インタビュー内容
―黒字化達成後に社長を辞任―
【佐藤】
48歳の頃、今からちょうど10年前にあるオファーを受けまして、当時マザーズに上場していた日本のベンチャー企業で、今の会社の前身となる会社の代表と知り合いました。IBMを退職し、いわゆるサラリーマン社長になったということです。何か野望があったわけでもなく、成り行きで社長になりました。今の会社の前身ということで、ビデオオンデマンドを中心として、海外に色々な事業を展開されていました。創業者である代表取締役がいましたので、その判断を補佐する立場として経営陣に参画させていただきました。
創業者が辞任されて、それを引き継ぐ形で代表に就任致しました。実は相当な規模の累積損失があり、86億円ほどの損失を抱える赤字会社でした。唯一、海外に株式資産を持っていたというところを引き継ぎまして、当時は上場していたので、当然黒字化を目標に相当な量のテコ入れをしました。不採算事業の整理・清算から始まり、新規事業の立ち上げ、などの取り組みによって、2年間で全ての整理・清算が完了し、やっと黒字化を達成できました。
ちょうど黒字化を達成できたところで、別の会社に株式を購入されたことで私は解任となりました。会社に対する責任感はありましたが、株式を保有していなかったので、いわゆるサラリーマン社長として淡々と事業を整理・清算していったというところですね。リスクのない業務ではありましたが、ある意味資本主義社会の中ではそういったこともあり得るということですね。
その会社が持っていた子会社の1つを引き継ぐことになりました。当時は赤字の企業で、従業員数14名という非常に小さな会社でした。それが今のアセンテックになります。当時の段階から、今の事業をやりたいという思いはありましたので、その事業に対して集中できればあまり辛い思いをすることなく、むしろやりたい事業に専念できると思い、ステップダウンしました。
引き継いだ会社をMBO、マネジメント・バイアウトして独立してからの方が、いわゆる起業と言われる部分の中で一番厳しかったと思います。自分で責任を持ってやらなくてはいけませんでしたし、当時は14人しか従業員がいませんでしたから。
アセンテックが取り組んでいるのはBtoBのビジネスですね。企業をお客様として製品とサービスを販売する会社ですので、信頼や信用がなければ口座1つすら開いてもらえないですよね。ですから、知名度もなく、売上もない赤字の会社で、そもそもお金が無いから銀行に行かなくてはいけないという環境の中でのスタートということで、その辺りが最も辛かった部分ですね。
―情報社会を変える「仮想デスクトップ」―
【佐藤】
MBOをした後に、非常に小規模の事業からスタートして今に至るのですが、その中で一つだけ当社の強みとして持っていたのは「真面目な従業員」でした。そして「ポテンシャルのあるテクノロジー」が私どもの目指していた目標でした。そして仮想デスクトップというテクノロジーに出会い、将来性を感じ、一つ一つ課題を解決した上で事業立ち上げに至りました。
当社の強みとしては、やはり私どもは仮想デスクトップ(VDI)の専門集団である、ということを言い切ったんですね。何でもできる、ということではなくて、この部分だけは大手にも負けません、という気持ちで集中して1つの事業に取り組みました。それが今の時代にマッチした点がありました。非常にラッキーな部分ですが、VDIが働き方改革やBCPの問題、情報セキュリティの問題に対応する有効なソリューションであるという部分で、今のニーズに非常にマッチしていると思っています。
VDIとは、一言で言いますと手元の端末にデータを保存せずともWindowsのオペレーションができる、すなわちサーバー上のデスクトップを画面転送でオペレーションするという技術です。皆さんPCをお使いだと思うのですが、PCにはデータが保存されていますので、そのデータをコピーして持っていくことができます。それが情報漏洩や消失につながり、課題とされてきました。そのリスクが無くなることが、仮想デスクトップを導入するメリットです。もう一つは、働く場所を選ばない、ということがメリットだと言えます。
小さな会社が成長していく上で、良い製品や良い人材に国内外問わず巡り会う、ということが重要になってきます。当社ではそういったことが要所要所で起こり、そうした偶然の積み重ねで成長してきたと思います。私は戦略家でもなければ、大きな野望を持っているわけでもないですので、目先の課題を逐一つぶしていき、良い製品、良い人材に巡り会って一つ一つをクリアしていった、というだけの話だと思います。
社員は皆、愚直なメンバーだと思います。約束を守る、お客様に素早く返答する、チームワークをしっかりする、そのくらいですよね。それがちゃんとできるかどうか。うちのメンバーはそうしたことの重要性をしっかり認識して仕事に取り組んでいると思います。先ほども申し上げましたように、私どものお客様は企業です。そのため、一度良いサービスを提供するだけでは不十分です。愚直に真面目に、レスポンス良く、継続的にサービスを提供していくというスタンスが非常に重要で、「愚直であれ」といつも言っていますが、それを体現してくれている社員が多いと感じています。その積み重ねで信頼を得ているのだと思いますね。スタンドプレイや、華々しい広告を出すといった手法も行いません。
マザーズ市場に要求されているポイントは、当然成長性なんですね。当社の事業はステップアップ市場、という位置づけになっています。ですから私どもは、当然成長性に関する戦略を立案、メッセージアウトしております。その中で一つ挙げさせていただいているのは、「オリジナリティ」です。さらなる成長を遂げるためには自社製品・自社ブランドの立ち上げが必要だと考え、一つの戦略として挙げさせていただいています。
セキュリティという観点では非常に多くの商材が出回っておりますが、その中で私どもの商品であるVDIの課題は、価格です。先ほど申し上げたようにメリットはいくつも挙げることができるのですが、いざ導入するとなると、相当な額の初期投資が必要になってしまいます。その課題が非常に大きいのですが、それを解決するにはドラスティックな価格破壊を起こし現在の総額の半額くらいまで値段を下げないと、一般のお客様にPCと同じ感覚でVDIを利用していただくという目標は達成できないんですね。5~10%下げるだけでは意味がない。
金融機関を始めとするセキュリティニーズの高いお客様には取り入れていただいているのですが、我々と同じような小さな事業者様が起用できるかというと、まだそこまでは行っていないのが現状です。そのためにどうしたら良いか、ということで、VDIのサービス化や、システムを根本から変えた商品の発売などを発表しました。これが仮想デスクトップの普及の一つのきっかけになると思いますし、きっかけにしなくてはならないと考えております。
―アセンテック上場の真意―
【佐藤】
昨今、この業界全体でSEを始めとして人材不足に皆さん悩んでいらっしゃいます。新卒の方も、大体が有名な一部上場企業からどんどん埋まっていき、私どものような未上場の会社に来ていただけることはまずあり得ない。そうした中で、人材の確保というのが私どもの大きな課題でした。私どもが上場するにあたって上場目的の一つとして掲げさせていただいたのが、人材の採用でした。やはり上場企業である、ということが学生に対してのメッセージになると思い、上場させていただきました。
ここ数年は新卒社員が1名ずつのペースで入社しているのですが、非常にキャッチアップが早いと感じます。周囲にシニアのエンジニアが多い中で、思った以上に即戦力になっています。今後中途採用に加えて新卒採用も強化していければと思っています。
ずばり、「仮想デスクトップのエンジニア」が私どもの欲しい人材なのですが、そういった募集を出してもまず集まりません。そもそもそういったエンジニアの絶対数が少ない中で、当社が獲得することは難しいです。そこで採用の幅を広げ、IT経験者という条件のみを指定し、当社に来ていただいてからエンジニアとして教育していくというスタンスに転換しています。そうしないと中々社員の確保が難しいという現状です。
当社のメンバーは非常に少数精鋭だと思います。今回の上場に関わるオペレーションも非常にタフな作業でしたが、彼らがしっかりと動いてくれたおかげで会社として大きなステップを踏むことができました。彼らは非常に育っています。もう少し会社の規模感が大きくなれば、さらなるニーズが出てくると思います。例えば、事業の柱を増やすとなれば事業部長クラスの経験を持つ社員が必要になります。私どもは現在単一セグメントで事業を行っているので、現在のメンバーを底上げして、むしろエンジニアとしての技術力を育成する方針ですが、将来的にセグメントを増やすというステップの中では、ヘッドを担える人材が必要になってくると思います。
2017年4月25日に東証マザーズに上場できたというのは、私どもにとっては一つのステップにすぎないもので、これから更に成長を加速させていきたいと思っています。そのためには、共に挑戦するスタンスを持ってメンバーにどんどん来てほしいですし、成長戦略はセットできていますから、壁にぶち当たってそれを乗り越えて行きましょう、と私はメッセージアウトしていますし、そうした人材にぜひ来てほしいと思っています。社屋も移転し、次のステップに挑戦していきますので、共に成長していくという気合いを持った方にぜひジョインしていただきたいと思っています。
―視聴者へのメッセージ―
【佐藤】
本日はありがとうございます。私たちアセンテック株式会社は、約8年前に14名という小規模でスタートした会社でございます。先日、2017年4月25日に東証マザーズに上場することができました。我々はこれを一つのステップと捉えていますし、今後の成長戦略もセット致しました。ぜひ、この成長戦略に共に挑戦し、苦労して達成することを目指していただける方に当社に入社していただき、共に歩んでいきたいと思っておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。
【ナレーター】
アセンテック株式会社は、場所や端末に囚われず、どこからでも自身の作業環境にアクセスできる「仮想デスクトップ」や、セキュリティ対策に関する製品・サービスの販売を行う、東証スタンダード上場企業だ。
2017年に東証マザーズに上場後、2023年にスタンダード市場へと移行。近年では、地方自治体などへのDXの推進のほか、生成AIの領域にも参画しており、さらなる成長に向けた挑戦を続けている。
「簡単、迅速、安全に!お客様のビジネスワークスタイルの変革に貢献する。」を企業理念に掲げ、歩みを進める経営者の軌跡と、思い描く成長戦略に迫る。
【ナレーター】
自社の強みについて、松浦は2つの要素を挙げる。
【松浦】
弊社は、海外の製品をただ単純に販売するだけではありません。非常に多くの専門SEを自社で抱えており、当社社員のシステムエンジニアがプロフェッショナルサービスやプリセールスのご支援をパートナーさんにしています。そこが、1つ目の特徴的なところかと思います。
2つ目は、「自社企画製品」というオリジナルの製品を持っているところが非常にユニークかなと思っています。ディストリビューターという面もありつつ、メーカーとしての面もあるっていうのが、非常にユニークなところです。
「我々の競合会社はどこですか」と聞かれると、アップル・トゥ・アップル(Apples to Apples)でここですというのがないのが事実ですし、逆にそこが我々の特徴であり、差別化要因かなと思っています。
【ナレーター】
松浦の経営者としての原点は、社会人16年目にアセンテックの前身企業へ転職した時にある。「想像以上の挑戦だった」と振り返る松浦が、その経験から、あることを大事にするようになったという。
【松浦】
常にポジティブでいたいと思っています。これは「自分が宮崎県出身だからかな」と思うこともあるんですが、非常に太陽が近くて、海もきれいで、暖かい気候の地域で育ったので、それが自分の性格にも反映されている気がします。
客観的に見てもポジティブな方だと思っていますし、厳しい局面やトラブルが起こったときにも、ポジティブに前に進んでいくことを意識しています。「終わらないトラブルはない」「終わることを信じて前に進む」といつも考えています。
【ナレーター】
2012年にアセンテックへ社名を変更し、5年後の2017年に、東証マザーズに上場。松浦は取締役副社長を経て、2023年に代表取締役社長に就任した。当時の心境と、社長としての自らのスタイルをこう分析する。
【松浦】
副社長の期間が長かったので、いつか社長をやる日が来るのは分かっていました。現会長の佐藤会長が社長をされていたときには、社長なりの大変さをずっと隣で見てきていたので、社長に就任したときは改めて背筋が伸びる思いでした。
「強烈なリーダーシップを発揮して、殻を打ち破って前に進む」というリーダーシップが理想ではありますが、私はどちらかというとそういうタイプではありません。役割を受けて、自分なりにそれを咀嚼して、メンバーと一緒にチームワークで前に進むタイプだと思っています。リーダーシップよりも、おそらくフォロワーシップの方が得意だと思っています。
【ナレーター】
近年、ストレスフリーな職場環境の整備を推進しているアセンテック。しかし、松浦の目標は別にあった。
【松浦】
ストレスフリーな会社を目標にしているわけではありません。成長するために必要なワークスタイルの変革などをやってきた結果として、それがストレスフリーにつながったのだろうと思っています。成長するためには負荷が必要なときもありますから、意図せず負荷がかかるのは自然なことだと思います。
社員のコミットメントを定義しており、その一番上にチームワークを置いています。我々は大きい会社ではありませんので、一人ひとりができることや、看板だけでできることも少ないのですが、メンバーがそれぞれ知恵を出し合って、チームワークを持って対応することで、1+1が2に、プラスになると考えています。
経営理念として「働くすべての人のワークスタイルの変革に貢献する」ことを掲げていますので、弊社の社員も含めた働くすべての人のワークスタイルの変革に貢献していきたいと思っていますし、そこはブレずにこれからもやっていきたいところです。
ただ、仲良しクラブになってはいけないなと思っています。一人ひとりのプレイヤーが強くなければ、チームワークは成り立ちません。私は大学時代に体育会系のクラブに所属していたので、それも影響しているかもしれませんが、強い組織は実力主義でなければならないですし、個人のスキルや実力があってこそだと思っています。

経営者プロフィール

氏名 | 松浦 崇 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1968年9月19日 |
出身地 | 宮崎県 |
2001年7月シトリックス・システムズ・ジャパン㈱入社
2006年2月㈱エム・ピー・テクノロジーズ入社ソリューション本部本部長
2009年2月当社取締役ソリューション本部長就任
2009年10月㈱エム・ピー・ホールディングス取締役就任
2013年4月当社取締役副社長ソリューション本部長就任
2020年2月当社取締役副社長第一技術本部長就任(現任)
会社概要
社名 | アセンテック株式会社 |
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本社所在地 | 東京都千代田区神田練塀町3 大東ビル9F |
設立 | 2009 |
業種分類 | 卸売業 |
代表者名 |
松浦 崇
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従業員数 | 92(165)名(2025年1月31日現在) |
WEBサイト | https://www.ascentech.co.jp/ |
事業概要 | 仮想デスクトップに関連する製品開発、販売及びコンサルティングサービスの提供 |