【ナレーター】
「サンマルクカフェ」や「牛カツ京都勝牛」など、多様な業態を国内外に870店舗以上展開するサンマルクホールディングス。その中でも「チョコクロ」は、年間1000万個を売り上げる同社の代名詞とも言える商品だ。
私たちの心を掴んで離さないこの大ヒット商品は、どのようにして生まれたのか。同社の代表を務める藤川祐樹社長に話を伺った。
【藤川】
実は、当社の創業当時の看板商品は「チョコクロ」ではなく、あんパンだったんです。
では、なぜ「チョコクロ」に変わったのかというと、当時、より尖った商品を模索する中で、テスト販売していたチョコクロワッサンに確かな手応えがありました。そこで創業者が「これを積極的に売り出そう」と決断したのです。
親しみやすい「チョコクロ」という名前に変更して大々的に打ち出した結果、当社を代表する商品へと成長しました。
【ナレーター】
市場の反応を見極め、柔軟に変化していく。このサンマルクのイズムを受け継いだ藤川は、次々と改革を推進している。巨大チェーンの成長戦略の全貌に迫る。
【ナレーター】
そもそも、証券マンであった藤川は、なぜ畑違いの外食産業の世界へと飛び込んだのか。すべての始まりは、前職での岡山駐在時代、創業者の片山直之氏との出会いにあった。
【藤川】
当時の片山とのやり取りを振り返ると、ビジネスモデルに対する徹底した追求姿勢が非常に際立っていました。
創業経営者というと、情熱重視で比較的どんぶり勘定な方も少なくない印象ですが、片山は非常に哲学的でしたね。「どうすればビジネスモデルとして精緻なものになるか」という、逆算思考が極めて優れていた方でした。
【ナレーター】
創業者の思想に惹かれ、2019年にサンマルクホールディングスの門を叩いた藤川は、IR担当を経て2022年に代表取締役社長に就任した。彼が若き日に学んだ「最大の教訓」が、今のデータに基づく経営の根底に流れている。
【藤川】
証券マン時代、欧州債務危機が起こったときのことです。お客様の投資信託が2〜3割ほど値下がりしてしまい、私はご報告するのを躊躇してしまったんです。その結果ひどくお叱りを受け、お客様からの信用を完全に失ってしまいました。
この痛烈な反省があるからこそ、「悪いニュースほど早く伝え、レスポンスを早くする」ことが何よりも重要だと肝に銘じています。
【ナレーター】
悪いニュースから目を背けず、シビアに向き合う。この教訓は、未曾有の「物価高騰」に直面する今の経営にも活きている。価格転嫁という難しい課題について、藤川は次のように語る。
【藤川】
物価高騰に対しては、基本的に「価格転嫁」しか答えはないと考えています。しかし、ただ値上げをするだけでは顧客数も売上も減り、結果的に利益も出なくなってしまう。
だからこそ、「価格転嫁に見合うだけの価値やサービスをいかに提供できるか」が、生き残るための最重要ポイントです。
当社は『私たちはお客様にとって最高のひとときを創造します。』という理念を掲げています。素晴らしい言葉ですが、少し抽象的で、現場のアクションに落とし込みにくい側面もあります。
そのため、どう行動すれば理念を体現できるのか、具体的な「事例ベース」で従業員に伝えるようにしています。
たとえば、「鎌倉パスタ」であった出来事です。小さなお子さんがぐずり始め、ご両親があやすために、一度、店外へ出なければならないことがありました。当然、お出ししたパスタは冷めてしまいますよね。
そこで、お客様が席へ戻られたタイミングで、スタッフが新しいパスタの作り直しをご提案したんです。ご両親からは「温かいものを食べるのは久しぶりだ」と大変喜んでいただけました。これこそまさに「最高のひとときを創造する」という理念にマッチした行動です。
こうした素晴らしい実例を、全従業員に共有し、展開するようにしています。