
インタビュー内容
【ナレーター】
法人向けの贈答用胡蝶蘭の販売において、国内トップクラスのシェアを誇る「アートグリーン株式会社」。
ビジネスの節目に胡蝶蘭を贈り、祝福の意を伝えるという文化が一般的ではなかったことに商機を見出し、1991年に創業。ひたむきにビジネスモデルを磨き続け、全国への配送システムの構築を実現した。
法人向けのフラワービジネス新規参入サービスの提供や、胡蝶蘭を育てる農家をサポートするナーセリー支援事業など、その事業領域は多岐にわたり、今後は、東京証券取引所への市場変更やグローバル展開も視野に、その歩みを着実に進めている。
経験ゼロから花き市場へと飛び込み、今もなお挑戦を続ける創業者の波乱万丈の軌跡と、思い描く未来像に迫る。
【ナレーター】
自社の強みついて、田中は次のように語る。
【田中】
今まで花のビジネスとは関係ない人たちが、当社と組むことにより無店舗で生花店という新規事業に参入できるというのが、フラワービジネス業界でも、当社ならではのビジネスモデルです。新規事業としてリスクがなく、初期投資もなく、フラワービジネスに参入できるということを、さまざまな会社に提案しています。このモデルを構築したことが、当社の強みです。
それから、当社独自の配送システムを持っていることも特長です。ラストワンマイルと言われる、ちゃんとお客さんに自分たちでエンドユーザーまで花を届けるという流通システム、配送システムを持っています。さらに、胡蝶蘭であれば生産量、流通量とも日本で一番という、独自のシステムを持っているのも強力な強みになっています。
当社の事業は他社にはないモデルなので、世の中のお花屋さんの多くが当社のお客さんといえます。
【ナレーター】
田中の経営者としての原点は、25歳だった。幼少期から経営者を志していた田中は、大学卒業後、ゴルフ場開発会社へ入社し、約3年の社会人経験を経て、25歳で独立を決意する。そのときに着目したのが生花販売の事業だった。
【田中】
会社に社員として勤めている時に、ゴルフ場の会員権を売っていたのですが、時代背景もありそれが飛ぶように売れるわけです。自分たちで直接売るだけではなく、銀行にお客様の紹介依頼に行くと、どこでも応じてくれました。
その会員権を4800万円でお客様に売ると銀行は4800万円の融資が付く、ということは、4800万円の8%の金利がもうかるわけです。銀行は必死になって僕らが紹介してくださいという会員権をバンバン売ってくれます。僕らの商材である会員権を、銀行マンが自分たちのもうけのために売ってくれるという構図がありました。
やがて僕も独立しようとなったのですが、「一体何をやろうかな」と思った時にヒントになったのが『役員四季報』でした。パラパラとめくって見てみると、当時2500社ぐらいあった上場企業の役員や、世の中を動かしている人達の趣味の1位が読書、2位がゴルフ。そして3位が旅行と園芸でした。
また、僕の前職の社長は、会員権を買ってもらうと、3つの物のうちどれかをプレゼントするように部下に指示をしていました。
3つの物とは三越のボヘミアングラス、明治屋の神戸牛、ゴトウ花店の胡蝶蘭です。それぞれ予算は5万円で、毎月、ゴトウ花店にも2000万円ほど払っていました。1社から注文を貰っただけでも毎月2000万円の売上ですから、年間の売上高が2億4000万円の会社がいきなりできると僕は思ったわけです。
【ナレーター】
そして、1991年にアートグリーンを創業。成功への手応えを感じていた田中だったが、待ち構えていたのは厳しい現実だった。
【田中】
ところが前職の会社が買ってくれません。以前の同僚に聞いたら「田中、申し訳ない」と言うんです。「うちの社員だったやつが挑戦して会社を興して、花屋やってるから買ってあげましょうよと言ったけれど、社長から止められた」と。
なぜかと聞いたら、「同じ胡蝶蘭でも、ゴトウ花店の胡蝶蘭だからもらった人が5万円の価値を感じる。三越のボヘミアングラスだから5万円を感じる。しかし、無名の花店から買っても、ブランドがないから5万円の価値にはならない」。だからだめだと言われたそうです。
そこから8年間赤字でした。今も一緒にやっている、根本という専務がいますが、彼もよくやってくれました。独立した頃の月給は5万円ですから。根本に「辞めようかな」と言ったら、「馬鹿やろう、あんないい給料のところを辞めて、2人で始めて、それですぐに辞めるなんて恥かしいことはできないよ」と言われました。
そして、「今、自分たちは金がないだけで、ケガをしているわけでもないし、ちゃんと歩ける。だから、とにかく本当にだめだと思うまでやってみようじゃないか」と、彼が言ってくれなかったら、今のアートグリーンはありませんでした。
【ナレーター】
仲間と奮起し、ビジネスモデルを磨き続けた田中は、胡蝶蘭を贈答用生花の代名詞へ押し上げることに成功。実現できた理由について、田中は自身の前職での経験を引き合いに、こう分析する。
【田中】
昔は、胡蝶蘭の贈答というのはほぼなかったんです。それが、ちょうどアートグリーンの成長と胡蝶蘭の流通量が同時並行して上がっていったという、そういう運の入り口にいたわけです。そもそも胡蝶蘭を選んだのは、たまたま以前、僕がいた会社が、5000万円ぐらいのものを買ってくださった方に胡蝶蘭を贈るということをしていたので、それを自分のビジネスに取り入れたわけです。
そして、四季報を見たときにトップの方たちの趣味の3位が園芸であったことが合体して、胡蝶蘭を選んだ。これが結果として、大正解でした。
【ナレーター】
挑戦を成功するために大事していることとして、田中は「正直で素直なこと」だと言い切る。その真意について、次のように語る。
【田中】
自らの現状を正直に言って、人一倍がんばれば、人は必ず協力してくれます。小学生が相手でも、大人の嘘は必ずバレていると思います。だから嘘をつかず「今はこうなんだけど、他社より頑張るので、何とかしてうちから買ってもらえませんでしょうか」と正直に言うと、みんななんとなく「こいつ正直だし、何かしてあげたいな」って思うんです。
社員にも言っているのは、正々堂々と今のありようを正直に言って、協力してくださいと言えることが大切だと。そして、間違ったらごめんなさいと言えることが大切。社長だって会長だってごめんなさいと言うべきだと思います。
すべて自分が正解だと言っているような人たちが、どこかの組織のトップにいるというのは間違っていると僕は思うんです。間違っていたら素直に謝ればいいと、経営33年やってきて59歳になるのですが、実際にそのようにすることで、これまで味方が現れてくれていたので、そんな風に人生を日々歩んでいると、絶対いい人生が来ると考えています。
【ナレーター】
今後は、事業領域をさらに拡大していきたいと語る田中。見据える展望と、思い描く夢とは。
【田中】
胡蝶蘭をはじめとした花の流通事業だけでは、今後の展開として難しいので、造園や外構工事、屋内緑化、壁面屋上緑化などの緑化事業に去年から参入し始め、これらの売上を倍増しようと思っています。
そして最終的にはエンターテイメント性のある事業に取り組みたいと模索しています。皆さんもそうかもしれませんが、一生に一回ぐらい、『美ら海水族館』や『旭山動物園』などに行ってみたいと思う方は多いですよね。では、「一生に一回でいいから行ってみたい植物園ってありますか?」と質問すると、「植物園なんて行ったことないしなあ」という感じになりがちです。
地球の歴史において植物はとても重要なのに、学べるような場所もありません。そこで、エンターテインメント性を取り入れたらどうかと。例えば、キャラクターとしてひまわりおじさんがいたり、胡蝶蘭おばあさんがいたり、そこにしか会いに行けないようなキャラクターがいたり、さまざまなアイデアが考えられるのではないでしょうか。
植物をやっている僕らとしては、エンターテインメントと植物と生き物を掛け算しながら、一生に一回は行きたい植物園をプロデュースできるのではないかと思っています。
【ナレーター】
求める人材像について、田中は次のように語る。
【田中】
やはり挑戦者を望んでいます。「自分がここの社長だったら、田中にはできないこういうことができるんだよ」というような、今は若くてできないとしても、そういう思いがある人しか多分トップにはなれないですよね。極力責任を取れる範囲内だったら仕事を任せてあげたいと思っているので、「社長になりたい」というような人が来てくれたらうれしいと思います。
■大事にしている言葉
「実事求是」という言葉がありまして、これは中国の4字熟語で、目の前にある現実からしか求める答えがないという意味になります。「自分の今のありようはこうです」と正直に伝え、その現実をふまえたうえで「人一倍がんばってこういう商品を提供するので、ぜひ、うちを選んでくれませんか」という、先ほども申し上げたことに繋がります。
今の現実を捉え人一倍努力をするという、健気な努力の積み重ねでしか、多分人は協力してくれないと思うんです。僕はビッグな人間でもなかったし、今も明日も来週もそういう意識でいますし、社員に対しても「持久戦を旨とし、地に足をつけて身分相応の考え方を持ちましょう」と朝礼で唱和しているんです。人生観としてこのことが一番重要じゃないかなと思っています。

経営者プロフィール

氏名 | 田中 豊 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1966年1月21日 |
出身地 | 神奈川県横浜市 |
座右の銘 | 実事求是 |
愛読書 | マーフィー100の成功法則 |
尊敬する人物 | 堀威夫 鳥羽博道 |
1988年3月成城大学経済学部経営学科卒業
4月リゾート開発会社STTコーポレーション入社
1991年12月同社を退社後、アートグリーン設立
代表取締役就任
2006年一般社団法人東京ニュービジネス協議会
(旧 社団法人関東ニュービジネス協議会)理事
並びにベンチャー創出委員会委員長就任
2012年同協議会事業創出部門副会長就任
2015年12月名古屋証券取引所セントレックス(現 ネクスト市場)上場
現在に至る
会社概要
社名 | アートグリーン株式会社 |
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本社所在地 | 東京都江東区福住1-8-8 福住ビル |
設立 | 1991 |
業種分類 | 卸売業 |
代表者名 |
田中 豊
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従業員数 | 89名 |
WEBサイト | https://www.artgreen.co.jp |
事業概要 | 洋ラン・各種種苗の生産・卸売、生花全般の卸売、フラワービジネス異業種参入支援事業、 ブライダル装花の企画、デザイン、観葉植物の卸売・リース アートフラワー・造花の製造・リース、総合園芸コンサルタント 園芸資材の卸売、台湾産胡蝶蘭苗の輸入・卸売 造園・土木工事の設計・施工 |