日本ワイドクロス株式会社は、無農薬・減農薬栽培に貢献する農業資材を開発・販売する企業であり、減農薬栽培の普及に寄与した功績から、2012年に農林水産大臣賞を受賞した。
そんな同社を100年続く企業にするため奮闘しているのが、2022年に代表取締役社長に就任した廣橋寿祥氏だ。
環境への取り組みや従業員のリスキリング、世代交代など、さまざまなアプローチで会社の成長を図る廣橋氏に、就任時の思いと今後の展望を聞いた。
東日本大震災をきっかけに日本ワイドクロスに入社
ーー会社を継がれる前の修業期間として、丸紅インテックスに2年ほど勤めていたと伺いました。2年間という短い期間で辞められたのには、何か理由があったのでしょうか。
廣橋寿祥:
大きなきっかけは、2011年に起こった東日本大震災です。本来は2年ではなく、3年、4年ともう少し長く働く気でいたのですが、東日本大震災で想定外に世の中が一変してしまった。いろいろなことが変わる転換期を見たことで、私も早く日本ワイドクロスに席を置いて、会社を継ぐ準備をしたほうが良いのではと考えるようになりました。
ーー2022年10月に社長職を継がれたばかりかと思いますが、実際に社長に就任した今、どのような展望を持たれているのかお聞きしたいです。
廣橋寿祥:
祖父が創業して、私が社長になったのが51期目です。社長に就任したときはまず、「この長い歴史のある会社を存続させなければならない」と思いました。弊社はメーカーとして、常に人々の役に立つものを生み出すことを通じて、社会に貢献し続けたいと思っています。やはり100年続く会社にしたいので、私が自分の代をしっかりと担って、次の代につなげたいですね。
市場で生き残るために「圧倒的ナンバーワン」を目指す
ーー貴社の商品の強みはどういった点にあるとお考えですか。
廣橋寿祥:
現在、ホームセンターに並ぶ農業資材のほとんどは海外製品ですが、これら海外製品は規格品ですので、形のパターンがあらかじめ決められています。一方、弊社には決まった形のものだけでなく、お客様のニーズに合わせたオリジナルのものをつくる対応力があります。
昨今の気候変動など過酷さを増す農業環境の中で、こだわりを持って作物を育てるプロの農家さん一人一人の農地や農業用ハウスに最適な商品を提供できるのが、弊社の1番の強みだと思います。
ーー今後は営業体制を強化したいと仰っていましたが、どのような背景があるのでしょうか。
廣橋寿祥:
これは他の産業にも当てはまるかも知れませんが、現在、農業資材の市場は大きく衰退しています。また、農業従事者の高齢化も進んでおり、従事者の数も減ってきています。市場が衰退する中で生き残るためには、その業界で圧倒的ナンバーワンになる必要があります。
弊社には農家の方々へオリジナルの商品をつくって販売できる技術力や対応力があるので、圧倒的ナンバーワンを目指すために、これからは営業により一層力を入れていきたいです。
環境資材の開発やEC事業など新しい挑戦で会社を成長させる
ーー営業のほかに今後、強化していきたいことがあれば教えてください。
廣橋寿祥:
環境資材に力を入れたいとも考えています。弊社では、屋根の上に日陰シートを設置することで夏場の室温上昇を抑制し、節電・省エネ効果を発揮する『ルーフシェード』という製品を販売しています。同製品は東日本大震災の計画停電のときに脚光を浴び、また昨今の電気代高騰によりニーズが高まっています。そのほか、さらに力を入れたいことといえば、海外への輸出などでしょうか。
ーー貴社ではEC販売にも力を入れ始めたと聞きましたが、そちらはいかがでしょうか。
廣橋寿祥:
農業資材はもともと他業界と比較をするとECが進んでいる分野ではないので、ノウハウがあまりありませんでした。ECの事業を他社に委託することもできますが、それではいつまで経っても自社にノウハウが蓄積されない。そのため、ECのビジネスも自分たちでしっかりとできるようになろうと、専任のスタッフを用意して勉強を始めました。外部セミナーを受けたり、コンサルタントに教えてもらったり、リスキリングをしているところです。
ーー農業は高齢化が進んでいる業界だと先ほどお聞きしましたが、貴社の社員構成はどういったバランスになっていますか。
廣橋寿祥:
弊社は小さな会社ですが、半分以上が40代以下で年齢層のバランスが非常に良いです。ベテランの力はもちろん必要ですが、たとえばITに詳しい若手社員を育ててECの事業を任せるなど、組織全体で世代交代していくことも大切だと考えています。
ただ、年齢層のバランスが良い一方で、女性社員の比率がまだ低いことを課題と感じています。弊社では、新しいことに挑戦したい意欲がある人やITリテラシーの高い人なら、男性でも女性でも大歓迎です。このような方々と共にこれから頑張っていきたいと思っています。
編集後記
廣橋社長は取材の最後、20代や30代のビジネスパーソンに向けて「今の日本に閉塞感を感じている人も多くいるかも知れませんが、私たちの世代でこれからの日本を次の世代に繋げるように一緒に頑張っていきましょう」と熱いメッセージを送った。
創業50周年を迎えた日本ワイドクロス株式会社が、創業100年を目指して革新的な製品を次々と生み出してくれることを今後も期待したい。
廣橋寿祥(ひろはし・ひさよし)/1986年福岡県生まれ、トリニティカレッジダブリン出身。丸紅インテックス株式会社に入社後、2年間の修業期間を経て2012年に日本ワイドクロス株式会社へ入社。2022年に同社代表取締役社長に就任。