Fortune誌による2019年の世界保険グループランキングで、収入総額ベースで10位以内にランクインしたドイツ企業の日本法人が存在することをご存じだろうか。そのドイツ企業とは欧州最大手の保険会社Allianzだ。グループ企業であるAllianz Partnersは、60年以上にわたり、Allianzのビジネスを保険などさまざまな事業を通じて支えてきた。
2023年、Allianz Partnersの日本法人であるAWPジャパン株式会社の代表取締役社長に、日本人として就任したのが金子智一氏だ。今回、金子氏に社長就任までの経緯、事業内容、そして未来像について話をうかがった。
インターナショナルスクールで育んだグローバルな視点
ーー社長に就任されるまでの経緯を教えてください。
金子智一:
両親の教育方針により、幼稚園からインターナショナルスクールで学びました。その後、日本にあるアメリカの大学に進学し、教育者を志して大学院にも進みました。しかし、最終的に他の道を模索することになり、正社員としての仕事が決まるまでのつもりで、2011年2月に派遣社員として弊社に入社しました。
東日本大震災が起こったのは、その直後です。当時、複数の企業と正社員採用に向けての面接が進んでいたのですが、全て白紙撤回となりました。そのとき、当時の上司に「今辞めたとしても、日本全体がいつ通常の生活に戻れるか分からない。ここでもう少し頑張ったらどうか」と声をかけられ、続けることに決めたのです。
派遣社員から社長という異例のキャリアを歩むことができたのは、インターナショナルスクールでの教育を通じて、日本と海外、双方の考え方を理解し、それを融合させた折衷案を提示できることが評価されたからだと思います。
ーー社長として、特に大切にされていることは何ですか?
金子智一:
私が尊敬している方からいただいたフレーズを常に心に留めています。それは、社会人として成功し、周りの人々を幸せにするために重要な3つの要素です。
1つめはロジカルシンキング(論理的思考)、2つめはプラグマティズム(現実主義)、3つめは一握りの運とその運が発生した瞬間を認識できる能力です。
特に、プラグマティズムの考え方は、教わった際に自分の中で自然に腑に落ちましたね。自分の意見には必ず主観が入るため、それが本当に一般的な見解であるかを疑う姿勢が重要です。今でも判断を下す際には、この考えを常に意識しています。
また、チームで仕事を進める上で私が大切にしていることは、問題が生じた際に、自分にも何らかの責任があると考える姿勢です。他人に責任を押し付ける人は、自分を守ろうとする結果、現状から抜け出せず成長が止まってしまいます。一方、「自分がもっとこうするべきだった」と考えられる人は、さらに論理的かつ現実主義な考えを持つようになり、その結果、成長のスピードも加速するのです。
幅広い分野で、豊かなライフスタイルを構築するためのソリューションを企業に提供
ーー具体的には、どのような事業を行っていますか。
金子智一:
弊社は、ドイツの大手保険会社であるAllianzを支援する企業で、ヘルスケア、自動車・飛行機、旅行、介護など、多岐にわたる分野を取り扱っています。お客様である企業を通じて、保険やサービス、あるいはその両方を組み合わせた形で、豊かで充実したライフスタイル構築のためのソリューションを提供しています。
具体的には、エアコンの延長補償のような身近なものから、海外で旅行中に大きな病気になられた際に母国に輸送する費用を補償という特殊な保険まで、人々の生活全般にわたるさまざまなサービスを手掛けています。
Allianz本社の考え方は「Providing Peace of mind, just a click away 」、すなわち「1クリックで心に安らぎを」です。弊社は、世界最大規模のドイツ金融保険会社Allianzの考え抜かれたリスクマネジメントと、現場でのきめ細やかなサポートを提供するAllianz Partnersのノウハウを強みに、事業を展開しています。
グローバルグループのリソースをフル活用し、クライアントとともに課題解決に挑む
ーークライアントの課題解決のために、どのようにアプローチするのですか?
金子智一:
まず、お客様の課題をヒアリングし、世界中のAllianzグループのリソースを活用して、最適な解決策をお客様とともに導きだします。これこそが弊社の強みであり、企業としての価値の根幹だと考えています。
たとえば、2024年8月に楽天グループと共同で新しいサービス「チケットガード」(不使用チケット費用補償保険)をリリースしました。これは購入したチケットが急な予定変更で使えなくなった場合に、その代金を補償する内容になっています。このサービスは、楽天グループと議論を重ねながら、急な予定変更がチケット購入をためらわせる要因であることに気づき、その解決策をともに検討した結果生まれました。
日常に潜む盲点を探り出すことが新たな発見につながるため、お客様とともにつくりだせる保険やサービスは無限にあると感じています。お客様の課題に対する解決策を提案し、「これだね」と言っていただける瞬間が、私たちにとって何よりも嬉しい瞬間です。
ーー今後に向けて、取り組んでいることを教えてください。
金子智一:
弊社は2年ほど前までBPO(Business Process Outsourcing:業務プロセスの全部または一部を外部の業者に委託する手法)に重点をおいていました。しかし、グローバル企業としての強みを最大限に活かすため、現在はソリューションプロバイダーとしての役割に力を入れています。
新規取引先の開拓にも注力しています。お客様のお困りごとをまずは丁寧にお伺いすることから始めます。世界のAllianzグループの情報にアクセスできるのは私ですので、お客様先への訪問には私も同行することがあります。同行することでその場で即断即決が可能になります。
また、約10名の営業スタッフと定期的にOne on Oneミーティングを行い、信頼関係を深め、気軽に相談できる環境を整えています。最初は私に判断を仰ぐことが多かったスタッフも、何度かOne on Oneを重ねることで、最終的には「自分が社長だったらどうするか」を考えられるようになることを期待していますし、その片鱗はすでに見え始めています。
編集後記
グローバル企業の醍醐味は、決して終わりがない挑戦にあると金子社長は言う。登山にたとえるなら、1つの山を登り切っても、隣にまた同じように高い山が次々と立ちはだかる。大手グローバル企業として切磋琢磨してきた金子社長の言葉には、穏やかな口調ながらも、並々ならぬ決意が感じられた。AWPジャパンは、今後も日本におけるグループの認知度を高め、顧客のライフスタイルに欠かせない保険商品やサービスを提供し続けるだろう。
金子智一/1983年、神奈川県出身。テンプル大学ジャパン卒業後2011年に派遣社員としてミレア・モンディアル株式会社(現AWPジャパン)に入社。プロジェクトマネージャー、オペレーション本部長などを経て2023年11月に代表取締役社長に就任。