台湾と日本を結ぶ架け橋として、越境ECサービスを展開する比比昂(ビビアン)株式会社。同社は台湾の消費者向けに、日本製品の購入代行サービスを展開している。さらに、PChomeグループの子会社として安定基盤を持ちながらも、段階的成長モデルで着実に事業を拡大。日本製品の魅力を世界に広げるという使命感を胸に、次なる挑戦へと歩みを進める同社代表取締役のヴィヴィアン ロー氏の話をうかがった。
アメリカ、中国、日本を経て見つけたビジネスチャンス
ーーこれまでの経歴について教えてください。
ヴィヴィアン ロー:
私は台湾出身で、カリフォルニア州立大学を卒業後、中国と日本での職務を経験しました。最初は中国の北京で2年ほど働き、その後、日本企業へ転職。日本では台湾市場向けのBtoB責任者として主に非鉄金属に関連する業務を担当。その後、台湾現地の企業で電子辞書や繊維、アパレル関連の仕事に携わりました。その後、台湾のPChomeグループに入社し、初めてEC業界に関わるようになったのです。
PChomeグループでは、ヴァイスプレジデントとして、さまざまな経験を積みました。当時はまだECビジネスが発展途上にあり、サプライヤー開拓やマーケティング施策など、すべてを一から構築する必要がありました。この経験は非常に貴重で、現在の事業にも活かされています。
ーー独立して貴社を設立したきっかけは、何だったのでしょうか?
ヴィヴィアン ロー:
PChomeグループの会長から、「独立して新しいビジネスを始めてはどうか」と声をかけていただいたのがきっかけです。当時のPChomeグループは台湾市場では一定の成功を収めていましたが、会社として成熟期に入っており、さらなる業績拡大に向けて新事業の展開を模索していた時期でもありました。
その会長からは支援の話もありましたが、それを断り、独立しました。私は人と同じことをするのが好きではなく、「自分の名前で事業を始めたい」という思いがあったのです。そこで、あまり他社がやっていないことを探し、購買代行サービスというビジネスモデルにたどり着きました。このビジネスモデルは非常に複雑で、大企業が手を出したがらない分野だったので、そこにビジネスチャンスがあると考えたのです。
「メイド・イン・ジャパン」の価値を台湾へ届ける
ーー貴社の事業内容について、詳しく教えてください。
ヴィヴィアン ロー:
弊社が手がけるのは、簡単にいえば、台湾の消費者に代わって日本の商品を購入し、お届けするサービスです。台湾の方々は非常に親日的で、日本の商品の需要が高いのです。日本のさまざまなECサイトから商品を購入し、台湾のお客様の手元まで届けています。
日本の商品が選ばれる理由は、やはり「メイド・イン・ジャパン」の品質の高さですね。世界的に有名なブランドも多いのですが、特に日常生活で使用する消費財の品質が非常に高いと評価されています。ヨーロッパのブランドはハイエンド商品が中心ですが、日本の商品は幅広い分野で高品質な製品がそろっています。そういった日本製品の魅力を、まずは台湾の方々に知ってもらいたいという思いで事業を始めました。
ーー貴社の強みは、どのようなところにあるのでしょうか?
ヴィヴィアン ロー:
弊社の最大の強みは、成長戦略にあると考えています。私が考える理想的な成長は、ゆるやかな曲線ではなく、段階的な成長です。まず、1つの目標を見つけたら、それに向けて最大の効果が出る戦略は何かを徹底的に考え抜くのです。そして、その戦略が成功したら1段上がり、また次の戦略で1段上がる。そうして積み重ねていくことで、着実に成長していくのが理想だと考えています。この考え方でこれまで成長してきましたし、それが他社との大きな違いだと自負しています。
人材育成とシステム構築で挑むグローバル展開
ーー人材採用で特に重視している点は何ですか?
ヴィヴィアン ロー:
採用に関しては、学歴よりもマインドセットを重視しています。また、弊社はこれから大きく成長していく段階にあるので、事業を大きくしたいという意欲がある方や、大企業での経験を持つ方に来ていただきたいですね。そのような方々は、弊社の成長に大きく貢献してくれるでしょう。また、入社後は3~6ヶ月かけて、個々の適性を慎重に見極めています。時間はかかりますが、これは本人のポテンシャルを引きだす重要なプロセスだと考えています。
以前は人材の確保に苦労していましたが、最近では業界での知名度も上がってきて、多くの方とお会いできるようになりました。今年はCTO(最高技術責任者)やCHRO(最高人事責任者)など、さまざまな方に入社していただき、ようやく経営幹部の体制が整ってきたところです。会社として更なる成長に向けて、マーケティング責任者、カスタマーサポートの責任者、日本側の営業責任者など、まだまだ多くの人材を必要としています。
ーー今後の注力テーマについて、お聞かせください。
ヴィヴィアン ロー:
主に2つあり、1つ目は物流の強化です。事業を拡大していくにあたって、倉庫の拡張やコスト削減など、物流の効率化は欠かせません。2つ目はプラットフォームの構築ですね。今後の海外展開を見据えて、さまざまな通貨や言語に対応できる強固なシステムをつくっていく予定です。海外展開については、適切なパートナーを見つける必要があるため、慎重に進めたいと考えています。
将来的には上場して、社員にストックオプションなどの形で還元したいと考えています。彼らの人生にポジティブな影響を与えられたら、うれしいですね。また、台湾国内での知名度を上げ、さらには各国で「日本の商品を世界中に売っている企業」として認知されるようになりたいと思います。そうすることで、より多くのユーザーに価値あるサービスを提供できると信じています。
編集後記
取材中、ロー氏の目が最も輝いたのは、社員の幸福について語るときだった。売上や利益ではなく、「みんなが家を買えるようになればうれしい」と語る姿勢に、真のリーダーシップを感じた。技術やシステムも大切だが、最後は「人」が鍵を握る。そのような忘れがちな真理を、ロー氏から教わった気がした。
ヴィヴィアン ロー/台湾出身、カリフォルニア州立大学を卒業。中国と日本での職務を経て台湾に戻り、当時、台湾で唯一のEコマース上場企業であるPChomeグループにおいてヴァイスプレジデントの職に就いた後に独立。台湾で初めてとなる購買代行サービスを運営する会社を創業し、2019年にその会社の一部株式をPChomeグループに売却。傘下の子会社として比比昂株式会社を設立し、代表取締役に就任。