※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

近年、日本卓球界は世界の舞台での活躍が目覚ましく、2024年に開催されたパリ2024オリンピックでのメダル獲得も記憶に新しい。その影響もあり、国内での卓球人気はますます高まり、卓球人口も増加の一途をたどっている。このような卓球界の盛り上がりを支える背景には、用具開発や競技環境の整備を通じて競技者を支えている企業の存在がある。

扶桑ゴム工業株式会社は、創業以来、一貫して卓球ラケットのラバー製造を手掛け、卓球界の発展に貢献してきた。代表取締役である高橋聡氏に、これまでの歩みや今後の展望についてお話をうかがった。

SEからの業種転向で製造業の社長になるまで

ーーこれまでのご経歴や社長になるまでの経緯をお聞かせください。

高橋聡:
就職活動中に参加した合同企業説明会で、SEの仕事に興味を持ったことがきっかけで、東海大学工学部を卒業後はSIer(システムインテグレーター)企業に就職しました。弊社は祖父が創業し、父が引き継いで経営したこともあり、いずれは実家に戻って家業を継ぐことも考えながら社会人として働いていました。そして、30歳になるタイミングで退職を決意し、弊社に入社しました。

ーー全く異なる業種からの社長就任で、苦労したことを教えてください。

高橋聡:
業界知識が全くない状態からのスタートだったため、当初は戸惑うことも多くありました。しかし、社会人として培ってきた経験は、会社経営にも活かせるはずです。一人で解決しようとせず、第三者に製品のアドバイスを求めたり、経営コンサルタントの力を借りたりして経営理念や人事評価の見直しを行っています。

製造業は、黙々と作業する場面が多いのですが、弊社にはベテランも多数在籍していますので、年齢やキャリアに関係なく交流できるように、社員同士で活発に意見交換ができる職場づくりを目指しています。誰にでもチャンスがあり、企業としても進歩を止めずに、挑戦を続けていきたいと考えています。

プレーヤーの夢を叶える究極のラバーを目指して

ーー貴社の強みはどのようなところですか。

高橋聡:
1960年の創業以来、卓球ラケットのラバー製造一筋を貫いてきた実績が強みです。天然ゴムを原料として完成品までの工程を一貫して製造する技術には自信があります。これまで多くのトッププレーヤーからの信頼を得てきました。

卓球界では、ルール改正やラバーの進化が続いてきましたが、私たちは今後も、守り続けてきた技術に加えて、選手のニーズをいち早くキャッチして、迅速に新製品の開発をしていきます。

卓球ラバーはほんのわずかな変化でも、プレーに影響を及ぼします。ラバーの変化で、イレギュラーバウンドが起こったり、力の入れ方の加減が変わったりするため、選手たちはその微細な変化にも非常に敏感です。弊社は優れた技術を活かし、不良率を抑えた高品質の製品づくりに日々努めています。

ーー代表取締役に就任してからの新たな取り組みについて教えてください。

高橋聡:
社内には、「代々のやり方」が根付いています。それが良くないわけではありませんが時代に合わせて変えていくことも必要です。そのため、新たな設備導入を進め、手作業の部分を機械化することで、品質の安定と効率化を図っています。

現在、弊社のラバーは、卓球初心者に向けた使いやすさが強みですが、今後は、トッププレイヤーが国際大会で使用するような製品開発を目指しています。新たな設備投資により、初心者から上級者まで使えるラバーの開発が可能だと確信しています。

ここ数十年の卓球界では、「テンションラバー」が主流でした。これは、ラバーのシートを引っ張った状態で製造することで、高い反発力や摩擦力を実現しています。輪ゴムを引っ張ってピンピンになった状態で放すと遠くに飛んでいくように、スピードが出やすいことが特徴でした。

現在は、プレーヤーの技術を道具が補ってくれるようなラバーが注目されています。選手自身が力を加えなくても回転がかかったり、相手の力を利用して飛ばすことができる「素直なラバー」の開発もしていく予定です。

製品の品質を維持しながら新しい製品をつくるために、これからも積極的な設備投資を行い、「初心者向けのラバーをつくる企業」から「中級者・上級者向けのラバーもつくれる企業」にイメージを変えていきたいと考えています。

守りから攻めへ、情熱を形にする経営スタイル

ーー今後の展望をお聞かせください。

高橋聡:
親子3代にわたる積み重ねが認められ、扶桑ゴム工業の卓球ラバーは2023年度の「葛飾町工場物語」に認定されました。これは、葛飾区内の町工場から生み出される優れた製品や技術を「葛飾ブランド」として認定する取り組みです。この評価に恥じないように、先代達が築いたラバーづくりへの情熱やこだわりを受け継ぎながらも、守りに入らない攻めの経営を目指しています。

組織としては、現場から意見が活発に上がってくる職場環境を目指していきます。「卓球が好き」というシンプルな動機から始まってもいいと思います。情熱のある社員たちとともに、卓球界の歴史を変えるような新製品の開発に挑戦していきたいですね。

編集後記

高橋社長の言葉から、初心者から上級者まで対応する新たなラバー製品へのシフトや、新設備導入による品質向上や新製品開発への意欲が強く感じられた。「卓球が好き」というシンプルな思いを出発点に、社員一人ひとりが新たな価値を生み出す力を発揮できる環境づくりが、会社の強みをさらに引き出す鍵となるだろう。卓球界のさらなる発展に向けた扶桑ゴム工業株式会社の未来に注目したい。

高橋聡/1983年、東京都葛飾区生まれ。東海大学卒業後、SIer会社に就職し、8年間SE職に従事。2014年に扶桑ゴム工業株式会社へ入社。現場仕事をひと通り経験し、2022年に代表取締役に就任。