
和菓子業界は、長年の伝統を守りながら、消費者ニーズの変化に対応することが求められる厳しい市場だ。160年の歴史を誇る埼玉の老舗・梅林堂は、代々受け継がれてきた技と知恵を礎に、地域に根ざしながらも時代に即した革新を続け、着実に成長を遂げている。
地域に根ざした実店舗展開を主軸にしつつ、ECチャネルを活用した全国規模での販売も展開している同社。代表取締役社長の栗原良太氏に、会社を引き継ぐまでの経緯や経営の工夫、商品開発に込めた思い、そして今後の展望について話をうかがった。
老舗の伝統を背負って挑んだ革新への道
ーー社長就任までの経緯を教えてください。
栗原良太:
私は京都の老舗和菓子店「末富」で修行していたのですが、家業が厳しい経営状況だったため、修行をわずか10か月で切り上げて実家に戻りました。当時、幹部の不正により、毎朝工場のボイラーに火をつけることから一日が始まり、製造・出荷・販売のすべてを私一人で管理せざるを得ない状況でした。そのような厳しい体制が1年以上続き、1995年に代表取締役に就任しました。
ーー修行時代の経験が、現在の経営にどのように活かされていますか?
栗原良太:
京都での修行は短い期間でしたが、貴重な経験でした。商品の品質に対する厳しい目と、顧客に対する真摯な姿勢を学びました。この2つの要素は、現在の経営においても非常に重要です。商品の品質には一切の妥協を許さず、常に最高の状態でお客様に提供することを最優先しています。
また、顧客との信頼関係を築くことも、私たちのサービスの基盤を支えています。京都での修行で学んだ職人としての姿勢が、梅林堂の和菓子作りの基盤となり、伝統と革新のバランスを保つ重要な要素となっています。
ーー社長就任時の困難をどのように乗り越えましたか?
栗原良太:
私が社長に就任した際、製造部門の責任者が全員退職してしまい、引き続き全業務を自分1人で行うしかない状況でした。しかし、この危機が新たな転機となりました。この経験を通じて和菓子づくりの工程から販売まで、現場の細部を深く理解することができ、その後の経営に大いに役立ったのです。
その後、新たに従業員を採用し、技と心を伝える育成に力を入れ、組織を再編成しました。各部門の連携を強化し、業務プロセスの効率化を図った結果、現在では強固な組織体制を構築しています。
売上10倍の秘密 ブランドイメージが消費者を動かす

ーー急成長の理由を教えてください。
栗原良太:
急成長のきっかけとなったのは、商品のリブランディングです。特に、看板商品である生サブレ「やわらか」の大幅な刷新が大きな転機となりました。もともと異なる名前で販売されていたこの商品は、売上が伸び悩んでいたのですが、お客様の視点に立ち、商品名とパッケージを見直したところ、売上が10倍に増加し、今では埼玉県を代表する土産品となりました。
この成功体験を通じて、消費者が味だけでなく、見た目やネーミングのインパクトにも強く反応することを学び、ブランドイメージの重要性を再確認したのです。
ーー貴社の強みは何ですか?
栗原良太:
弊社の強みは、160年の歴史に基づく地域との強い信頼関係にあります。代々受け継がれてきた伝統を大切にしつつ、時代に応じた商品開発やサービス改善にも積極的に取り組んでいます。またECチャネルの拡大や新規店舗の展開など、絶え間ない革新を通じて、新しい挑戦を続ける姿勢が弊社の成長を支える原動力となっています。
160年の歴史とEC拡大で挑む新たな和菓子市場
ーー和菓子業界が直面している課題は何だと思いますか?
栗原良太:
和菓子業界にとって最大の課題は、若い世代に和菓子の魅力をどのように伝え、興味を持ってもらうかです。現在、和菓子は主に年配層に支持されていますが、若年層や女性層への浸透が十分とはいえません。この課題を解決するためには、伝統を大切にしながらも、カジュアルで現代的なデザインやパッケージの商品を開発する必要があります。
またSNSやECサイトといったデジタルチャネルを活用しつつ、実店舗にも足を運んでもらうことが重要であると考えています。全国的な認知度を高め、和菓子業界の新しい市場を切り拓いていくことを目指しています。
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
栗原良太:
今後も地域に愛され、「埼玉の和菓子といえば梅林堂」と言っていただけるよう、ブランド力をさらに強化していきます。また若年層や海外市場へのアプローチにも積極的に取り組み、和菓子をもっと身近なものとして多くの方に楽しんでいただくことを目指すとともに、和菓子の国際的な普及にも努めていきます。和菓子文化の継承と進化を両立させ、新たな価値を創造し続けることが私たちの使命です。
編集後記
栗原社長の言葉には、伝統を守りながらも革新を恐れず進化を続ける姿勢が強く感じられた。特に印象的だったのは、「和菓子作りは授かりものであり、努力を惜しまず続けることが重要」という言葉だ。
160年の歴史をを背負いながらも、若年層や海外市場への挑戦に力を入れ、新しい市場を切り拓こうとする栗原社長の姿勢が、梅林堂の成長を支えているのだろう。埼玉の和菓子文化を担い続ける梅林堂が、どのように新しい価値を創造していくのか、さらなる発展を期待したい。

栗原良太/1955年、埼玉県生まれ。1978年、慶應義塾大学商学部卒業後、京都末富にて修行後、1980年、株式会社梅林堂に入社。1995年に同社代表取締役に就任。熊谷青年会議所理事長、日本青年会議所常任理事などを歴任。2022年には熊谷商工会議所副会頭に就任し、地域経済の活性化にも注力している。