創業以来、一貫して「人を大切にする経営」と「安心・信頼のサービス」を追求し続けてきた株式会社引越社は、「アリさんマークの引越社」として今や引っ越し業界のリーディングカンパニーの地位を不動のものにしている。その躍進の裏には、代表取締役社長である空雅英氏の人と向き合う姿勢と揺るぎない信念があった。
アルバイトからスタートし、営業やドライバーなどを経験しながら積み上げてきたキャリアは、同社の委託運送業者が一切入らない完全な「自社便」サービスや、きめ細かい社員教育にも反映されている。今回は、そんな空社長に、引越社の強みや人材育成の秘訣、そして業界の未来について語っていただいた。変化の激しい時代にあっても、「お客様の新しい人生」に寄り添い続ける同社のサービスについて空社長にうかがった。
アルバイトからスタートし、引越社一筋に歩んだキャリア
ーーアルバイトから代表取締役社長になるまでの経緯を教えてください。
空雅英:
私は1984年に、アルバイトとして引越社に入社しました。当時は単なる作業員でしたが、徐々にドライバーや営業などを経験し、会社の業務を学んでいきました。営業として働いていた頃、お客様から直接「ありがとう」と言っていただけることがとてもやりがいになっていました。ドライバー時代の経験は、今でも社員教育に活かされています。
そうした経験を積みながら、統括本部部長や常務、専務、副社長を歴任し、2010年に代表取締役社長に就任しました。一度は相談役に就きましたが、2023年に代表取締役社長に再就任し、現在に至ります。
「嫁入りトラック」の習慣からひらめいた「自社便」サービス
ーー貴社が引っ越し業界でトップクラスの企業として知られるようになった理由は何だと思いますか?
空雅英:
名古屋で事業をスタートさせた当初から、引っ越しに対する考え方が他社と違っていたことが大きいと思います。当時の名古屋では、嫁入りの際の引っ越しが非常に盛大に行われていました。トラック数台で華やかに運ぶというのが慣習でした。
そこからヒントを得た弊社は、お客様のニーズに真摯に応えていくことを何よりも大切にしてきました。現場のスタッフ一人ひとりが、「嫁入りトラック」のようにお客様の大切な財産を預かっているという自覚を持ち、丁寧に仕事をする。そのための教育にも力を入れてきました。サービスの質を徹底的に追求する姿勢が、口コミで広がった結果だと思います。
ーーそのような姿勢が、大手企業との差別化にもつながったのでしょうか。
空雅英:
その通りだと思います。弊社では、どんな荷物でも自社のトラックと社員で責任を持って運ぶ「自社便」のサービスを徹底しています。これは、お客様のニーズに真摯に応えるための取り組みです。下請けに仕事を任せきりにすることはしません。お客様の大切な荷物を、自社の社員が責任を持って運ぶ。これが、多くのお客様から信頼されるようになった理由だと考えています。
お客様の大切な財産を守るために、セキュリティ管理を徹底
ーーセキュリティ対策についても聞かせてください。
空雅英:
お客様の立場に立ったサービスを追求していることが、弊社の何よりの強みだと考えます。引っ越しは、人生の大きな節目に行うものです。お客様の不安を取り除き、安心して引っ越しができるようにサポートする。それが私たちの使命です。そのためにも、セキュリティ対策は徹底しています。
お客様の中には、高価な美術品や貴重品をお持ちの方もいらっしゃいます。ドライバーや作業員の教育を徹底し、盗難や破損などの事故防止に全力で取り組んでいます。世間では、悪質な業者による事件も報道されています。だからこそ、弊社は「安心」と「信頼」を大切にする。これからも、お客様に寄り添った誠実なサービスを提供し続けることで、業界をリードしていきたいと思います。
社員の適性を見極め、能力を最大限に引き出すための教育とは
ーー人材育成についてはどのような考え方をお持ちですか?
空雅英:
引っ越しは、お客様の大切な財産を預かる仕事です。そのため、社員一人ひとりが責任感を持って働けるように、教育には特に力を入れています。私は、社員をファミリーのように考えています。一人ひとりの適性を見極め、能力を最大限発揮できるポジションに就けるようにサポートする。ときにはアドバイスし、ときには叱咤激励する。そうすることで、社員との信頼関係を築いていくことができるのです。
また、社員の声に耳を傾けることも大切にしています。定期的なアンケートや面談を通じて、社員の意見を吸い上げる仕組みをつくっています。働きやすい職場環境を整備することが、社員のモチベーション向上につながると信じているからです。
お客様の新しい人生に寄り添うために
ーー現在の引っ越し業界を取り巻く環境と、その中で貴社が目指す方向性について教えてください。
空雅英:
これからも、お客様に満足していただけるサービスを提供し続けることが何より大切だと考えています。そのためには、社員一人ひとりが仕事にやりがいを持ち、お客様の喜びを自分の喜びと感じられる環境づくりが欠かせません。引っ越しを通じて、お客様の新しい人生の一歩に寄り添う。その思いを胸に、これからも引越社は前進していきます。
編集後記
インタビューを通して印象的だったのは、空社長の人を大切にする経営哲学だ。「自社便」サービスは、お客様の立場に立って考え抜かれたシステムであり、社員一人ひとりの可能性を引き出すことを重視する社員教育は、引越社の大きな強みとなっている。
アルバイトからスタートし、引越社を業界トップクラスの企業に導いた空社長。その原動力となっているのは、お客様と社員を思う熱い思いなのだろう。変化の激しい引っ越し業界において、「安心」と「信頼」の価値を追求し続ける姿勢は、引越社の明るい未来を感じさせるものだった。
空雅英/1961年山口県生まれ。愛知県立名南工業高校卒業後、1984年、アルバイトとして株式会社引越社に入社。1990年に統括本部部長、1993年に常務、1996年に専務、2002年に副社長に就任。2010年には代表取締役社長へ就任し10年間務めた。2020年には、相談役に就任し、2023年に代表取締役に再度就任。現在に至る。