
ビッグアメリカンショップ株式会社は、パタゴニア、セントジェームスなど海外有名ブランドのアパレルを扱う企業だ。本社のある岡山県を中心に、実店舗とECサイトを展開している。流行も取り入れながら、スタンダードを大切にする、1964年創業の老舗企業だ。
アルバイトとして入社し、店長やバイヤーを経て2021年に三代目代表取締役に就任した平井基王氏に、自らの経験や社員に期待していること、他社との差別化や今後の展望などについてうかがった。
パンクロック好きな人見知りが「勧めたい商品を増やす」ために店長・バイヤーに
ーー2021年に代表取締役となりましたが、入社したきっかけを教えてください。
平井基王:
岡山から大阪の大学に進学しましたが、雰囲気になじめず半年も通わずに中退。中学生の頃からパンクロックに熱中していたので、通っていたレコード店に就職しようと考え、スタッフを募集していないか聞いてみたのですが「今は空きがない」と断られました。その後、1~2度利用したことのあるこちらの店舗を思い出し、アルバイトとして入社したのがきっかけです。
ーー入社後はどのような仕事に取り組まれていたのですか。
平井基王:
まずはアルバイトとして、店舗で接客をしていました。人見知りする方なので、最初はお客さまに声をかけるだけでも緊張してしまいました。当時を振り返ると、自分は「いい販売員」ではなかったと思いますが、ファッションが好きなお客さまと会話を重ねていくうちに、少しずつ慣れてきましたね。
その頃から「世の中にはもっといい商品があるんじゃないか?」と、思うようになりました。自分で納得できるものを仕入れて、お客さまにおすすめしたいと思っていたところ、入社7年目で小さな店舗を1つ任せてもらえることになり、仕入れから販売まで一貫して行うことができました。その店舗は1年半で閉店してしまいましたが、今でもいい経験ができたと思っています。
その後も販売・店舗運営・バイヤーをローテーションで繰り返し、さまざまな時代・いろいろな角度から豊富な経験をさせてもらいました。
意見の対立は、より良く成長できるチャンス。誰とでもアイデアを出し合っていきたい
ーー社員時代に、お客さまのために心がけていたことはありますか。
平井基王:
はい。経営陣とは意見が対立することもよくありましたが、それはすべてお客さまのことを思うからこその本音のぶつかり合いです。衝突しても雰囲気が悪くなることはなく、意見や本気度を評価してもらい、代表取締役に選ばれたのだと思っています。
今でも社員には、「意見があればはっきり言おう」と伝えています。私に賛成するばかりではなく、お客さまのことを考えてアイデアを出し合えると嬉しいですね。私や上司を見て仕事をするのではなく、現場を知り、お客さまを見て仕事をすることが大切だと考えています。
出会いに恵まれ、アルバイトから代表に。これからは私だけでなくみんなそれぞれが発信源となり事業拡大を実現していきたい

ーー人生のターニングポイントについて教えてください。
平井基王:
明らかにターニングポイントだといえるものはないのですが、これまで出会ってきた方々とのことを大切に思っています。同業他社の方、他の業界の方、すべての出会いが私にとってありがたく、学びがあります。中学生の頃からあまり悩まずに、失敗しても次に活かそうとポジティブに行動してきたタイプだったので、そう思えるのかもしれません。
さすがに、「19歳・アルバイト」だった私が今の私を見ると、環境の違いに驚くと思いますが、代表取締役になったから成功、そうじゃないから失敗、というわけではなく、日々の仕事を楽しんできたことの積み重ねが今日につながっていると感じています。「明日も、より良い商品をお客さまにお届けできる」を積み重ねられることが、成功だと思います。
ーー今後の事業展開について教えてください。
平井基王:
「10年後も愛される会社」「面白い会社」でありたいと考えています。具体的には、取扱商品の拡充はもちろんのことですが、特に「先を読む力を養うこと」「ECサイトの強化」「取引先・取扱商品の拡充」「異業種参入」の4つを意識しています。
ファッションの流行は毎年移り変わり、去年売れたものが今年も売れるとは限りません。流行を取り入れながらベーシックも大切にしてきた当社が何を仕入れるべきか、大胆に仮説を立てながら行動することが重要です。
また、ECサイトを開設してからは売上は年々増加し、EC売上の伸びしろの可能性を感じています。こちらもよりUI(※)などを意識して改善していきたいですね。
さらに、新規のアパレルメーカーを開拓しながら、すでにお取引のあるアパレルメーカーとも情報を共有し、改善に向けた提案をするなど、柔軟に行動できるのも弊社の強みの1つです。すべての関係者を大事にしながら、共に成長していきたいと思います。
なお、当社はイルビゾンテというバッグ・革製品を扱う海外有名ブランドのフランチャイズ事業も手がけています。近年では衣服だけでなくライフスタイル全体をコーディネートすることに関心が集まりつつあると感じています。
そのためアパレル以外にもコスメなど、ファッションと関連の強い異業種に参入するアイデアも温めています。時代に合わせて柔軟に考え、変化していく会社でありたいです。
(※)UI(User Interface):ユーザー・インターフェースの略称。ユーザー(利用者)と、製品・サービスをつなぐ接点(インターフェース)のこと。
編集後記
現在約90名もの社員が在籍する同社は、創業59年と長い歴史を持つが、平井社長は「柔軟」「面白い」というキーワードを大切にし、19歳でファッション業界に飛び込んだパンクロックに熱中する少年の心を持ったまま、さまざまなチャレンジを続けていることがうかがえた。ビッグアメリカンショップ株式会社は、これからも周りを驚かせ笑顔にしていく場所として、大きな存在感を発揮することだろう。

平井基王/1970年、岡山県玉野市生まれ。大阪学院大学中退。1990年に入社し販売スタッフ、店長職、バイヤー職を経験した後、2021年にビッグアメリカンショップ株式会社代表取締役に就任。