【ナレーター】
ジレンマを抱える中で、設楽が今もなお悩んでいるあることと、その解消のために行なってきた人材マネジメントとは。
【設楽】
いわゆる社員の幸せって何だろうということはずっと考えていました。
例えば多店舗化するときも、うちの店は尖った店で、地方に出したり多店舗化したりするのは嫌だという社員はいました。そこで私が「じゃあ偉くならなくていいのか、給料上がらなくていいのか」と言うと「いや、それは困る」と。
この店だけだったらずっとそれはできないよという説得の仕方をしたり、本当に自分たちのつくりたいものをつくりたくないかと言ったり。あるいは海外に行った時にある程度のロット数を言われて、そのために諦めるのは嫌じゃないかと。
それをやるためにはある程度のチャネルが必要だと言うと、「そうですよね」というやり取りの中で、社員みんなの合意をとって進めてきたという歴史があります。
【ナレーター】
規模の拡大にあたって、これまで与えられる社員の幸せとは「やりがい」と「給与」の2つだけだった。しかし、社員とのある会話の中から第3の幸せがあることに設楽は気づいたという。知られざるそのエピソードに迫った。
【設楽】
ある自分が考えたプロジェクトがあって、こいつにやらせたいなという人間を選んで社長室に呼んで「お前に今回のプロジェクトを任せたいんだ。やってくれ」と言った時の最初の一言が「社長、火曜日休めますか?」だったんですね。
えっ?それが第一声?と心の中で思いながら理由を尋ねたら「僕は、火曜日はとても親しい仲間とサーフィンをやると決めていますので、それできないんだったらお断りします」と言われたんです。
最初は腸が煮えくり返りましたが、最終的には「じゃあ火曜日休んでいいからやってくれよ」となりました。
その時に気がついたのは、「僕はビームス大好きですし、ビームスで偉くなりたくないわけではないけれども、もう1つ、仲間とサーフィンをやることが同じように大事なんです。そういう生活をしていますからそれができないんだったら偉くならなくてもいいです。ただビームスにはいたいです」と聞いて、ああ、社員の幸せってそういうこともあるのかなと。
仕事であっても趣味であっても副業であってもそれができる会社。もしかしたらこれが第三の社員の幸せになるかもしれないということを気づかされた瞬間でしたね。
【ナレーター】
2020年に猛威を奮った新型コロナウイルスを始め、変化に対応することが求められる現代において、その存在感を際立たせているビームス。設楽が考える、企業が存続するためのキーワードとは。
【設楽】
「フレキシビリティ」だと思うんですね。
100人いれば100のビームスがあると言っているように、ビームスは国内に160店舗程あって、それぞれがみんな違う顔なんです。
例えば同じベストであっても銀座でコーディネートをするディスプレイをちょっと大人風にしていますし、原宿だとストリート風にしています。やっぱりそれぞれがフレキシビリティの中で自分とその土地のジャンルに合わせた時代に合わせたものをやっている。
それはコトにおいても同じで。何かそれでいろいろ試していることが、全く違う業界の方にも通じる提案になるんじゃないかなと思います。
陳腐化をさせないようにするには、一人のお客様に「これもあるけれど、こういう生活もあるのではないか」ということを伝えられるかどうかだと思っています。
しかしその分大変です。なぜなら、企画されてない店の内装も一から全部考えなければいけませんし、商品構成も全然違います。ただそれが長く生き残れたコツかなとも思いますね。
【ナレーター】
設楽が目指す、ビームスの未来像とは。
【設楽】
“オペレーション機能を持った企画集団”になりたいですね。
企画屋さんというのは今までは極端な話、紙と鉛筆で提案できる専門チームだったわけです。その人間たちが考える企画というのは、やっぱり現実に裏打ちされているデータと旬に敏感なお客さんが入っている店という“劇場”を持っていることが今後非常に強みになるのではないかと思いまして。
次のビジネスでは何かそれを活かした、モノだけじゃない、時代とかコトが動かせる集団になりたいなと思いますね。
-視聴者へのメッセージ-
【設楽】
ビームスの設楽です。ご視聴ありがとうございました。
今はコロナの影響で各業界が本当に厳しい状況ですし、そこで働く人達も本当に厳しい状況だと思います。ただその時も、やっぱり未来をどういうふうに明るくするか、社会もそうですし自分自身もそうですし、それを一生懸命考える時期じゃないかなと思います。
僕は自分が好きなことを仕事にしてきましたけれども、好きなことを仕事にできるということは非常に幸せです。中々それができないという方も多いと思いますけども、それでもどういう形でそれをこなしていくかと考えることが、一歩進むコツだと思います。
社内では「努力は夢中に勝てない」というふうに言っていますけれども、物事に夢中になること。それで仕事になるとすれば、こんなに幸せなことはありません。
何らかの形でそこに行く道というのはあると思いますので、皆さん、壁にぶち当たった時は、もう1回、自分は何が大好きだったか、それを考える時間にして、一歩進んでほしいと思います。よろしくお願いいたします。