※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

建築設計、美容室、シャンプー製造、第三者評価と、社会貢献を軸に、多様な事業を手がけるグループに成長した企業がある。株式会社ディアローグホールディングスは、そんな多角的な事業展開で注目を集める企業だ。公務員から起業家に転身し、柔軟な発想で新規事業に挑戦し続ける代表取締役の井口 智明氏に、その独自の経営戦略について詳しく聞いた。

公務員経験を活かした起業と美容院事業の革新

ーーご経歴と独立の経緯について教えていただけますか?

井口智明:
福井大学を卒業後、大手ゼネコンの熊谷組に入社し、2年ほど工事監督の仕事をしていました。その後、24歳のときに横浜市役所に入庁し、建築許可に関する業務を6年ほど担当しました。将来的には独立しようと思っていたので、建築系の仕事をしていく上で必要な法律の知識を深めるために、市役所での経験を積んだのです。

その後29歳で独立し、設計事務所を設立しました。最初は市街化調整区域の建築許可の代行業務から始めましたが、これは市役所に勤めていたからこそできた仕事で、普通の人では思いつかないようなニッチな分野でしたね。

ーー美容院事業に参入されたきっかけは何だったのでしょうか?

井口智明:
設計事務所の仕事は1つの案件が完了するまでに1年半ほどかかるため、資金の回転が良くありませんでした。そこで、新たな収入源として個室型の美容院を始めたのです。個室型にしたのは、単純に私自身が個室が良いと思ったからです。当時は個室の美容院がほとんどなかったことも知らなかったのですが、結果的に他店との差別化になりましたね。

また、当時はメールでの予約が主流のなか、ネットの予約システムをいち早く導入したことで、多くのお客さまにご好評をいただくことができました。

さらに、美容師の雇用形態として、終身雇用制度を導入しました。当時は、新人のスタイリストが増えると一番上の先輩が辞めなければいけないという慣習があったのです。そのため、終身雇用制度は特に経験豊富なスタイリストさんたちに受け入れられやすく、人材確保にもつながりました。

地元の資源を活用したシャンプー事業で地域に貢献

ーーシャンプー事業を立ち上げた背景を教えていただけますか?

井口智明:
私の地元である長野県の木曽郡で、地域活性化を目指してシャンプー事業を始めました。地元の水源や人材を活用し、新たな産業とすることで雇用を創出して、経済効果を生み出そうと考えたのです。サロンで使われるような高品質のシャンプーを、ドラッグストア価格で提供するというコンセプトで展開しています。

企画から製造、販売まで全て自社で行うことで、コストを抑えられるようにしました。木曽に限らず、地方の問題として産業が衰退し、就職先がなくなっているという現状があるので、こうした事業を通じて、地方が抱える課題の解決にも貢献したいですね。

ーー第三者評価事業にも取り組んでいるそうですね。

井口智明:
福祉施設の第三者評価も行っています。これは、私たちが福祉施設に第三者として入り、施設の状況を評価する事業です。ある社員が「なぜ弊社グループは福祉施設を運営しているにもかかわらず、第三者チェックを受けていないのか」と質問してきたことがきっかけで始めました。

参入障壁が高く、簡単にはできない事業ですが、今では年商1億円を超える規模になっています。また、評価を行うことで福祉業界全体の動向をリアルタイムで把握できるという利点もありますね。

社員の意見を尊重し、新規事業を積極的に展開

ーーどのような判断基準を持って新規事業を始めるのですか?

井口智明:
基本的に、社員が「やりたい」と言ってきた事業はどんどん始めます。実行力には自信があるので、社員が思いついたアイデアを私が実行するという流れですね。最近では社員からの提案で、安価なコンビニ事業を始めました。無人にして人件費を削減することで既存のコンビニよりも安く商品を提供することを目指しています。ミニマムな本部運営と通常の流通経路を活用してコストを抑え、お客様に還元する仕組みですね。

ーー今後の展望を教えてください。

井口智明:
会社の目標としては、定年退職者と新入社員の数を同じにすることですね。これが達成できれば、人件費のバランスがとれ、安定した経営ができると考えています。

現在、最年長の社員が45歳くらいなので、あと15年は会社を成長させ続ける必要があります。時代の変化が速いので、特定の事業にこだわらず、柔軟性をもって取り組んでいきたいですね。そのためにも、社員のアイデアを積極的にとり入れ、新しいことにチャレンジし続けていこうと思っています。

編集後記

井口社長は「本当はのんびりしていたい」と言いながらも、次々と新規事業に挑戦し、会社を成長させている。時代の変化が激しい今、こだわりを持たないことが、むしろ強みになっているようだ。

一方で、井口社長には仕事以外への情熱もある。趣味の松茸狩りや水晶探しに没頭し、まるで子どものような好奇心で自然を楽しんでいる。「絶対に買えないものを自分で見つける」という姿勢は、ビジネスにおける独自性の追求にも通じるものがあるのかもしれない。

井口智明/1974年、長野県生まれ。福井大学卒業後、株式会社熊谷組を経て横浜市役所に転職し、建築許可関連の業務に従事。2003年に独立、起業。ゼネコン・公務員時代の経験を活かし、終身雇用を目指した多角経営を展開。美容室経営を皮切りに、保育園、障がい者施設の運営、設計事業、不動産事業、翻訳事業に進出。2020年にディアローグホールディングス株式会社を設立。地元の木曽郡でのシャンプー製造販売や福祉施設の第三者評価事業など、地域貢献も含めた幅広い事業を手がける。