
「セコイヤチョコレート」や「チョコエッグ」など、世代を超えて愛される商品を世に送り出してきたフルタ製菓株式会社。同社はチョコレート、ポケット菓子、食玩、業務用の4事業を柱に、BtoB(※1)事業やグループ会社との連携を通じて菓子業界で独自の地位を築いている。創業以来の伝統を守りつつ、時代の変化に対応した挑戦を続ける同社を率いるのが、代表取締役社長の古田盛彦氏である。かつて直面した主力商品失速という危機を乗り越え、数々のヒット商品開発を主導してきた同氏に、これまでの歩みと“成長と継続”を両立させるための経営戦略、そして未来への展望について話を聞いた。
(※1)BtoB:「Business to Business」の略。企業が企業に向けて商品やサービスを提供する取引のこと。同社においては、製菓・製パンメーカー向けの業務用原料販売などがこれにあたる。
現場と市場を知る経験が危機の打開策を見出す原動力に
ーー社会人としてのキャリアのスタートと、入社後の歩みについてお聞かせください。
古田盛彦:
大学卒業後は、菓子業界を俯瞰的に捉えるため、油脂とたんぱくの専門メーカーである不二製油株式会社に入社しました。海外貿易の部署で原料調達という「川上」の仕事を3年間経験した後、1988年にフルタ製菓株式会社へ入社。入社後は半年間の工場実習で現場の基礎を学び、その後商品開発の部署へ移りました。原料という素材の視点、ものづくりの現場、そしてそれらを形にする企画。この三面を早い段階で経験できたことは、事業全体を理解する上で極めて重要なステップとなりました。
ーー入社直後の会社の状況についてお聞かせください。
古田盛彦:
私が入社した年は好業績でしたが、翌年から状況は一変します。主力商品だったシール付きチョコウエハースに対する社会的批判による売上の急停止に加え、取得した工場用地が建設不能と判明するなど不運が重なり、5年間で会社規模が約半分にまで縮小する“冬の時代”を迎えました。当時、商品開発の一員だった私は、新たな収益の柱を築くべくバレンタイン専門の事業部を立ち上げ、季節商品の開発に奔走しました。この経営の難しさを肌で感じながら必死に活路を見出そうとした経験が、現在の経営哲学やヒット商品開発の礎として生かされています。
「チョコエッグ」誕生秘話と事業再生

ーー会社の危機を乗り越える転機となった出来事について教えていただけますか。
古田盛彦:
大きな転機は、おもちゃ付き菓子、いわゆる食玩(食品玩具)の開発に改めて注力したことでした。もともと弊社は駄菓子系の事業を得意としており、その原点に立ち返ろうと考えたのです。1996年頃に「ポケットモンスター(以下、ポケモン)」のホルダー付き商品を発売したところ、これがヒットし、業績回復の足がかりとなりました。
ーーそこから、社会現象にもなった「チョコエッグ」はどのようにして生まれたのでしょうか。
古田盛彦:
ポケモンでの成功をきっかけに、さらに魅力的な食玩を模索する中で、1999年に「チョコエッグ」を開発しました。卵型のチョコレートの中に精巧なフィギュアが入っているというコンセプトが受け、子どもから大人まで幅広い層のコレクター心に火をつけ、爆発的なヒット商品となったのです。この成功が会社を再び成長軌道に乗せる大きな原動力となりました。
多角的な事業展開とグループシナジーが生む安定した経営基盤
ーー現在の事業構成と、それぞれの強みについてお聞かせください。
古田盛彦:
弊社の事業は、大きく「4本の柱」と「2つの事業部」で構成されています。まずBtoC(※2)事業の核となる4本の柱は、味と価格を追求したファミリーサイズの「チョコレート」、100円前後で手軽に楽しめる「ポケット菓子」、コレクション性を重視した「食玩」、そしてビスケットやパイを中心とした「焼き菓子」です。
これらに加え、創業初期から着実に成長を続けるBtoB事業となる「業務用商品事業部」と、M&A(※3)によりグループ入りした「杉本屋製菓」の事業部が支えとなっています。杉本屋製菓が持つゼリーや羊羹といった異なるカテゴリーの技術と連携し、グループ全体で商品ラインナップの幅を広げることで、時代の変化に左右されない強固な経営基盤を築いています。
(※2)BtoC:Business to Consumerの略。企業が一般消費者に対して商品やサービスを提供する取引形態のこと。
(※3)M&A:Mergers and Acquisitionsの略。「合併と買収」を指し、企業の持続的成長や事業多角化のために他社の経営権を取得すること。
ーーメーカーとして、お客様の反応を直接知るためにどのような工夫をされていますか。
古田盛彦:
菓子メーカーは、お客様の反応を直接知る機会が限られがちです。だからこそ、私たちは自ら「顧客接点」を創出することを重視しています。その代表例が、自治体との包括連携協定です。滋賀県高島市とは、看板商品「セコイヤチョコレート」と観光名所「メタセコイア並木」の名前が縁となり、10年以上にわたる絆を築いています。
他にも、全国の拠点で長年開催している「クリスマスセール」や、2022年から展開しているアンテナショップ「ふるたす(※4)」を通じ、お客様の「生の声」を収集しています。現場で喜びの表情に触れることは、社員が自らの仕事の価値を再確認し、次なる挑戦へ向かうための活力となっています。
(※4)ふるたす:フルタ製菓の直営アンテナショップ。「フルタの複数形(furuta+s)」と、お菓子の美味しさに楽しさを「プラス」するという意味が込められている。
“成長と継続”の両立へ 持続的発展を支える「3つの重要戦略」
ーー2012年の社長就任以来、一貫して掲げているテーマと具体的な戦略をお聞かせください。
古田盛彦:
私は就任にあたり、会社のテーマとして“成長と継続”を掲げました。無理な成長は組織にひずみを生み、一方で現状維持は衰退を招きます。この2つを高い次元で両立させることは困難な課題ですが、だからこそ挑戦する価値があると考えています。この目標を達成するための具体的戦略が、「設備投資」「M&A」「海外展開」という「3つの重要戦略」です。自社開発の強化はもちろん、M&Aも積極的に活用することで、多様化する市場ニーズへ迅速に応え、持続的な成長を実現できると確信しています。
ーー今後の具体的な目標をお聞かせください。
古田盛彦:
今年は創業75年目ですが、一つの節目として、創業80周年までにグループ全体の売上高500億円を達成することを目指しています。また、私たちが戦う日本の菓子市場には、独自の「卸(問屋)文化」が成熟しています。季節ごとに入れ替わる多彩な味を全国へ確実に届けるこの優れた流通システムは、世界的に見ても非常に付加価値が高く、文化的な多様性を支える基盤です。この強固なパートナーシップを深めることで、他社には真似できないスピード感で市場を切り拓いていきます。
多様性を尊重し個々の長所を伸ばす人材戦略

ーー事業を拡大していく上で、人材についてはどのようにお考えですか。
古田盛彦:
弊社では多様性を尊重し、一人ひとりの長所を伸ばすことを重視しています。部署の垣根を越えて幅広い業務に挑戦できるのが弊社の魅力です。たとえば、商品開発の担当者が店舗運営の視点を持ったり、営業担当者が自ら企画を立てて新しい売り方を構築したりと、自分の役割を限定せず、好奇心を持って動ける方には非常に面白い職場です。仕事の幅を広げることは、本人のキャリアにとっても大きなプラスになります。新しく加わる方々にも失敗を恐れず自分の「色」を出し、会社に新しい風を吹き込んでほしいと願っています。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
古田盛彦:
菓子や食品という分野は、単に空腹を満たすためだけのものではありません。そこには「おいしさ」を通じた安らぎや、「楽しさ」がもたらす心の潤い、そして「健康」という付加価値があります。生活の彩りそのものを提供できるこの仕事には、無限の可能性があると信じています。少子高齢化と言われながらも、お菓子が提供する情緒的な価値への需要は今なお成長を続けています。私たちはこれからも、皆様の生活に彩りを添えるような商品を届けられるよう挑戦を続けます。100年企業を見据えたフルタ製菓の未来に、ぜひご期待ください。
編集後記
「チョコエッグ」の華やかなヒットの裏側には、存亡の危機を乗り越えた強靭な意志があった。古田氏が掲げる“成長と継続”という言葉は、伝統を重んじながらも「ふるたす」の展開や地域連携といった革新を止めない同社の姿勢そのものである。創業80周年の大台に向けた、同社の次なる一手に注目していきたい。

古田盛彦/1962年大阪生まれ。関西大学経済学部卒業。1988年フルタ製菓株式会社に入社。常務・副社長を経て、2012年に代表取締役社長就任。「変化」「挑戦」「創造」の3つのキーワードを堅持し、いつも新たな気持ちでさらなる向上を目指している。