
シンユウジャパン株式会社は、電線や導体などの電子機器関連の素材を主に取り扱う専門商社であり、創業者である石中原氏は、中国で生まれ育ち、日本の技術力に魅せられて来日した。異国の地、日本で自身の会社を設立し、高い技術力と迅速な対応力を強みに、業界での地位を確立している。今回は、代表取締役社長の石中原氏にこれまでの歩みや企業の成長戦略、今後の展望についてお話をうかがった。
日本のものづくりの技術に惹かれて来日後、母国での現地責任者を経て起業
ーー中国出身とお聞きしましたが、日本に来るまでの経緯を教えていただけますか?
石中原:
私は中国で生まれ育ち、1988年に大学院を卒業しました。その後、日本の電化製品や自動車の技術の高さに惹かれたことから、勤めていた会社を辞めて来日したのです。友人の紹介で日本最大手の電線製造会社に就職し、14年ほど働いた後、2002年に中国に新しく工場をつくるために海外赴任しました。
3年間、現地の責任者として働いていましたが、友人から「応援するから日本で起業したらどうか」と背中を押され、約17年間勤めた会社を退職し、日本に戻って起業したというわけです。
技術力と製造能力を兼ね備えたビジネスを構築
ーー貴社の事業について教えてください。
石中原:
弊社の事業内容は次の4つです。1つ目は銅線関係事業、次に電線関係事業、3つ目に中国進出支援コンサルタント、最後に日本と中国企業の技術提携、および新規市場の開拓です。
その中で、弊社の基盤となり売上の大部分を占めているのは、1つ目の銅線関係事業です。自動車や電気、ロボット、テレビ、電子機器など、私たちの身の回りにあるもののほとんどにこの銅線が使用されています。ただし、私たちの目に触れるまでには、電線事業やケーブル事業などを手がける、大手メーカーも含めたさまざまな企業を介するため、なかなかその存在が伝わりにくいのが現状です。あまり知られていませんが、弊社は銅線の販売会社として国内でも上位に位置しています。
ここまで来られたのは、創業時から市場の分析を行い、自社の強みや弱みを徹底的に考えた結果だと思っています。現在の日本では社会全体が困っていることは少ないかもしれませんが、その中でも隙間を見つけてビジネスチャンスを模索し、市場を少しずつ開拓することがビジネスを構築する上で重要だと思っています。
ーー貴社の強みはどんなところでしょうか?
石中原:
弊社には2つの強みがあります。
1つ目は「技術力」で、弊社は専門的な知識を持ちながら、幅広い対応が可能です。時代が変わろうとも、中国やタイに大規模な工場を持っており、特に中国はサプライチェーンが整っているため、電気自動車やAI(人工知能)、半導体などの新しい技術に対しても柔軟に対応できます。
2つ目は「製造能力」で、日本の大手企業の要望にも応えられるだけの生産力を持っていることです。さらに、新規案件でも、見積りから納期まで常にスピーディーに対応することができると自負しています。従業員全員に対して家族のように接しているからこそ、各自が安定して責任感を持って業務に取り組めるのだと思っています。今後も、お客様が驚くほどのスピード感を維持していきます。また、現在は円安の影響であまり強みにはできませんが、以前は低コストの点でも選ばれることが多かったですね。
少数精鋭にこだわった戦略と求める人材

ーー社員一人ひとりが大きな役割を担っている印象を受けますが、どのような方針で採用を行っていますか?
石中原:
弊社は創業時から10名程度の規模を維持しています。年間の売上は80億〜90億円で、、1人当たりの売上は10億円程度です。弊社にとって人材は非常に重要であり、少数精鋭で各自が自分の仕事に責任を持ち、社長のような意識で働いてほしいと考えています。
専門商材を扱っているため、取引先から関係が始まり、その後、弊社に入社するなど、この道のベテランが多く、これまで人員募集を行ったことはほとんどありません。
ーー貴社に向いているのは、どのような人材でしょうか?
石中原:
やる気、素直さ、語学力(英語、中国語)が必要です。また、海外出張もあるので、国際貿易に慣れている方はさらに向いていると思います。
営業には専門知識が必要なので、もともと弊社の取引先の方で製品をよく理解している方が入社してくださることが多いですね。一方で、事務であれば専門知識がなくても問題ありません。成長には個人差があるので、入社後半年から1年ほどかけて、段階的に教育を行います。
常に情報をキャッチアップして世界の流れを読み、次のビジネスにつなげることが経営者としてのやりがい
ーー石社長が思う、専門商社の魅力についてお聞かせください。
石中原:
時代はどんどん変化していくので、時代に合った市場に関わりたいと考えています。今であればAI、電気自動車、通信関連などですね。世界の情報を得るためには、歩みを止めずに常に勉強を続けることが大切です。私は、常に日本だけでなく、世界の情報をキャッチしながら、ビジネスチャンスを見つけることを楽しんでいます。
ーー注力テーマについて教えてください。
石中原:
顧客との関係強化と海外展開に注力したいと思っています。
弊社は少人数なので、営業範囲は広くありませんが、有り難いことに新規のご契約を安定していただいています。既存のお客様からのご紹介をいただくことや、「こんなことできる?」といったお話をいただくのです。簡単には諦めず、ご要望を可能にする方法を考えてきたことで、創業20年を迎え「シンユウジャパンなら何でもできる」という評判をいただくことにつながりました。結果として、多くの新しい依頼をいただいています。
また、海外展開においては、中国、タイ、ベトナム、フィリピンにネットワークがあります。既存の取引を維持しつつ、特に円安の今だからこそ、日本の製品で売れるものがあれば積極的に世界にアピールしていきたいと考え、常に新しいチャンスを模索しています。
ーー最後に、今後の目標をお聞かせください。
石中原:
既存のお客様を大切にし、技術力を持つ弊社の商品を通じて日本の企業とともに成長していきたいですね。日本の企業を世界に紹介し、アピールすることが私の使命だと思っています。タイと中国、2つの新しい工場を設立した経験から、人材の重要性を改めて実感させられたので、従業員の生活水準を向上させ、責任を持って事業に取り組んでいく構えです。
編集後記
日本の製品が大好きで、海外に日本のものを積極的に売り出したいという石社長。社員との距離が近く、常に家族のように接しているからこそ、お客様から見ても信頼、安心できる企業として、多くの日本企業から受け入れられているのだろう。そんな石社長だからこそ、応援してくれる友人や取引先が多く、今後の日本にとってもなくてはならない企業として発展していくのだろう。

石中原/中国上海出身。大学院卒業後、1988年に29歳で来日。日本の電化製品や自動車の技術の高さに惹かれ、友人の薦めで最大手電線メーカーに勤務。2005年、シンユウジャパン株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。