株式会社トーヨーキッチンスタイルは、斬新なデザインと高品質な製品で、キッチン業界の常識を覆し続けている企業だ。アイランド型キッチンの先駆者として知られ、現在では住宅インテリア全般も手掛ける。「『住む』をエンターテインメント」をビジョンに掲げ、顧客のライフスタイル全体を提案している。常に先を行く製品開発と新しいニーズを生み出す提案型戦略で、総合的な住空間創造に挑む同社の取締役社長、清本英嗣氏にお話をうかがった。
スピーディーな意思決定が生み出すデザインの先進性
ーー貴社に入社されたきっかけを教えてください。
清本英嗣:
愛知県にある芸術大学のデザイン専攻を卒業した後、製品のデザイナーとして入社しました。地元企業であることが大きな決め手の一つでしたね。また、当時は2代目社長の時代で、現在の会長は専務でした。私との年齢差が10歳程度と近かったこともあり、新しいアイデアを直接提案しやすい環境だったことも魅力的でした。
弊社は創業から3代目まで同族経営でしたが、初めて外部から私が4代目として就任することになりました。さまざまな経験を積み、会社の成長とともに歩んできたことが、現在の立場につながったと考えています。
ーー入社してから、どのような経験が印象に残っていますか?
清本英嗣:
特に印象に残っているのは、2001年に発表した自らデザインを手掛けた製品です。当時最先端だった透明な素材を採用したアイランドキッチンをつくったのですが、当時は壁付けのキッチンが主流の時代で、デザインが斬新すぎて全く売れませんでした。しかし、そのデザインが後のトレンドをつくり出すきっかけとなったのです。この経験から、新しいものを市場に出す難しさと、失敗を恐れずにチャレンジし続けることの大切さを身をもって感じました。
また、意思決定が早い環境で働けたことも貴重な経験です。新しいデザインを提案しても、決定に時間がかかってしまうと、せっかくのデザインが陳腐化してしまうことがあります。しかし、弊社では迅速な意思決定ができるため、斬新なデザインでも他社の一歩先を行く製品を市場に出すことができました。最初は苦労もありましたが、それが非常に大きなやりがいになりましたね。
キッチンを越えて、くらし全体をデザインする
ーー貴社の事業内容について詳しく教えてください。
清本英嗣:
弊社はキッチンを中心にインテリア全般を扱っており、照明やバス、洗面、さらにはタイルなどを提供しています。特に注力しているのは、やはりアイランドキッチンですね。今では弊社で扱うキッチンのほとんどがアイランド型になっています。
現在の売上比率は、キッチンが60%、インテリアが30%、バス・洗面台が10%程度です。この比率は数年前から大きく変わっていませんが、お客さまの購入パターンは変化しています。以前はキッチンを購入したお客さまに、インテリア製品をあわせて提案するというアップセルが中心でしたが、最近ではインテリア製品を目的に来られるお客さまも増えています。
ーー貴社の強みはどのような点ですか?
清本英嗣:
キッチンだけでなく、インテリア全体を見据えた提案ができる点を強みとしています。以前は小規模なショールームを全国に展開していましたが、現在は20ヵ所ほどの大型ショールームに集約しています。ショールームを大型にしたことにより、キッチンだけでなく、インテリアを含めた全体のイメージをつかんでいただけるようになりました。
また、既存の枠にとらわれないことも強みと言えるでしょう。キッチン以外の分野からもアイデアを得ています。常に業界のトレンドを先どりし、お客さまに新しい価値を提供し続けることが私たちの使命だと考えています。
グローバル展開を通じて、世界と戦う日本ブランドへ
ーー今後の事業展開についてお聞かせください。
清本英嗣:
今後は世界市場を視野に入れた、海外でのフランチャイズ展開を考えており、既にハワイに1号店をオープンしています。弊社は日本国内ではトップブランドとして認識されていますが、世界的に見るとまだまだ認知度を高める余地があります。しかし、無理な拡大は考えておらず、タイミングを見計らいながら慎重に進めていく方針です。具体的な店舗数や期限は設定せず、各地域の状況やパートナーとの相性を見ながら、着実に展開していきます。
加えて、ECサイトの強化も進めています。ただし、キッチンのような大型製品はオンラインだけでの販売は難しいため、実店舗とECを組み合わせたハイブリッドな販売を進めていきたいですね。また、設計事務所や建築関係の方々とのコラボレーションも考えています。弊社の製品を扱いたいという声も多いので、そういった方々と協力しながら、新しい販売チャネルを構築していければと思います。
編集後記
キッチンを、アートのような存在に昇華させた同社の姿勢に感銘を受けた。清本氏の「既存のものだけを見ていては新しいアイデアは生まれない」という言葉が印象的だ。異分野からインスピレーションを得るという発想は、まさにイノベーションの極意だろう。同社の製品が今後さらに、世界中の家庭に彩りと快適さをもたらすことを願っている。
清本英嗣/1958年、熊本県出身。1977年、熊本第⼆⾼等学校美術科卒業。1983年、愛知県⽴芸術⼤学デザイン専攻科卒業。1983年、トーヨー⼯業株式会社(現:株式会社トーヨーキッチンスタイル)に入社し、開発部デザイン課に所属。2018年、取締役社⻑に就任。