【ナレーター】
朱肉のいらないハンコの市場において、国内シェアトップを誇る老舗メーカー、シヤチハタ株式会社。
シヤチハタの『ネーム印』の累計出荷本数は1億8000万本以上。
近年では、紙おむつに押すスタンプ『おむつポン』や、スタンプを手に押し、印影が消えるまで手を洗う『手洗い練習スタンプ おててポン』などのユニークな商品も多数開発。
デジタル上の決裁システムについても、1990年代から商品開発を進めており、アナログとデジタルにおける、ハンコの新たな可能性を追求し続けている。
働き方の多様化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進などにより「しるしの価値」が見直されるようになったと語る4代目社長の、次のステージへ向けた挑戦の全貌に迫る。
【ナレーター】
2020年のコロナ・ショックの影響によって普及が加速する電子決裁システムだが、シヤチハタでは25年以上に渡って開発を進めており、その過程において押印文化に対するユーザーの本心と、システムそのものの課題にたどり着いたという。
【舟橋】
パッとそのドキュメントを見て「承認されているのかどうか」や「合意した」いう印がないとやはり困る、という意見が圧倒的に多かったのです。それらの声を参考に、使いやすさを今追求しており、今後も印というのは大切にしていきたいと思っています。
電子決裁システムでは「BPS＝ビジネスプロセスそのまんま」というのを合言葉にしています。
今までアナログでやってきた決裁のシステムや会社の中の仕組みを、DXにするからといってがらっと変えてしまうと、ハードルや価格が非常に高くなってしまうんです。
なるべくハードルを低くして、DXのファーストステップを踏んでいき、その先にどうあるべきか、顧客の声を聴きながら当社も変わっていく。この変化への対応については、日本はやはり遅れており、見直すところだと思っています。
【ナレーター】
電子決裁システムだけでなく、ハンコを始めとした製品開発においてもユーザーが何を求めているのかを深く追求することが大事だと、舟橋は言う。
【舟橋】
どういうことが便利だと思われているのか、メーカーが知り、サービスや物に転換していくということが、昔から顧客主義だなどといろいろ言われていますけど、やはり表面的なものですよね。
ユーザーが何を求めているのか、より深く入って情報を得て、それをもの作りの土台にするということは、あまりメーカーはやられていないのではないかと思います。
まだまだメーカーの技術、メーカーのブレーンが考えた自己満足の商品で、「商品が良いから売れている」という流れなのではないか、という気がしますね。
【ナレーター】
製品開発に強いこだわりを持つ舟橋だが、元々はグローバルに活躍できる人材を目指しており、大学卒業後はアメリカに留学しMBAを取得。その後、大手広告代理店へ入社した。当時の仕事から得た学びとは。
【舟橋】
入社間もない頃に、総額3億円程の仕事を「お前に任せるからやってみろ」と上司に言われたんですよ。
仕事を進めていく中で、実はその上司が後ろで手を回してくれていたり、クライアントの上の方に話をして「教育の一環だから、ダメなものはダメと言ってやってくれ」「ここは通してやってくれ」など細かなことをしてくださっていたり、ということを後で知ったんですけれども。
実戦形式で任せながら人を育てる「究極の場」みたいなものを体感させていただきました。
【ナレーター】
仕事の裁量が大きい分、思ったように進まないことも多い中、舟橋はどのように乗り越えてきたのか。
【舟橋】
問題や落ち込むようなことがあっても、寝るまでの間に自分の中で決着をつけるようにしています。今もそうです。社長になっても、周りの人材、スタッフのほうが私よりもはるかにそのエリアでは優秀ですので、まず彼らに聞く。
「申し訳ないけど全然わからない。これ、どういう意味？」と。「聞く」ですよね。そのことを、当時教えてもらったような気がしますね。
わけもわからず「はいはいはい」と返事すると、「『はい』って、何がわかってるんだ？」といつも上司から言われていましたから。
「ああそうか」と。わからないことは必ず聞く、という癖がつきました。
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