※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

日本人の平均寿命は年々長くなり、人生100年時代と言われるようになった。

そんな中、日本生活協同組合連合会(通称:生協)を中心に化粧品や健康食品、日用雑貨を提供しているのが、伸栄商事株式会社だ。

2022年に設立40周年を迎えた同社は「すこやかなる美の創造」を企業理念とし、看板商品である洗顔石けんの「エルベナソープ」をはじめ、さまざまな商品を企画・販売してきた。

2代目社長である三谷千里氏は、先代が交通事故で急逝したことで、経営者としてのノウハウなどが身に付いていない状態で会社を引き継ぐことになったという。

社長就任時の心境や、先代の言葉をもとに作ったという企業理念に込められた思いなどについて聞いた。

先代の急逝による突然の社長就任

ーー社長に就任されるまでの経緯についてお聞かせください。

三谷千里:
大学卒業後は一般企業に就職し、5年間総務人事部で給与計算、秘書、社員研修などの業務に携わっていました。

その後、創業者である父から経理を任せたいと言われ伸栄商事に入社しました。当時は、経理業務をしながら、簿記の学校に通い、簿記1級の資格を取得。顧問税理士の先生のところでも勉強させて頂きました。そして5年経った頃、出産を機に一度退職しました。子育ての間は書道教室を開いて子どもたちに書道を教えておりました。

子供が3人生まれ、子育てに専念していたのですが、ある時父から「私が退く前に10年かけて会社の体制を作っていくから、女性社長として会社を引き継いでほしい」と言われたのです。

父は戸惑う私に「女性は歳を重ねれば重ねるほど、自分を磨いて美しく輝いていくんだよ」という言葉をかけてくれました。

この言葉が、私の考え方を180度変える事になり、まさに人生の転機となりました。それから父の元で経営者に必要な知識や経験を積むため伸栄商事に再び入社しました。

ところが、私が入社したのが2011年でしたが、8ヶ月後に父が交通事故で急逝してしまったのです。あまりに急なことだったのでこの先どうしたらいいのかと途方に暮れてしまいました。一旦は、当時副社長だった方に社長を引き継いでもらいました。

ちょうど設立30年の節目の年ということで、父は何のために会社を作ったのか、どういった思いで経営を続けてきたのかを知るため、社史を作ることにしたのです。

その中で取引先の方や社員の皆さんを家族のように大切にしていたことを知り、娘である私が父の想いを受け継がなければならないと思い、会社を引き継ぐ決心をしました。

ーー社長に就任されたときの心境についてお教えいただけますか。

三谷千里:
社史を作り引き継ぐ決意を固め、2013年10月に社長に就任しました。

当時は社長業とは何かということもわからず、父のようにならなくてはとプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。

会社を引き継いだときは、3人の子供たちもまだまだ小さく、社長業と育児を両立していたので、多忙のあまり身体を壊した事もありました。

しかし私がいない間も、社員の皆さんがそれぞれ持ち場をしっかりと守ってくれていて、このときに「社員の皆さんを信じて任せればいいんだ」と気付き、周囲の方に頼るようになり、少し気持ちが楽になりました。

社員の皆さんも創業者が急に亡くなって不安だったと思うのですが、私についてきてくれて、本当に感謝しています。

ーー先代であるお父様が急逝されても、社員の方々が業務を遂行できた理由は何でしょうか。

三谷千里:
父は晩年、若い世代の方へ仕事を任せていたこともあって、社員が自ら率先して業務に取り組む体制になっていたのが大きかったと思います。

この体制が出来上がっていなかったら、今よりもっと苦労していたと思うので、父のおかげだと思っています。

企業理念に込められた思いと伸栄商事の強みについて

ーー貴社の企業理念である「すこやかなる美の創造」について詳しくお聞かせいただけますか。

三谷千里:
先ほどもお話しした、父からもらった「女性は歳を重ねれば重ねるほど、自分を磨いて美しく輝いていく」という言葉をベースに私が考えたものです。

この企業理念には、すべての人がいつまでも笑顔で、幸せでいてほしいという願いが込められています。

我が社は化粧品会社ですが、外見だけを彩るのではなく、内面の美も磨いてほしいと願っています。美しさは幸せを作る源になり、自分らしく輝いていることで周りの人たちも幸せにできると思っているからです。

私たちは、皆様が笑顔で毎日を過ごし、健康で美しく輝けるようにという願いを込め、商品を提供し続けています。

社長に就任して1年後の2014年には、理念である「すこやかなる美の創造」を社内に浸透させるため、コーポレートカラーである「グレースラベンダー」をオフィスに取り入れ、リノベーションしました。

オフィスは人と人とをつなぐ要(かなめ)ですので、部署の垣根を越えてコミュニケーションがとりやすいよう、ワンフロアに社員全員が集まって仕事ができるようにしました。

さらに、企業イメージに合わせて開発した弊社独自の香りのブランドセントも各事務所に設置しています。

ーー貴社の強みについてお教えいただけますか。

三谷千里:
弊社の強みは、取引先である生協独自の厳しい品質基準をクリアし、安心安全な商品を提供していることです。

お客様からクレームを受ける時もありますが、その都度、真摯に向き合い迅速に対応しております。改善を重ね、お客様が抱えるお悩みに沿った商品提案を積極的に行い、企画力を生かしてこれまで多くの商品を生み出してきました。

こうした積み重ねにより強固な信頼関係を築き、トップベンダーとして30年以上取引していただいています。

また、女性経営者として女性の感性を生かし、福利厚生では弊社独自の取り組みを行なっております。働きやすい環境を作るためのオフィスのリノベーションもそうですが、会社にいながら身体を動かし健康になれるというコンセプトで、オフィスの一部を改装しストレッチやマッサージができるコンディショニングスペースを作るなど、健康経営の推進にも積極的に取り組んでいます。
またChisato CLASSEでは、国内外で活躍されている一流の講師をお招きし、社員と一緒に美の感性を磨く取り組みをしています。社員とのコミュニケーションにもなりますし、美しく歳を重ねる事にも繋がります。これまで、茶道、フラワーコラージュ、メイクレッスン、スーツの着こなし、薬膳料理などいろいろな取り組みをして社員の皆さんにも喜んでいただいています。何よりも私が一番楽しんでいるかもしれません。

このような取り組みをすることで、企画会社としてセンスを磨くだけではなく、日常を豊かに過ごす事に繋がっていくと思っています。

ーー貴社の主力商品である「エルベナソープ」は、累計販売863万個の大ヒット商品ですが、これまで人気を得ている理由は何でしょうか。

三谷千里:
「エルベナソープ」は、お客様に長く愛される洗顔石けんを作りたいという想いから、完成まで2年という長い歳月をかけて開発した商品です。

発売から来年の2024年で25周年を迎え、弊社の看板商品となっています。

枠に入れた高温の原料を職人が手作業でゆっくりとかき混ぜ、冷やしながら固めていく「枠練り」と呼ばれる方法で、乾燥と圧縮と繰り返しながら80日間熟成させ、丁寧に作り上げた石けんです。

生分解性に優れているので環境への負荷も少なく、赤ちゃんから歳を重ねた方までご愛用いただいており、多くのファンの皆さんに支えられているロングセラー商品です。

設立40周年を迎えて千里社長が思うこと・読者へのメッセージ

ーー昨年設立から40年を迎えられたわけですが、貴社の今後の方針についてお聞かせいただけますか。

三谷千里:
父が亡くなってからこれまでの10年間は、40代の社員を中心に一丸となって一緒に経営してまいりましたが、この先の10年を考えると、次の世代を今のうちから育てておかないと会社は続いていかないと思っています。

そのため今後は、これからの10年を見据え体制作りを強化していこうと考えています。

私が会社を引き継いだときは10年後どうなっているか想像できていませんでしたが、今は私を信じて会社を任せてくれた父の想いに応えたいという気持ちが強いですね。
時代に合わせ事業は変革していかなければならないと思っていますが、社員の皆さんにこの会社でよかったと思ってもらえるような会社にしていきたいです。

ーーこの記事を読まれている方々に向けてメッセージをお願いします。

三谷千里:
私は会社を引き継ぐ前は、自信がないと感じていました。

しかし、ある方から「お父様だって最初から自信があったわけじゃないと思うよ。自信っていうのは後からついてくるものだから」と声をかけていただき、一歩を踏み出す勇気をもらいました。

皆さんもやりたいことがあったときに「自信がないからやめておこう」とブレーキをかけるのではなく、たとえ大変でも勇気を持ってチャレンジすることが大切だと思います。
また、その勇気やチャレンジを応援できる会社でありたいと思っています。

人生100年時代と言われますが、日本の超高齢化社会に対して健康寿命を上げることで社会課題を解決し、社会に貢献していきたいと思っています。また、皆様がすこやかで美しく歳を重ねるお手伝いができればと願っています。

理念である「すこやかなる美の創造」をもっと多くの人に発信していきたいと思っています。

編集後記

経営者としてのスキルを磨き始めたばかりの頃に、交通事故で先代が他界してしまい、まさに模索状態だったと千里社長は語る。それでも父親の思いを伝える役割は娘である私にしかできないと決心したという。先代の思いを引き継いだ伸栄商事株式会社は、これからも「すこやかなる美の創造」をコンセプトに、人々が自分らしく輝ける商品を提供していくことだろう。

三谷千里(みたに・ちさと)/大学卒業後、繊維メーカーに入社。人事労務業務を5年経験後、創業者である父・三谷隆一が設立した伸栄商事株式会社に入社。経理業務をしながら日商簿記1級を取得。出産を機に一度退職した後、3人の子育てをしながら、書道教室を7年半運営・指導。その後、後継者として2011年4月伸栄商事株式会社に再入社。マネジメントスクールに通いながら父の元で経営を学ぶ。父の急逝により、2013年10月に伸栄商事株式会社、株式会社エルベ・プランズ、株式会社エクロールの代表取締役に就任。理念である「すこやかなる美の創造」を掲げ、歳を重ねれば重ねるほど美しく輝いてほしいという想いで事業を展開している。