
ノバルス株式会社は、IoT(モノをインターネットに接続する技術)製品の開発・販売を行う会社だ。一般の人々にはわかりにくい複雑なテクノロジーを、身近で簡単に使える製品に組み込んで提供している。そんな同社の代表的な製品には、高齢者の安否確認や生活モニターを行う電池型デバイス「MaBeee(マビー)」シリーズがある。
介護業界をはじめ、金融や通信、さらに自治体までもが「MaBeee」に注目する。代表取締役の岡部顕宏氏に、製品が人々に必要とされる理由を聞いた。
人々からの応援が起業への力になった
ーー会社を創業するまでの経緯を聞かせてください。
岡部顕宏:
1995年にアスキー株式会社(現・株式会社角川アスキー総合研究所)へ入社し、webサービスの企画開発業務に携わりました。同社に入社したのは、ちょうどITテクノロジーがコモディティ化しているタイミングで、時代の先行きを追いかけたいという私の気持ちが強かったからです。もともと大きな変化に興味があった私には、「業界の変革に携わりたい」という思いがありました。
アスキーには2年ほど勤め、その後、コンテンツ配信サービスを手がけるスタートアップを経て、セイコーインスツル株式会社の技術本部に入りました。ここでは、ハードウェアのことをゼロから学ばせてもらいました。
ーー起業にあたり、不安もありましたか?
岡部顕宏:
創業メンバーとともに部活動のように事業を行っていた一方で、会社を辞めて起業したことに対する不安も最初は大きかったですね。ただ、それと同時に助けてくれる仲間の存在の大きさも感じていました。
創業から3か月後にクラウドファンディングを立ち上げた際は、知り合い以外の方々も応援してくれて、本当にうれしく感じました。お金はもちろん、応援メッセージにも励まされたことを覚えています。
高齢者が少しでも安心して暮らせるよう、ライフサポートサービスを開発

ーー事業内容について、教えてください。
岡部顕宏:
弊社の事業の1つに、センサーを内蔵した電池型デバイス「MaBeee」の開発・販売があります。テレビやエアコンのリモコンに設置して使えるデバイスで、たとえば高齢者の自宅の室内が暑いと熱中症アラートのセンサーが反応し、その情報がクラウド経由で高齢者の家族に届く仕組みになっています。
高齢者の生活の些細な変化にも気づくことができ、「MaBeee」は電池を交換するだけでストレスなく利用できます。家族の代わりに高齢者を「見守り」、高齢者が少しでも安心して暮らせる手伝いがしたいと思い、このサービスを始めました。
私は「テクノロジーは、身近で手軽に使いこなせること」が大切だと考えています。「MaBeee」は、インターネットに精通した現役世代だけでなく、80代や90代の高齢者でも簡単に使えるサービスです。「MaBeee」のご利用を通して、弊社の技術をご活用いただいていることに、やはりうれしさを感じますね。
ーービジネスモデルについて、聞かせてください。
岡部顕宏:
ビジネスモデルはBtoBtoCです。福祉機器メーカーなど、高齢者の家族を顧客に持っている事業者を介して製品を販売しています。福祉業界に限らず、金融機関や通信会社など、高齢者を顧客に多く持つ事業者も、弊社のサービスを販売してくれています。
また、渋谷区が行う「高齢者見守りサービス」でも「MaBeee」が活用されるなど、自治体にも広がっています。将来的には新しい機能を自社オリジナルアプリにどんどん取り込んで、評価の高い機能をBtoBtoCのビジネスで展開していけたらと考えています。
実際に調理家電メーカーとも提携するなど、「MaBeee」の適用範囲は広がっています。今後は数をたくさん売るだけでなく、使い勝手を改善しながら販売を拡大していきたいですね。
多様な切り口を持つ製品だからこそ可能な、多くのパートナーとの提携
ーー今後の展望について、教えてください。
岡部顕宏:
高齢者を顧客基盤に持つ事業者はたくさんあるので、そういった事業者を介してより多くの人に弊社のサービスを利用してもらいたいですね。他社の製品やサービスと「MaBeee」を組み合わせることで、また新たな製品が生まれる可能性もあるので、そういった観点からもパートナーを増やしていきたいと思っています。
また、ただの安否確認ではなく、疾患の進行の抑制や改善にも「MaBeee」は活用できるのではないかと思います。たとえば認知症は早期に対策すれば進行を遅らせることができると言われていますが、弊社のサービスは高齢者の見守りを通してさまざまな生活のデータを集められるので、疾患の検知などにも役立つと考えています。
そのほか、弊社はエンジニア中心の会社なのですが、技術者目線だけでなく、経営者目線でも物事を捉えられるようにしていきたいですね。
編集後記
岡部氏は、20代や30代などの若手へ向けて「新しい技術だからといってすぐに飛びつくのではなく、その技術を通して世の中の役に立てるのかどうかを見極めながら、仕事に取り組んでほしい」とエールを送った。
新しい技術が続々と登場し、多様な使われ方をしている昨今。社会の発展と人々の幸せの両方を実現するために技術を使う同社は、企業としてあるべき姿を体現している会社だと感じた。

岡部顕宏/1995年、アスキー株式会社(現・株式会社角川アスキー総合研究所)に入社し、各種Webサービスの企画開発に従事。1997年、スクウェア株式会社に入社し、リライトソフトシリーズの事業化、エンタテインメントコンテンツ配信サービスの事業化に従事。2002年、セイコーインスツル株式会社に入社し、技術本部にてBluetooth-Watchの規格策定、ウェアラブルデバイスを用いたヘルスケアシステムなどのIoT/DXサービスの事業化に従事。2015年、ノバルス株式会社を設立し、代表取締役に就任。