に弱かったので、営業マーケティングの人間を必要としているのだけど来ないかという話があり、それが入社したきっかけです。
【聞き手】
実際に入られてどうでしたか?外資とは全く違う環境なわけですよね。
【岡林】
今までいた2社とも違う会社でした。良い悪いではなく、各社とも得意不得意いろいろな特徴があると思うのですが、レーザーテックは少人数の小さい会社なので非常にスピード感があって、人数の割にはたくさんの製品を世の中に出していて、非常にユニークな会社だと思いました。
【聞き手】
当時の代表的な製品は何だったのですか?
【岡林】
当時は半導体関連の検査計測装置、フラットパネルディスプレイの検査装置、それから顕微鏡の3種類ですね。
【聞き手】
営業という形でいろいろと回られて、市場の反応はいかがでしたか?
【岡林】
日本のお客様と海外のお客様、両方とも対応させていただいたのですが、小さい会社で知名度がないので、まずどういう会社でどういう事をやっていて、どういうところが強みなんだというところから紹介していくのですが、もともと人に会うのが好きなので、それは非常に楽しかったですね。
【聞き手】
実際に現場で営業などを経験されて、社長にご就任されたのは何年くらい?
【岡林】
いまからほぼ7年前ですね。
【聞き手】
経済環境的にはあまりよろしくない時ですよね。
【岡林】
ちょうど当時私が引き継いだのが7月。リーマンショックで、決算で赤字の年に就任したのです。
【聞き手】
そんな時にバトンが回ってきたというのは、ご心情としてはどうだったのでしょう。
【岡林】
まず赤字決算を、次の年には何とか黒字に転換しなくてはいけないということで、そういう意味では非常にプレッシャーがありました。
【聞き手】
悩まれたりはしましたか?
【岡林】
悩むということはなかったですね。もうそういう意味では覚悟は決まっていたというか、やるしかないということで。
―海外市場の拡大に向けた次の一手―
【聞き手】
次なる目標といいますか、御社として取り組んでいらっしゃることはどんなことでしょうか。
【岡林】
今までのコアビジネス自体も、お客様の方からさらに高いご要求が出ていますので、それには真摯に対応していくために次世代機の開発を進めています。それとともに、従来は半導体のマスク関係の検査計測機が当社のコアビジネスだったのですが、そこで培った技術を使って半導体のウエハ検査装置に。もうすでにいくつかの製品を出していて、半導体デバイスメーカー、リーディングカンパニーのお客様に納めているので、そこをさらに強化します。さらにラインアップを増やしてビジネスの1つの柱にしたいと考えています。
もう1つ、当社がやっている顕微鏡ビジネスでは、半導体やフラットパネルディスプレイ以外にもいろいろなマーケットに納めているので、そこから新たなニーズを聞き出して、当社が差別化できて、世の中に貢献できるような製品が生まれてくれば、さらに1つの柱として育てていきたいです。そのような市場のニーズを、半導体やフラットパネルディスプレイ以外の市場からもうまくキャッチして、新規製品をどんどん増やしていきたいというのが、今の夢ですね。
【聞き手】
御社の売上げの比率で、海外は非常に高いと思うのですが、今は大体何%くらいなのでしょうか。
【岡林】
60%以上海外のお客様からの売上げです。
【聞き手】
そこで気になるのは、まずその海外の市場をこれからどのようにして更に拡大していかれるのかということと、そういう海外市場の拡大に向けて、海外の方の採用の部分などにも力を入れていかれるのかという2つなのですが。
【岡林】
海外市場をこれからどのように上げていくかに関しては、すでにアメリカにレーザーテックUSAという現地法人がありまして、その次にレーザーテックKoreaという現地法人を韓国に設け、また新たににレーザーテック台湾という現地法人を設けました。そこでさらにセールスと、製品が壊れたときなど何かお客様からアドバイスを求められた時に対応できるサービスの人材に関しては既に強化しました。
さらに他の地域に関しては、現地の代理店の人間と常にコミュニケーションをとって、お客様に対して当社の製品を紹介するとともに、納めた製品に関しては問題のないようにサポートできるようにトレーニングを行い、良好な関係を保っています。海外にはまだ伸びるポテンシャル、ビジネスチャンスがあると思いますので、そこはさらに強化していきたいと思います。
この数年間、海外の売上げの比率が高くなってきましたので、納めさせていただいた製品が仮に壊れた場合に、すぐに復旧してお客様にご迷惑が掛からないようにするには、やはり現地のエンジニアがスキルアップしてすぐに対応できるようにしなければなりません。優秀な人材を採用して、さらにトレーニングして、スキルアップできるようにと、ここ数年かなり力を入れて参りました。今はそういう意味では充実した人員体制になっていると思います。
【聞き手】
日本はサービス大国といいますか、サービスに非常に厳しい国だというところで、そのあたりの教育というのは?
【岡林】
私個人は、あまり国ごとのカルチャーの違いは感じていないのですが、きめ細かいサポートを提供する場合はやはりお客様はそれに対して価値を感じてくださいますし、当社の海外の現地法人の人たちもそういう事はしっかりと提供できています。
【聞き手】
レーザーテックという会社で働く社員の方に対して、精神的に求められるところは同じですか?
【岡林】
私は同じだと思っておりますし、特に本社だとか海外現地法人だとかの境なく対応しています。
―同社の強みと主体性を重視した人材育成―
【聞き手】
会社自体の創業からの理念が、“世の中にないものを作る”。
【岡林】
“世の中のためになるものを作る”ということで。
【聞き手】
そこはやっぱり製品づくりに通ずるところというか、世界初だったり世界ナンバーワンだったり、いろいろなものがどんどん生み出されている。
【岡林】
引き続き企業理念というものは大切に、各従業員個人が心に留めて実際に仕事していると思います。
【聞き手】
社長がご覧になるこのレーザーテックという会社の社風というか、雰囲気はどのような会社だと思われますか?
【岡林】
社風としてはどちらかというと外資系に似ているというか、自由であると。あまり上下関係がない、自由闊達なディスカッションができる会社だなと思います。
【聞き手】
それは努めてそういう風にしていこうという努力もあるのですか?制度を作っていらっしゃるとか。
【岡林】
まず私が社長になったときに、全員「さん」付けにしましょうと、自分のことも「岡林さん」と呼んでくださいと言いました。何々部長とかいう言い方もすべて廃止して、全員「さん」付けにしようと変えました。これは最初に外資系に入ったときに、全員「さん」付けだったのですね。私はその雰囲気がとても気に入っていて、やはりこの企業には「さん」付けが合っているのかなと。上下関係とかなく、自由闊達に話し合いができる、意見が言えるというところを強化したいという意味で変えました。
【聞き手】
社員の方に対してどういう経営者でありたいと思いますか?
【岡林】
会社にも良いところ悪いところがありますが、従業員個人に関しても、神様ではありませんから、得意不得意というものが必ずあると思うのです。会社としてはなるべく個人のいいところや強みを生かした会社でありたいと思いますし、それが一番本人にとってもハッピーですし、会社全体としても会社の力というのが最大化されると思うのです。なのでそういう個人個人の良いところや強みを発掘して、それを生かせるような会社にできればと思いますし、会社自体も社会の中で自分たちの力が社会や世界に貢献できるような会社であればいいですし、そういう方向に持っていければいいなと思っています。
【聞き手】
非常に大きな規模の会社で経験をされていらっしゃるので、今は逆にこれからという御社の、強みといいますか、違いというものを感じられたことはありますか?
【岡林】
例えると大企業は恐竜で、それに対して我々はネズミみたいなものですね。じゃあ恐竜が生き残るかというと決してそんなことはなくて、ネズミにはネズミの強さがあると思う。ネズミというのはやっぱり小回りが利いて、環境に対してスピーディーに変化できる、対応できるというのが小さいネズミ。我々みたいな企業の強さだと思うのです。大手企業にはできない、小回りの利く、スピーディーに変化に対応できるというのが我々の会社の強さだと思いますので、そこは強化していきたいと社員に対して伝えています。
またもう一つは、従業員全員が自分のお客様が誰か、そのお客様がどういう価値を求めているのかを自分自身で主体的に自分の頭で考えて、そしてそのお客様が満足できるような価値を提供しなさいという話をしています。営業の人間に関しては社外にお客様がいるので非常にわかりやすいのですが、間接部門のみなさんの場合は実際に社外のお客様が直接のお客様になるわけではなくとも、自分が創造した価値を届けるお客様が社外にもいる、その社外のお客様にあたる人たちが一番求めるものを自ら考えて、その方と話し合って、一番満足するような価値を提供しなさいと話しています。
―視聴者へのメッセージ―
【聞き手】
今回VTRをご覧になる中で、御社に興味を持って、自分の力をもっと試せる、裁量を与えてくれる会社を探していますという若い技術者の方などもいらっしゃると思いますので、そういった方々にメッセージをお願いできればと存じます。
【岡林】
当社は、売り上げの60%以上が海外の売上げからとなっているグローバル企業です。当社は東証一部上場企業ながら、大手とは違った、まだまだ発展途上の会社です。自分自身の能力を成長させたい、またその成果を実際に体感できる会社に入りたいという方にとっては、非常に自分の能力を成長でき、また自分の達成したその成果が会社の業歴に表れるということで非常にやりがいのある会社です。自分の能力を成長させたい、そしてやりがいを感じたいというチャレンジ精神のある方は、ぜひ当社に応募していただきたいと思います。
【聞き手】
これからもグローバルニッチトップというところで、世界で活躍される企業となられますように、私も僭越ながら応援させていただければと思います。本日はたくさんお話を聞かせていただきまして本当にありがとうございました。
【岡林】
どうもありがとうございました。
【ナレーター】
光応用技術を使った検査・計測装置を研究開発・製造・販売する「レーザーテック株式会社」。
「世の中にないものをつくり、世の中のためになるものをつくる」という経営理念のもと、世界シェア100%の製品や、世界初となる検査装置の開発を手がけるなど、業界のトップランナーとして高い技術力と開発力を誇る。
近年では、半導体の微細化を可能にするEUV(イーユーブイ)マスクの検査装置や、省エネルギーに優れることで需要が高まっているSiC(エスアイシー)ウエハーの検査装置など、新たな分野の開拓も推進。
付加価値の高いオンリーワン製品やソリューションを世界中に提供し続ける企業を目指し、その歩みを着実に進めている。
快進撃を続けるものづくり企業と、それをけん引する経営者の軌跡に迫る。
【ナレーター】
世界が認める高い技術力と商品開発力を持つレーザーテック。それらを裏付ける自社の強みについて、岡林は次のように語る。
【岡林】
お客様といろいろなディスカッションができることは、当社の大きな強みだと思っています。
お客様を訪問して要求をうかがっても、その背景になにがあるか理解できなければ、実際にお客様が欲するソリューションは提供できません。
お客様の背景までしっかりと理解した上で、「こういうものがいいのではないでしょうか」と逆提案ができるということも、当社の大きな強みだと思います。
お客様の声に基づいて、お客様が欲するものを開発し、それを世の中に出していく会社ですので、お客様との接点や信頼関係を構築して維持していくということに、重きを置いています。
仮に知らない分野であっても、そこに関して探求していき、お客様の課題を解決するソリューションを開発し、世の中に新しい価値を届けていくという文化ですね。そうやって我々の強みを活かしながら、ソリューションを提供しています。
私が入社した時点で、もともとそういうDNAを持っている会社でしたので、私はそのDNAの強みを活かせるようなビジネスに舵を切ったということですね。
【ナレーター】
岡林の原点は大学卒業後に入社した企業にある。
アプリケーションエンジニア職に従事していた岡林は、指導を受けた上司のもと技術の面白さに目覚め、会社を退職し早稲田大学大学院に進学。
修士課程修了後、老舗メーカーを経て、2001年にレーザーテックの門を叩いた。当時の自社の印象について、こう振り返る。
【岡林】
会社の規模に比べ、非常に高度で複雑な製品を開発・提供しているということに驚きました。
また、私が以前在籍していた会社ですと、技術の人間はどちらかというとオフィスにずっと座っていて、お客様を訪問するのが億劫という感じだったのですが、当社の技術の人間は、それをいとわない。
どんどん訪問して、お客様といろいろな話し合いを行っていることにも驚きました。
以前在籍していた会社で私がマーケティングを担当していたときは、マーケティングの人間がお客様と技術をつなぐ役割を担っていました。
しかし当社は、営業と技術が一体となってお客様を訪問し、将来のお客様のニーズなどをヒアリングできる。これは当社の大きな強みだと感じました。
【ナレーター】
入社後、岡林は営業職に従事。営業本部長、副社長などを経て、2009年に代表に就任した。
当時はリーマン・ショックの影響で赤字を計上しており、苦境に立っていたという。その中で、岡林がまず取り組んだのは方針の転換だった。
【岡林】
当社の強さが発揮できて、世の中にも貢献できる。そのような仕事をしていくことが、最も従業員の努力が無駄にならず、世の中に尽くせるのではないかと考え、新たな方針を掲げました。
個人も会社も同じで、それぞれに個性があって強みや弱みがあります。
赤字脱却のためには、当社の強みを活かせるビジネスにリソースをつぎ込み、そこで努力すべきではないかと思い、選択と集中をしてきました。
そうした新たなビジネスの規模が、売り上げの約半分あったので、そういう意味での怖さというものはありました。
実際に、当社は年度末が6月30日なのですが、5月まではまだ赤字でした。6月30日の夜にヨーロッパの営業職の従業員から、やっと検収があがったという電話をもらったんです。
当社の場合は検収=売上なので、それが計上されるまでは赤字でした。この検収をもって、最終日に黒字になったときは、本当に嬉しかったですね。
経営者プロフィール
氏名 | 岡林 理 |
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役職 | 代表取締役 |
生年月日 | 1958年5月16日 |
会社概要
社名 | レーザーテック株式会社 |
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本社所在地 | 神奈川県横浜市港北区新横浜2-10-1 |
設立 | 1960 |
業種分類 | 電子回路製造業 |
代表者名 |
岡林 理
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WEBサイト | https://www.lasertec.co.jp/ |