大阪市立大学(現:大阪公立大学)発のスタートアップ、株式会社SIRC(サーク)が革新的なIoTソリューションで産業界に衝撃を与えている。わずか5mm角のチップで電流・電力・角度の計測と、周波数の変換という4機能を実現する「SIRCデバイス」を武器に、脱炭素化や設備保全など、世界規模の課題に挑む同社。
既存設備に対して、工事不要で簡単に後付けできる独自の商品は、製造業のDXを加速させる可能性を秘めている。40年に及ぶ研究から生まれた技術と、グローバル展開を見据えた戦略。それらを強みとする同社の代表取締役CEOである髙橋真理子氏に、SIRCの全貌をうかがった。
既存設備に後付け可能なセンサで実現する、ムダの「見える化」
ーー貴社の事業内容を教えてください。
髙橋真理子:
弊社は、小型マルチセンサの「SIRCデバイス」を軸に、企業のDXを支援しています。「SIRCデバイス」は、大阪市立大学名誉教授である辻本浩章先生が40年以上かけて研究し開発に成功したもので、「SIRCデバイス」を社会実装するため、弊社が創業された経緯があります。
「SIRCデバイス」の最大の特徴は、5mm角という小さなチップで4つの機能を発揮できることです。電力・角度・電流の計測および周波数の変換といった複数の機能を1つのデバイスに集約しています。この特長を活かした商品開発を行うことで、「既存設備に後付け可能」「取り付け簡単」といった利点を持つ商品の提供が可能になりました。
ーーSIRCの商品にはどのような優位性がありますか?
髙橋真理子:
最大の強みは、工事不要で簡単に設置できる点です。電力計測の場合、従来製品には設置工事が必要で、製造ラインを一時停止しなければならなかったり、取り付けが難しく設置に手間がかかるという課題がありました。しかし、弊社のセンサは電線2本に取り付けるだけでよいので、15秒以内に設置することも可能です。また、電池稼働により約3年間も動き続けるので、停電による停止の心配もありません。
多くの製造現場では、請求書ベースで総量を把握するのみで内訳が分からず、具体的な省エネ対策に踏み出せない状況です。しかし、弊社の電力センサを装置ごとに取り付け、消費電力を個別把握することで、具体的な施策の立案が可能になります。さらに、装置ごとの稼働状況や傾向まで確認できるため、どこにムダがあるのかを発見し、「省エネの取組み」を大きく促進することができます。
年間数百万円のコスト削減も。IoTセンサで企業の脱炭素化を加速させる
ーー現在、注力している事業分野について、詳しく教えてください。
髙橋真理子:
現在、最も注力しているのは脱炭素DX事業です。国が2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指すなか、上場企業には気候変動への取り組みに関する情報の開示責任が課せられています。また、高騰するエネルギー価格への対応も急務です。
弊社の脱炭素DXソリューションは、工場や事業所の電力使用量をリアルタイムで可視化し、CO2排出量の算出まで行います。これにより、企業は具体的な削減目標を立て、効果的な対策を講じられるようになります。非稼働時間の無駄な電力使用を発見したり、設備の異常を早期に検知したりすることで、年間数百万円規模のコスト削減も可能になるでしょう。
また、サプライチェーン全体での排出量管理も重要な課題です。弊社の電力センサとクラウドシステムを活用することで、取引先を含めた一元的な管理と、排出量削減効果の把握が可能になります。これは、特に自動車関連など、Scope3(事業者の活動に関連する他社の排出量)までの管理を求められる業界で注目されています。
全員が主役のスタートアップが、世界のインフラを変えていく
ーー社内の雰囲気について、教えてください。
髙橋真理子:
社内の雰囲気は非常に活気に満ちています。創業初期から参画したベテラン技術者と、近年入社した20代後半から30代の人材が共存し、年齢や経験に関係なく互いに学び合っています。ベンチャー企業の特性として、一人ひとりが幅広い業務を担当するため、自然と助け合いの精神が育まれているのでしょう。
また、社員が会社の細かい業務から大きな意思決定まで、幅広く経験できる環境を用意しています。これにより、技術や知識だけでなく、ビジネスの進め方や判断力も養うことができます。特に、将来は経営者を目指したいという熱意ある方には、絶好の環境です。また、脱炭素化という社会的意義の高いテーマに取り組むことで、社会貢献とビジネスの両立を実感できる点も、社員の成長に大きく寄与していると感じています。
ーー今後の事業展開について、どのようなビジョンをお持ちですか?
髙橋真理子:
国内での事業展開を基盤としつつ、5年後には海外展開を本格化させたいと考えています。脱炭素化やインフラの老朽化といった課題は世界共通なので、日本で培ったソリューションを、世界に展開していく計画です。
将来的には、エネルギー削減のプラットフォーマーとしての地位を確立し、そこからインフラ関連の事業へと拡大していきたいですね。水道インフラの漏水検知や、エネルギー関連インフラの劣化診断にも弊社の技術を応用できると考えています。世界中の社会課題の解決に貢献することが、弊社の大きな目標です。
編集後記
わずか5mm角のチップが、脱炭素化という世界的課題の解決に貢献する。そのスケールの大きさに、技術の力を改めて実感した。40年に及ぶ研究から生まれた技術を、現代の課題解決に応用する同社の姿勢は、まさにイノベーションの本質といえるだろう。ベンチャー企業ならではの機動力と、確かな技術力をあわせ持つSIRCの成長と世界への貢献に、大いに期待したい。
髙橋真理子/2006年、米国Chatham Universityを卒業。2010年にベンチャーを起業し、国内外の企業の海外における新規事業の展開を支援。2012年、VC(ベンチャーキャピタル)にて、日本の大学技術の事業化支援に従事。2015年、筑波大学発のベンチャーである株式会社アレナビオの取締役として、アフリカ・南米において新規事業を開拓。2015年、株式会社SIRCの設立時より、資金調達担当取締役に就任。2019年、代表取締役CEOに就任。