業界調べによると、近年の日本酒消費量は1973年の177万klをピークに下降が続き、2018年には50万klと3分の1以下に減少している。
他の酒類にパイを奪われたのが主な要因だが、一方で輸出金額は2009年72億円から2018年に222億円と3倍増を記録し、和食ブームを追い風に好調が続いている。
業界に大変動の波が押し寄せる中、創業350年を誇る老舗酒蔵の株式会社玉乃光酒造(京都市伏見区)は、今年9月に社長が交代して新体制を迎えたばかりだ。
取り巻く逆境をはね返すためにも、代表取締役新社長の羽場洋介氏が意欲的に発信し続ける献身的なさまは、あちらこちらのメディアで確認することができる。
新社長として総指揮をとる羽場氏にスポットを当て、入社のいきさつや今後の展望についてインタビューを行った。
生きがいを求めて転職した先に現れた社長という職業
ーー入社前のご経験についてお聞かせください。
羽場洋介:
独立して働ける仕事を求めていたので、大学院を出てから会計士になりました。
ですが実際に取り組んでみると、社会的に必要性の高い仕事とはいえ数字をパトロールすることにそれほど興味を持てなかったんです。
もっと人に温かく接するような、それでいて生きがいを感じられる仕事がしたいと思い、飲食関係のワールド・ワンに参加しました。その後、結婚したことで妻の家業が酒蔵であることを知り、その縁から弊社に関わることとなったのです。
ーー社長に就任するまでの経緯をお聞かせください。
羽場洋介:
最近まで現会長である義理の父が社長をしていた弊社に、コロナ禍で落ち込んだ時期の2年半前から顧問として参加し、会社を見るようになりました。
そして去年8月、会長に「ぜひ力を貸してほしい」と次期社長への就任を要請されました。
1年経ち、「日本酒を復権させ会社を盛り上げよう」と心に誓い、今年9月に社長に就任したという経緯です。
日本酒という概念を超えた世界戦略を模索
ーー貴社の特長はどんなところでしょうか?
羽場洋介:
商品力でいうと、地名の由来となった「伏水」という良質な水に恵まれた土地ですから水へのこだわりは強く、もちろん米も厳選したものを使用しています。手作りで仕上げた限りなくピュアな純米酒で、いい製品を送り出している自信はあります。
若い世代に対するブランドの認知度はそれほど高くはありませんが、祖父の世代は玉乃光をよく知っています。戦後の復興期にブームのように売れ、誰もが玉乃光を求めるくらい一世を風靡したことがあったからです。
通常、小さい酒蔵は流通網を持たずに単価の高い商品だけを売るケースが多く、量をさばくことはできません。逆に酒造メーカーになると大きな流通網で単価は安くてもスケールを大きく動かすかわりに高級酒を売るのは難しくなります。
弊社はブームの時代に大手流通先とも取引を築いていますので、今でも量販、高級路線とも二刀流で販売できるのが大きな強みです。
ーー新商品や海外展開についてどうお考えでしょうか。
羽場洋介:
日本酒は主に和食レストランで飲まれるものです。
いくらユネスコ無形文化遺産に登録された和食とはいえ、これからの時代、「華僑とセットの中華」のように普及するのは難しいでしょう。日本は自国でも人口減の時代に入っていますからね。
ですから日本食とセットでない日本酒を着想しています。和食レストラン以外でも、たとえばタイ料理やインド料理など、いろんな国の料理と一緒に飲める日本酒があってもいいのでは、と思います。
料理にとらわれず、独立したドリンクも同じ考えです。たとえば炭酸入りの日本酒。冷たくスカッとするような飲みごたえで少量パッケージのものなど、暑いタイのような国にフィットするのではないでしょうか。
「一度日本酒の概念を取りはらう」。ここに世界で日本酒を売るヒントが隠されていると思います。
ソーシャルメディアの活用は認知度アップのカギ
ーーSNS活用にも注力されているようですね?
羽場洋介:
いくら品質が良くても、ブランドを知らなければ買う人はいませんから、メディア情報発信をうまく活用していきたいですね。
たとえば「ボイシー」は次のプラットフォームとして有力視されてるソーシャルメディアです。コミュニケーション中心のものよりもボイシーやⅩのように、酒業界以外の人が見るものでより拡散力のあるコンテンツに注目しています。
ーー新しく始めた社内の取り組みがあれば教えてください。
羽場洋介:
社内でSNSを使用したコミュニケーションを採用し、通常業務だけでなくメッセージ発信ツールとしても使用していきます。
また、ミーティングの方法を新しくしました。
全体会議のような形だけの報告会ではなかなか成果があがりません。そのため2週間に1回、幹部全員と1対1で話し合いの場を設けています。
それぞれの個性に合わせて伝え方も変わるし、マンツーマンの方が本音で語り合えてより高い効果が得られると考えるからです。
編集後記
20代の方へのアドバイスとして「あれこれ考えずにすぐに行動に移すべき。20代の人に大きな成果は期待しないので、責任はこちらで取るから思い切ってチャレンジすればいい」とのメッセージをいただいた。
40代でも行動力にまったく衰えを感じさせない羽場社長らしいコメントだ。自信にあふれる発言とアクションで日本酒業界を再び浮上させるだろうと、大いに期待を持たされるインタビューだった。
羽場洋介(はば・ようすけ)/1979年12月生まれ、大阪大学大学院情報科学研究科卒業。公認会計士。2005年4月、PwC京都監査法人入社。2012年8月、株式会社AGSコンサルティング入社、2016年6月、株式会社ワールド・ワン取締役就任(現任)。2023年9月、玉乃光酒造株式会社代表取締役社長就任(現任)。2023年11月に純米酒粕 玉乃光 ホワイティうめだ店を新店としてオープンさせる。記事内に使用している写真はホワイティ梅田の店舗にて撮影。