※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

ANAホールディングス発のスタートアップとして、2020年に設立されたavatarin(アバターイン)株式会社。人が持つ様々なプロフェッショナルのスキルをAI化して共有できる世界共通のプラットフォームを構築。そのプラットフォームにロボットやモビリティをはじめとした多種多様なデバイスが接続され、「アバターインする」ことで、だれもが、いつでも、どこでも助け合える世界の実現を目指している。

代表取締役CEOの深堀昂氏に、起業のきっかけと事業にかける思い、今後のビジョンについてうかがった。

ANAでの活躍後、「社会課題の解決」という情熱を傾ける取り組みから発展しスタートアップを設立

ーー深堀社長の経歴をお話しいただけますか?

深堀昂:
技術系総合職(グローバルスタッフ職)の中で、安全の要のひとつである「運航技術」の担当を志し、ANAに入社しました。当時ANAは夢の次世代旅客機「ボーイング787」のローンチパートナーであり、社内では導入に向けた数多くのプロジェクトが進行する中、私も担当の一人として関わることができ、数々の楽しい仕事を経験できました。

社会課題の解決に情熱を注ぎ、20代は各種コンペにも取り組み、ソーシャルアントレプレナー(社会問題に貢献する事業家・起業家)という存在に大きな影響を受けました。

ーー創業のきっかけも教えてください。

深堀昂:
「XPRIZE財団」という世界中のテック企業家が支援する非営利財団にアプローチして、2016年の国際賞金レース設計コンペに参加する機会を得ました。そこでグランプリを獲得したデザイン「ANA AVATAR XPRIZE」が「avatarin」の元になっています。

私は「社会課題はプロフェッショナルがその場にいれば解決できる」と提案し、ロボットのデモンストレーションを含めて高く評価されました。災害現場にロボットのレスキュー隊員が駆けつけたり、医師の知見を搭載したロボットが手術したり、スキルを持つ人が瞬間移動のように現れたりすれば画期的な世界になるという発想です。

起業が目的ではなく、アイデア実現の手段として最終的にはスタートアップを選びました。また、海外ではなく日本で起業したのは、ロボットの製作技術よりもデータの質が重要になると予測したからです。日本の大企業はこれまで、最前線の現場でしっかりとした接客を行なってきており、質の高いデータの宝庫となっています。そうした日本の大企業とのシナジーを求めました。

テーマは「10億人にインパクトを与える事業」人手不足の現場を支援するAI開発

ーー創業時の思いや大切にしている考えをお聞かせください。

深堀昂:
「世の中の社会課題を解決したい」という思いが強く、国全体の課題として「人手不足問題」に危機感を抱いたことから日本で起業しました。「10億人以上の生活にインパクトがあるテクノロジー」をコンセプトに、地球規模の課題を解決するチームをつくるため、人材は世界中から集めています。

10億人という数字は、日常生活や日本のスタートアップではあまり見かけないでしょう。だからこそ会社の課題は大きく設定し、「How do you impact 1 billion?(どうやって10億人にインパクトを与えるのか)」というスコープを非常に重要視しています。

ーー事業内容をご解説いただけますか。

深堀昂:
「世界最大の人助けネットワークをつくる」というメッセージを掲げ、独自技術や手法の研究・開発を行っています。主には、遠隔からお客様をサポートする接客AIサービス「avatarin」の開発に取り組んでおり、それを支えるavatar coreとコミュニケーションAIロボット「newme」があります。

「avatar core」は搭載できる場所が幅広く、マルチモーダルAIとして複数の情報源から学習します。イメージとしては、映画「マトリックス」で、主人公がヘリコプターの操作マニュアルを自身にダウンロードして、その場でヘリコプターを操作するシーンが近いです。

ーーサービスの強みもお聞かせください。

深堀昂:
弊社は「本人すら意識していない脳内のマニュアル」を重視し、プロの視点や言動、相手のリアクションといった言語化が難しい暗黙知を形式化する手法で開発を行っています。

主な活用場所は、コミュニケーションが必要な、主に接客を行う現場です。表情や所作を含めたコミュニケーション領域に関心を持ち、各業界の大手企業とタイアップしてデータを集めていることは強みの一つと言えます。

フォーマットにとらわれない「人助け」の輪をグローバルに

ーー企業が求める人材像もうかがえればと思います。

深堀昂:
頑固さとリアリティを持って「世の中をより良くしたい」と考えるグローバル集団でありたいと考えています。現在の社員数は70名以上、人材の国籍は20カ国を超えました。

他責思考をせず、自分の人生を自分で決められる人に来てほしいという思いは譲れません。世の中を変えてきたのは特殊な存在ではなく、「自分ならできる」と信じて行動してきた人たちですから、良い意味で自分を信じるメンバーを集めることが大切です。

ーー今後の展望をお聞かせください。

深堀昂:
ソーシャルロボットを実用化し、弊社のサービスをもっと身近にしたいと思います。のび太くんをそばで支えてくれる「ドラえもん」は、まさに「newme」が目指している姿です。

過疎化や自動化が進んだ地域は、無機質で優しさから分断された世界に近づいています。困っている人を見過ごす人間もいる世の中で、助けてくれる存在が生身の体なのか、ロボットであるのかは関係ありません。人から思いやりを学習したロボットが活躍する「世界最大の人助けネットワーク」を、直近のゴールとして早く実現したいですね。

その先にある個人的な目標は「第二の地球探し」としています。弊社の技術は国際宇宙ステーションで稼働した実績もあり、「日本オープンイノベーション大賞」の内閣総理大臣賞も受賞しました。地球にいながら宇宙探査を続けられるようになれば、人類は劇的に進化するでしょう。

編集後記

ANAへの就職をはじめ、自己実現に向けたステップを着実に積み上げてきた深堀社長。夢の実現には、情熱を失わないまま行動を続けることが何よりも大切だと感じた。「第二の地球を探す」というビジョンも夢物語ではなく、プロフェッショナル・ロボットは無限に拡張していける夢のある領域だと言える。

深堀昂/2008年にANAへ入社し、運航技術業務を担当。2016年、XPRIZE財団の国際賞金レース設計コンペにて「ANA AVATAR XPRIZE」をデザインし、グランプリ受賞。2020年、ANAホールディングス発のスタートアップavatarin株式会社を創業。2021年、事業モデルがハーバード・ビジネス・スクールの教材に選出される。2022年、第4回日本オープンイノベーション大賞内閣総理大臣賞を受賞。