【ナレーター】
順風満帆な社会人生活を謳歌していた舟橋だったが、父親からのある言葉がきっかけで大手広告代理店の退職を決意する。
【舟橋】
父から「文具・印章業界において、商流が激変している。君がもしこの会社に入るつもりがあるのであれば、このタイミングを逃すのは、非常にマイナスだと思うよ。そこを考えて行動してくれないか」という話があったんですよ。
あれをしろ、これをしろ、ということをあまり言わなかった父ですが、31歳頃にその話を聞き「これはよっぽどのことなんだな」と思いました。
父からの言葉を受け、当時担当していた現場のプロジェクトへの参画はせず、退職を申し出ました。
【ナレーター】
そして1997年、シヤチハタへ入社。当時の会社の印象について舟橋は次のように語る。
【舟橋】
品質というものをとても大切にしつつ、お客様のことを考えている、真面目な良いメーカーだなと思いましたね。
それと、すごく恵まれた会社なんだな、と思いました。しかしやはり、長年いわゆる保守的な業界にいますと、当時から考え方も保守的で堅かったり、風通しが悪かったり、というのを感じていました。
【ナレーター】
その後、順調にキャリアを重ね2006年に代表取締役社長へ就任。しかし2年後の2008年、リーマン・ショックが発生し、舟橋にとっても会社の方向性を考える大きな転機になったという。
【舟橋】
企業が文具や消費財を買う、その買い方がかなりシビアに変わったんですね。
そのときに「BtoBはBtoBで突き詰めていかなければいけないけれども、バランスよくBtoCの商材、流通業者ともお付き合いし、しっかり取り組もう」と考えたのです。オフィスで買うものも、そのあたりから個人消費が増えていきました。
個人消費が増え、単価が高くなることで、求められるデザインや機能、色なども変わっていきますので、これらのマーケティングも変えていきました。
「BtoCで何ができるか」と考えたときに、やっぱり子どもが楽しめるもの、親御さんが子どもに対して便利に使えるもの、アート&クラフトの商品など…。『おててポン』にありますように、若干サニタリー系のものも始め、商品系統を複数ピックアップし、そこで BtoCの商品群をつくっていこうと思いました。
【ナレーター】
ユーザーニーズに応える商品を生み出すための活動のひとつとして行なっているのが『シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション』というイベントだ。その全貌に迫った。
【舟橋】
個人消費者として「どういうものがいいのか」という目の感覚を忘れないようにするマーケティングです。
プロアマ問わず商品のデザインとアイデアを応募していただくことで、皆さんが今どういうことを考え、便利だと思っているのか。どういうことが格好いいと思っているのか、などを広く問うことで、商品開発の視野を広げています。
【ナレーター】
アナログ、デジタル問わずシヤチハタが必要だと言われる存在になっていきたいと語る舟橋。その実現に向けて取り組んでいることとは。
【舟橋】
今後は認証というエリアで、アナログとデジタルを融合させるような事業というのを展開していきたいと思っています。
アナログの商品も忘れてはいけませんし、デジタルのサービスも電子決裁だけではなく、そこに付随するものをいかにカスタマイズしてサービスに転化していくか、というところに広げていきたいですね。
あとは、アナログの印刷物について。例えば、トランプの模様の面を52枚並べ、それを我々の技術を搭載したカメラで撮影し、裏返さないままでも柄や数字を当てることができる、というものを開発しています。
同じに見えるものでも、一億から無限大まで個別認証ができるという技術です。その個別認証のマーケットを探して、お客様に合うサービスづくりとマッチングしていきたい。そのように、認証の幅を広げていければと思っています。
【ナレーター】
取り組みを推進するべく、求めている人材像について舟橋は次のように語る。
【舟橋】
今までは、優秀な人が非常に優秀な仕事をしてきました。
しかし、正しく物事を推進する「優秀な人材」ではなくて、必要であればルールを変えるような行動をしながら、自分で考えて正しいことをやり遂げていくような人材が良いと思いますね。
-大切にしている言葉-
【舟橋】
「些細なことでも感謝ができる気持ち」「いつも謙虚な態度でいる」「どんなときでも素直な心で人の話を聞き入れる」という、これらの3つの言葉を大切に生きてきています。
人と話をして「なるほど」と思えるのは、おそらく人間だけなのではないでしょうか。ですからそこは大切にしていかなければいけないですし、どれだけ素直に聞き入れて「なるほど」って思えているかで、人生の価値が違ってくるのではないかとも思います。
そういう心持ちでいれば、仕事も人生も、豊かで実りあるものになっていくのではないかと思っています。