不動産業界の変遷を見つめ続けてきた企業がある。それが、株式会社アズ企画設計だ。バブル崩壊後の厳しい時代に起業し、都心部を中心とした不動産ビジネスで成長を遂げ東証スタンダード市場への上場を果たした。富裕層向けの資産管理に特化し、社会貢献型ビジネスへの展開も視野に入れ進化を続ける同社の代表取締役松本俊人氏に話をうかがった。
バブル崩壊を目の当たりにし、見つけた独立への道
ーー創業に至るまでの経緯をお聞かせください。
松本俊人:
経理職として不動産業界に入り、複数の不動産会社を経験しました。赤坂や青山の不動産会社、等価交換を手がけるデベロッパー、ゴルフ場やリゾートマンション開発会社、そして地域密着型の千葉の不動産会社など、さまざまな業態を経験しましたね。転職の際は、経営者と近い位置で仕事ができる環境を意識的に選んできました。経営者の考え方に触れたいというのが大きかったと思います。
その後、バブル崩壊が日本を襲いました。当時の日本の経済状況は非常に厳しく、多くの企業が苦境に立たされる状態で、のちのリーマン・ショック以上のダメージがあったと感じています。当時、勤めていた会社の状況もどんどん厳しくなっていたので、独立という道を選びました。
ーー独立されてから苦労した出来事はありますか?
松本俊人:
コロナ禍での宿泊事業の撤退です。コロナ禍の3年間は弊社も厳しい状況に陥り、宿泊事業で7億円の減損損失を計上するなど、業績がマイナスになった時期もありました。しかし、ただ撤退するだけでなく、別の目的に転用することで収益を上げることができたのです。この経験は会社にとって大きなプラスになったと思っています。
都心と郊外、両方の経験を活かした事業展開
ーー現在の事業内容について教えてください。
松本俊人:
主に富裕層の方を対象とした不動産ビジネスを展開しています。上場会社や老舗企業を対象とした商品提供がメインです。取引先は、純資産が厚く、不動産事業を収益の柱の一つとしている企業が多いです。そのようなお客さまにとって、ビルやマンションの所有は、本業以外の事業として重要な位置を占めています。お客さまに対して、収益性があり、不変の価値がある不動産を提供することが私たちの仕事です。
ーー貴社の強みはどこにありますか?
松本俊人:
私たちの強みは、都心と郊外の両方で積んできた経験です。過去には、扱う物件の全てが郊外だった時期もあり、郊外や地方での事業経験も豊富にあります。この経験が、さまざまな地域の特性や産業構造の理解につながっています。
たとえば、埼玉、神奈川、千葉などの郊外は主に住宅地として機能し、地方では農業や漁業などの第一次産業が中心。一方で、都心はサービス業や情報通信業など、第三次産業が主流です。このように、地域によって産業のあり方が大きく異なるため、求められる不動産の形も変わります。私たちは、これらの違いを肌で感じながら、その地域にあった不動産を提案することで事業を展開してきました。
都心に特化し、社会貢献を目指す
ーー注力テーマについてはどのような考えをお持ちでしょうか。
松本俊人:
都心の不動産、特に千代田区、港区、中央区の3区に集中して事業を展開していく方針です。この地域の建物は平均築35年程度ですが、私たちは、大規模修繕を通じてこれらの建物の寿命を10年から20年ほど延ばし、価値を高めて次の所有者に引き継いでいくことを目指しています。
また、社内でDXも推進していますね。駐車場管理システムやオンライン契約など、さまざまなシステムを導入し、業務の効率化を図っています。それぞれの分野において、他社の優れたノウハウを導入することで、私たちが本来注力すべき情報の仕入れやリノベーション、販売に知恵を注ぐことができるのです。
ーー最後に、今後の目標を教えてください。
松本俊人:
私たちの最終的な目標は、富裕層の方々が応援してくれるような社会貢献ビジネスを展開することです。富裕層の方々は、単に資産を増やすだけでなく、社会に役立つことに関心を持っています。そのため、社会貢献型のビジネスは、単に利益を追求するだけでなく、社会的な価値も生み出すことができるのです。それは、渋沢栄一の「論語と算盤」の精神にも通じるものだと考えています。
そのために、まずは現在の事業基盤をしっかりと固め、一人当たりの利益を3000万円程度まで引き上げたいですね。その上で、社会貢献につながるビジネスを展開していくことが、私の夢であり目標です。
編集後記
バブル崩壊後の厳しい時代を乗り越え、都心の不動産価値向上に取り組む松本氏。ただ利益追求をするのでなく、将来的な社会貢献を視野に入れた経営方針は、企業のあるべき姿のように感じる。松本社長の描く「社会貢献ビジネス」の実現に向けた今後の取り組みにも大いに期待したい。
松本俊人/1960年東京都渋谷区生まれ。中央大学を卒業後、複数の不動動産会社に勤務し、1993年にアズ企画設計を埼玉県川口市に設立、代表取締役に就任。東京本社(東京都千代田区)を中心とした不動産販売事業の急成長で2018年3月に東証JASDAQに上場(現在は東証スタンダード市場上場)。