日本のポップカルチャーが、世界中から注目されるようになって久しい。人気のハローキティをはじめ、株式会社サンリオのキャラクターたちに出会えるサンリオピューロランドは、日本の“Kawaiiエンターテイメント”を代表するテーマパークとして親しまれている。
株式会社サンリオエンターテイメントの小巻社長は、ピューロランドの館長などを務めた経験を活かし、次世代を見据えたエンターテイメント創出に取り組んでいる。
テーマパークの新たな価値を模索する小巻社長に、サンリオピューロランドが目指すエンターテイメントの未来や社員に求める人物像などをうかがった。
国内初の「全館屋内型テーマパーク」として開業
―サンリオピューロランドの開業にまつわる秘話をお聞かせください。
小巻社長:
サンリオピューロランドは、株式会社サンリオが創立30周年をむかえた1990年に、東京都多摩市で開業しました。
国内初の全館屋内型テーマパークであることが特長で、雨風や暑さ寒さに強いこと、屋内照明によって昼夜の光景や夕焼けなどを演出できることが注目されました。
実は、当初の計画ではハローキティをはじめとするサンリオキャラクターは、登場する予定ではなかったのです。
しかし、当時の社長が、ピューロランドの建設中に近くを通りかかった親子の「あれはキティちゃんのお城なのよ」という会話を聞き、サンリオのキャラクターがいかに愛されているかを実感して方針をすることになりました。
そうして、キャラクターたちによるライブエンターテイメント中心のサンリオピューロランドが誕生しました。
V字回復を導いた「対話」の組織哲学
小巻社長:
ピューロランドは長らく赤字経営が続いており、私が館長に就任した当初も状況は厳しいものでした。
しかし、このV字回復は、大規模な設備投資や広告費に頼るのではなく、「お金をかけない」という哲学のもと、「人的・関係性的な投資」へとシフトした結果だと考えています。
具体的には、社員一人ひとりの声に耳を傾ける「お誕生日面談」を実施し、部署を超えた社員同士の交流を深める「対話フェス」といったユニークな施策に注力しました。
これにより、社員は年齢や役職に関係なく「なかよく」なり、活発に意見や提案を交わす文化が醸成され、「まずはやってみよう」というチャレンジ精神が根付きました。
この内なる対話と社員の自律的な行動が、顧客の潜在的なニーズを捉え、低コストながらも高付加価値な体験創出に繋がったのです。
一人でも多くの人を笑顔にし、世界中に幸せの輪を広げたい
―コンテンツの中で、強くこだわっているのはどのような点ですか?
小巻社長:
「みんななかよく」という不変の企業理念と、それを達成するための「One world,Connecting Smiles.」というビジョン(存在意義・目指す世界)のもと、すべてのコンテンツに「一人でも多くの人を笑顔にし、世界中に幸せの輪を広げていく」といった想いを反映させています。
特に、パレードやシアターでのショーでは、キャラクターのセリフや歌詞のフレーズなど細部にわたって相手を否定しない表現、多様性を強く意識して創っています。
また、私たちはこの理念を従業員が身体的にも精神的にも安心して働ける環境づくりにも展開しています。
例えば、ユニセックス制服の導入や、カスタマーハラスメントに対する基本方針の策定など、多様性への配慮と従業員保護を明確に打ち出しています。
パーク内での本名表示廃止といった細やかな配慮も、現場スタッフが最高の顧客体験を提供するための基盤であるという考えに基づいています。
海外からのお客様も増えてきている今、言語に頼らないノンバーバルと、デジタル技術による多様な表現方法を取り入れ、時代に対応した新しいエンターテイメントを創出しています。
パーク内のみならず、さまざまな地域、国でも通用するコンテンツを創り、「みんななかよく」の理念を本気で世界中に届けようというのが私たちの挑戦です。
誰かを笑顔にする幸せと、「キャラクターの価値の可能性」を感じられる人材を希望
―求める人物像を教えてください。
小巻社長:
私たちは、「エンターテイメントを通して世界中に笑顔を届けよう」と考えています。
「誰かを笑顔にすることに幸せを感じる」「キャラクターの価値に限りなく可能性を感じる」という2点は、欠かせない資質です。
これからの3年、さらには10年先の未来に向けて、ここで生まれた多様なコンテンツや運営ノウハウなどを世界中に広げていくための壮大なビジネス拡張プランがスタートした今、ともに歩む仲間には、これまで以上に市場を理解する洞察力、市場をクリエイトする意欲、人の歓びへの好奇心が求められます。
また、どこにでも飛び出していける勇気と、常に自らを省察し、すべてを学びに変えるレジリエンス、仲間とともに支え合い切磋琢磨できるコミュニケーション力も期待します。
―社長の右腕として活躍するために必要な「資質」を教えてください。
小巻社長:
「どんな人にサポートしてもらいたいか?」ということの前段階として、まずは社長である私自身が自分の強みと弱みを明確に理解し、弱みも見せられるリーダーであることが必要だと思っています。
これだけ変化の激しい時代です。カリスマ的な経営者がいたとしても、たった1人ですべてを完璧にこなせるわけではありません。
エンターテイメントの分野では、経営者としてのスキルに加え、クリエイティビティやデジタル分野の技術進化の情報に明るいこと、グローバルなエンターテイメントのトレンドを把握していることなども必要です。
現在の社長である私に対しては、それぞれの分野で専門性や強みを持った素晴らしいスタッフたちがサポートしてくれています。
サンリオの世界観をグローバルに展開するエンターテイメントラボへ
―最後に、貴社が思い描く将来のビジョンを教えてください。
小巻社長:
「テーマパーク運営からエンターテイメントラボへ」です。2024年の期初に、「私たちはこの先ラボになる」と宣言しました。
これまでは都内の屋内型、地方の屋外型という2つのテーマパークについて、戦略的にすみ分けを図り、ライブ感あふれるキャラクターエンターテイメントを中心に会社の経営を健全な基盤の上に乗せることを目標として事業活動を行ってきました。
これからは2つのテーマパークのためだけではなく、コンテンツ、サービス、ノウハウのすべてをパーク外で展開するという視点に立って企画・制作に取り組み、サンリオの世界観をグローバルに展開しながらキャラクターの魅力を伝えていきます。
また、2つのテーマパークでも常にフレッシュなコンテンツ・サービス・働き方にチャレンジし、新たな価値を創造していきたいと考えています。
さらに、オンラインやバーチャル空間など、物理的な場所に縛られないファンとの新たなエンゲージメント(つながり)の創出にも注力しています。
Gaudiy社との協業による「Sanrio+」といったデジタル戦略を推進するほか、屋内型施設のキャパシティに縛られずエンターテイメントを届けるため、パーク外での空間プロデュースやイベント実施といった展開も強化していきます。
地域共創の具体化
また、地域社会との共生も重要なテーマです。
サンリオピューロランドがある東京都多摩市や、ハーモニーランドがある大分県とは包括連携協定を締結しました。
多摩市ではハローキティが親善大使を務め、駅周辺の装飾やマンホール蓋の設置に協力するなど、「ハローキティにあえる街」として地域活性化に貢献しています。
これは、テーマパークの中だけでなく外でも喜びを届けるという、「みんななかよく」の理念の具現化でもあります。
編集後記
2025年12月にはサンリオピューロランドが35周年を迎え、10年ぶりの新作パレード「The Quest of Wonders Parade(ザ クエスト オブ ワンダーズ パレード)」を上演するなど、その挑戦は留まることを知らない。
世代を問わず愛される日本発の“Kawaiiエンターテイメント”を創り、楽しさ、感動、思い出づくりに取り組んでいる株式会社サンリオエンターテイメント。
ライブエンターテイメントを通して思いやりのある温かい文化を創るため、テーマパークとして生み出せる価値は何か、サンリオのキャラクターたちを通してできることは何かという命題に真摯な姿勢で向き合う小巻社長の手腕に今後も注目したい。
小巻 亜矢(こまき あや)
大学卒業後、1983年サンリオ入社。
一般的な経営学ではなく、人間の内面に焦点を当てる教育学を専攻。
「対話的自己論」の深い研究により培われたユニークな視点が、社員一人ひとりの主体性を引き出す「対話的経営」の基盤。
2014年サンリオエンターテイメント顧問、2015年同社取締役を経て、2016年サンリオピューロランド館長に就任。
2019年よりサンリオエンターテイメント代表取締役社長。
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