【ナレーター】
自前主義を貫いた結果、現在、国内に89か所、海外に5か所の拠点を構えるまでに成長し、機械工具業界のリーディグカンパニーとして躍進を続けるトラスコ中山。
挑戦を成功させるために、お客様の利便性に関わる数字を常に意識していると中山は語る。
【中山】
いろいろなことにチャレンジすることによって、お客様やマーケットの利便性が高まるのかどうかというところは、しっかり見ていますね。
やる以上は、便利なほう、便利なほうに進んでいくようにする。それは心がけてやっていることです。
経営指標やKPIをいろいろと上げる会社がありますよね。ですが、こうしたものは基本的には全部、「我が社目線」の数字。お客様には全く関係のない指標です。
例えば、在庫回転率ひとつとっても、それは、お客様が知らなくていいものですし。お客様からいただいた注文の商品を出荷して、いかに早く届けたか、この指標が私たちの一番のKPI。その思いでやっています。
自分たちの数字を上げることばかり考えると失敗してしまう。そう思いますから。
【ナレーター】
「教科書にない経営」。中山が経営において重視している考え方のひとつだ。その中で生まれた独自の経営戦略とは。
【中山】
例えば、在庫に関して。世間的には在庫はとにかく少なければ少ないほどいいというのが、世の中の教えになっています。
けれど、当社は逆。在庫は多ければ多いほどいいということで、徹底した在庫戦略をとっています。
お客様への即納率を高めるための在庫という考えでやってきましたが、実は「在庫のおかげで」という枕詞で語ることができるように、残業も激減しました。
在庫を増やせば残業が減る。意味が不明な説明と感じられますが、実は在庫があるおかげで、システムを用いた受注ができるようになったことが影響しているのです。
それからもうひとつ。在庫のおかげで同業ライバルがお客様になりました。
これはどういうことか。簡単にいいますと、同業ライバルは、いわゆる売れ筋しか在庫を置いていません。ところが、私たちは売れ筋だけではなく、売れない商品も保管している。それを基本方針として、やっています。
その中で、同業者が自分のところで保管していない商品の注文を受け、メーカーさんに発注すると、「バラ出しはできません」「運賃がかかります」といわれてしまう。
ところが、我々からお買い求めいただくと一番早くて安く、運賃もかからない。そういう状況になりました。
これも教科書には書いていないことです。
ネット通販の会社さんとの取引を増やすには、デジタルを強化する必要性などが挙げられますが、まずはデジタルより先に物流や在庫を整えることが大事ではないかと思います。
【ナレーター】
今後は、業界全体の物流の仕組みそのものの変革にも挑戦したいと語る中山。その真意と、現在注力している取り組みに迫った。
【中山】
売上が上がるか、利益が上がるかという問題以上に、いつの時代も社会のお役に立つ会社であり続けたい。それが事業の本質だと思っています。
具体的な施策としては「ニアワセ」。できるだけひとつの箱にいろいろな商品を詰め込み、一回で送るサービスが非常に好評です。
ネット通販でお買い物をされると、箱がいくつもご自宅へ届く。そうすると運送のロスも発生します。梱包や段ボールの処理も大変ですよね。そこで、発送をひとつにまとめようと考えました。
それから、当社はネットショップに商品を送るのではなく、発注されたユーザーさんへ直接商品を送っています。これが今、大好評です。
非常にメリットが大きいので、これらの取り組みによって「物流の常識を変えること」「物流の仕組みを大掛かりに変えること」が、大きなビジョンです。
【ナレーター】
人材育成について、他の人とは違う持論があると、中山は語る。
【中山】
「人は教育できない」という発想を持っています。
もし、人が教育できるなら、松下幸之助さんの下にいた人は、みんなできる人になる。だけど、そういうわけではありません。
本人がやはり「成長したい」「伸びたい」という意識を持たないと、人は育たないと思っています。
それから今現在、世の中では「人材人材」とさけばれていますが、与えられた仕事に対して、どれだけ真正面から前向きに真摯に、その仕事に取り組んでいるか。それができている人が「人材」だと思います。
まずは会社の業績を伸ばすことをやっていけば、それにつれて人の歩みも早くなっていきます。難しい機械を使っていくことによって、能力も上がる。ですから、会社が成長することが人材の成長にも直結していると、私は思っています。
ー大事にしている言葉ー
【中山】
「取捨善(ぜん)択」。選ぶなら善を選べという発想は大事です。
ビジネスの場合、どちらかというと採算や効率が優先されます。でも、何かを選ぶときには、正しいか間違っているか、善か悪かという判断で選ばなければなりません。
採算ばかりを重視した選択は必ず失敗する。そのような周囲の失敗を見てきましたので、「取捨善択」を大事にしていきたいと思います。