
1630年に創業した「千鳥饅頭総本舗」。菓子づくりの歴史は江戸時代にまで遡り、現在は福岡の人気銘菓「千鳥饅頭」や「チロリアン」を製造する老舗菓子メーカーとして知られている。代表取締役社長の原田浩司氏に、企業の取り組みや商品開発の裏側をうかがった。
多彩なコラボ企画で「おばあちゃんちのお菓子」を現役世代に刺さる商品へ
ーーまずはご経歴をお聞かせいただけますか。
原田浩司:
ドイツの高校に進学したのち、日本の玉川大学を卒業しました。その後、お菓子について本格的に学ぶため専門学校に通い、オーストリア、ドイツ、ベルギーの菓子店で1年ずつ修業しました。そして29歳になった頃、家業である「千鳥屋」に入社した次第です。
2011年に代表取締役社長となり、真っ先に取り組んだことはパン・ケーキ製造事業からの撤退です。洋菓子店が増え、饅頭屋がケーキをつくる時代ではなくなったことに加えて、「企業イメージの若返り」を図るため、和菓子と「チロリアン」の展開に注力したかったのです。
弊社が扱う商品について、当時の入社予定者たちは皆揃って「おばあちゃんちで食べていた」と答えるわけです。もはや、現役世代が自分のために購入するお菓子ではないことがよく分かり、時代に合わせた改革が必要だと感じました。
ーーどのような手法でターゲット層を変えたのでしょうか?
原田浩司:
まずは、商品のデザインに統一性を持たせました。主力商品の一つである「千鳥饅頭」の個包装も刷新しましたが、昔からのお客様に受け入れられなかったため、徐々に変えていく方針に変更しました。古風な印象を与えていたテレビCMのアニメ化は効果的でしたね。
転機となったのは、「チロリアン」のコラボレーション事業です。コラボ第一弾の「博多あまおうチロリアン(チロリアンショート)」は、JA福岡市との共同開発により誕生しました。福岡県のブランドいちご「あまおう」は、GWを過ぎると売れ行きが落ち始めます。そこで、弊社がすべて引き取り、フリーズドライにした「あまおう」を商品に活用したのです。
第2弾は宮崎県のJAと協働で、傷がついて店頭に出せない果実を使った「宮崎マンゴーチロリアン(チロリアンショート)」を発売しました。若者世代に広く認知されるきっかけになったのは、社員のアイデアから実現したバーチャル・シンガー「初音ミク」とのコラボや、同じく福岡発のお菓子である「チロルチョコ」とのコラボです。
「チロリアン」はバニラ・コーヒー・ストロベリー・チョコレートの4種類が定番でしたが、今では20種類以上あり、今後も全国のさまざまなコンテンツとコラボしたいと考えています。
伝統の味「千鳥饅頭」と進化し続ける「チロリアン」を展開

ーー商品の魅力を教えていただけますか。
原田浩司:
1927年から変わらぬおいしさで愛され続ける「千鳥饅頭」は、白餡にこだわった「和菓子の心」と、南蛮菓子の製法を取り入れた生地からなる伝統銘菓です。
1962年に発売された「チロリアン」というお菓子は、ヨーロッパ中部のチロル地方に伝わるレシピで焼き上げたロール状のクッキーが特徴です。クッキーの中に入っている自家製クリームは、味のバリエーションに無限の可能性があると言えます。
特に人気の商品は、東京・靖国神社限定の「さくらチロリアン」や、福岡・平尾のコーヒーショップ「NO COFFEE」とタッグを組んだコーヒー味の「ノーチロリアン」です。今後も全国展開を目指し、2025年もたくさんの方に興味を持っていただけるようなコラボを計画しております。是非楽しみに待っていてください。
また、海外輸出にも積極的に取り組んでおります。今年は国際規格であるFSSC22000の認証も取得いたしました。現在、北米を始め、アジア諸国にも「チロリアン」を展開中です。
ーー現在注力している取り組みについて教えてください。
原田浩司:
2021年頃から、総務部や給与システムの改善のため社内のDXを進めています。製造工場の技術指導については、外部の専門家にもご協力いただき、「おいしさと品質の良さ」を第一に、生産効率性の向上に努めています。
各直営店から情報を集める営業担当が不足していることが課題の一つで、データ分析システムと人材を育てて、お中元やお歳暮の法人受注を獲得できる体制を整えていく方針です。
「未来のお客様」である子どもたちと長く働く社員を幸せに

ーー社会貢献事業についてもご解説ください。
原田浩司:
弊社にとって「子どもは未来のお客様」なので、保育園や幼稚園のイベント、地域のお祭りなど、子どもとふれ合える場に積極的に協賛しています。
本部があるオーストリア・チロル州の「SOS子どもの村」をサポートする取り組みも続いています。「SOS子どもの村」は、虐待や育児放棄によって身寄りがなくなった子どもを、1つの家で育てる施設です。大きな寮で集団生活するのではなく、3~4人の子どもに対して1人の「お母さん役」となる女性が寄り添い、家族のように暮らします。
温かい家庭や家族ならではのイベントを経験できる場所であり、時には育児に疲れた人が、一時的にお子さんを預けることもあります。弊社は、各店舗に募金箱を設置しているほか、協賛していただける企業様を増やす形で、施設の知名度アップに貢献しています。
ーー貴社で働く魅力について読者にメッセージをお願いします。
原田浩司:
弊社には、産休取得後も会社に戻り、活躍してくれる女性が多くいます。「女性も働きやすい職場」であることは大きな魅力だと言えるでしょう。
また、若手人材を積極的に新卒採用しているだけでなく、社員の最高齢は77歳と「長く働けること」も魅力の一つです。勤続30年を超える社員はめずらしくなく、新年会では永年勤続者を表彰しています。会話が苦手な人は製造現場、得意な人は営業や販売というように、どんな方でも活躍できる場所があるので、安心してお越しください。
編集後記
地域限定の味や、人気キャラクターとのコラボがたびたび話題となる「チロリアン」。その背景には、企業イメージをリフレッシュさせる戦略があった。「SOS子どもの村」のサポート事業は、地元の子どもたちが銘菓を知り、郷土愛を育むことができる素晴らしい取り組みだ。未来のお客様へとつながっていく株式会社千鳥饅頭総本舗の活動に、今後も注目していきたい。

原田浩司/1972年、福岡市生まれ。玉川大学および日本菓子専門学校を卒業。オーストリア・ザルツブルグの菓子店、ドイツ・フライブルグの菓子店に勤務。ベルギー・カレボー社のアカデミーにてチョコレートコース修了。2011年、株式会社千鳥饅頭総本舗の代表取締役社長に就任。