
厨房機器メーカーとして創業140年の歴史を持つ服部工業株式会社。同社の5代目社長として多角的な事業展開を牽引し、グローバル化と新規事業開拓に挑み続けるのが服部俊男氏だ。30歳で社長に就任し、就任後、数年で会社に大きな変革をもたらした。
コロナ禍で売上が半減する危機に直面しながらも、新規事業の立ち上げや海外展開の加速により難局を乗り越えたのである。「人と違うことを大事に」「失敗を恐れるな」。その言葉には、疲弊した日本企業に新たな風を吹き込む力がある。変革の時代に求められる経営者像に迫った。
コロナ禍によって売上半減!危機を好機に変えた経営姿勢
ーー大学卒業後、家業に就くまでの経緯とエピソードをお聞かせください。
服部俊男:
当初、家業を継ぐことは全く考えていませんでした。理系の大学を卒業後、サービス業に興味を持ち、ホテル業界で働いていたのです。転機が訪れたのは、24歳の時です。父から「そろそろ頼むぞ」の一言を受け、家業を意識するようになったのです。
しかし、弊社は海外との取引も視野に入れていたので、自身の英語力不足を補うため、まずは2年間アメリカに留学し、語学と経営学を学びました。新しい環境での学びは日々刺激的で、これが、私にとって大きな成長の機会となりました。人生は予想外の展開の連続で、それを受け入れる柔軟性と挑戦する勇気が大切だと学ぶことができたのです。
ーー社長就任後に直面した課題と、その改善方法について教えてください。
服部俊男:
30歳で社長に就任し、最も力を入れたのは組織づくりです。弊社の服部工業株式会社を中心とした服部グループは当時から、製造業だけでなく、食品関連、教育関連など、複数の事業を展開しており、グループ全体で複数の法人を抱えているため、適材適所の人材配置が欠かせませんでしたが、これは想像以上に難しい課題でした。
特に「世代間ギャップ」が最初の壁で、先代世代の幹部とはときに激しい議論を交わし、彼らの経験や知見も尊重しつつ、徐々に新しい世代へとバトンを繋いでいきました。
その中で、「絶対に先代(現会長)には相談に行かない」と決め、自ら決断する姿勢を強く意識するようにしました。相談すれば気持ちは楽になると思いますが、それでは真に社長の責任を果たすことにはならないと考えたのです。
就任当初はすべてを自分一人で決めなければならないと思い込んでいましたが、次第に、組織全体の意見や力を引き出し、それを意思決定に活かすことが、より良い経営につながると実感するようになりましたね。
長期サポートが生む安心感!顧客ニーズを超える製品への挑戦

ーー貴社の一番の強みはどこにあると考えていますか?
服部俊男:
「長期的視点に立った製品開発と顧客ニーズに合わせたサービス」にあると確信しています。まず、私たちの主力製品の一つに厨房用の大型の回転釜等がありますが、48年以上使用されているものもあります。
儲けようとするならば、頻繁に買い換えたり、新調していただいた方が利益が出ますが、顧客に長く愛用していただける製品をつくることが、結果的に企業の持続可能性につながると信じています。また、販売後も清掃やメンテナンス、害虫駆除など、お客様のさまざまなニーズに応えるサービスを提供することで、長期的な関係を構築し、継続的な事業につながるように展開しています。
現在のグローバル展開においてもこの強みを活かし、海外の寿司ブームに対応するため、高性能な炊飯器やシャリを作る寿司ロボットの開発を進めています。外国人にとって炊飯は難しく、寿司の味にばらつきが出やすいため、ボタン一つで安定したご飯が炊けるロボットは、おいしいごはんの品質を確保するうえで非常に有効です。こうした製品は海外市場でも今後も確実に需要が伸びていくと見込んでいます。
世界進出を目指して取り組む"ダイバーシティ革命"
ーーどのような人材が貴社で成長し、活躍していますか?
服部俊男:
弊社では、主体性と挑戦心を持った人材が成長し、活躍しています。特に重視しているのは、自ら考え、行動する力やリーダーシップを発揮できることです。社歴や年齢に関係なく、会社の考え方に共感し、成果やプロセスが評価されれば、たとえパートタイムの社員でもリーダーに抜擢していきます。実際に、入社5年目で工場長や執行役員に就任した社員もいます。
また、弊社では毎年、新規事業の開発に取り組んでいるため、新しいことに意欲的に挑戦できる人材を歓迎します。社員の起業家マインドを育てたいと考えているため、自分のアイデアを事業化したいなど、チャレンジ精神旺盛な社員には、積極的に挑戦の場を提供していくつもりです。
ーー今後の事業展開において、どのような成長戦略をお考えですか?
服部俊男:
大きく2つの方向性を掲げています。まず1つ目は、グローバル展開のさらなる加速です。現在、25カ国以上に製品を輸出していますが、今後はアメリカやヨーロッパ市場への進出を視野に入れ、それぞれの国や地域で必要とされる安全規格、例えばアメリカのUL認証や、ヨーロッパのCEマーキングなどの認証取得を積極的に進めていきたいと考えています。
2つ目は、革新的な新製品の開発です。食材の自動投入から調理まで、ほとんど全ての工程を自動化する画期的な製品の開発を進めており、特に炊飯ロボットや調理ロボットの開発に力を入れています。
これらの製品を輸出するだけでなく、将来的には、現地の食文化に合わせた製品を製造する海外工場の設立や、調理ロボットを活用した飲食店の経営など、新たなビジネス展開の可能性も視野に入れています。
こうした取り組みを実現するためには、多様な価値観とバックグラウンドを持つ人材が集まり、オープンなディスカッションを通じて革新的なアイデアを生み出す環境が欠かせません。
そのため、グローバル社員の比率を現在の10%強から30%にまで引き上げる計画も進めています。日本の伝統的価値観とグローバルな視点を融合させ、新たな価値を創造する企業として成長していきたいと考えています。
編集後記
服部俊男社長は、140年の伝統を大切に守りながら愛知県の岡崎市から世界を見据え、グローバルな事業展開と人材育成に注力する。自社の発展だけでなく、日本社会全体の活性化を見据えた「起業家マインドの醸成」。この長期的視野に立った経営姿勢は、今後の日本の前線を担う企業にとって重要な考え方だろう。

服部俊男/1885年(明治18年)創業の服部工業株式会社の5代目経営者。2024年現在、7法人15事業を経営する。米コーネル大学 Master of Management in Hospitality卒。