
鋳造業界は、環境規制の強化や職人の高齢化、人材確保の困難さなど、多くの課題に直面している。特に2040年に向けたカーボンニュートラル(※)への対応は、工業炉メーカーにとって大きな問題であり、職人技術の継承という伝統的な課題に加え、デジタル化への対応も求められている。
このような状況下で、アルミ溶解炉でトップクラスのシェアを誇る老舗企業、株式会社メイチューの次期経営者である専務取締役の中島久晶氏に、伝統と革新のバランスを取りながら次世代の在り方を模索する取り組みについて話を聞いた。
(※)カーボンニュートラル:排出した温室効果ガスを森林や技術によって同量吸収・除去することで、地球環境への負荷を最小限に抑える取り組み。
社員が働きやすい環境づくりに注力し、人材確保と定着率改善の課題を解決
ーーまずは事業承継の経緯についてお聞かせください。
中島久晶:
私は次男で家業を継ぐ意思はなく、大学卒業後は大手ハウスメーカーに3年ほど勤務していました。しかし、事業を承継する予定だった兄の意向もあり、自分に白羽の矢が立ったとき、「チャレンジする機会をもらえるなら」と家業を継ぐことを決意したのです。
弊社に入社後は、1年ほど工場で品質管理を経験し、その後は営業企画として販促活動の中核を担い、弊社最大の課題であった人材確保と定着率の向上に注力しました。前職での経験と若手の視点から採用戦略を立案し、9年間で46名の採用に成功したことは大きな自信になりましたね。
ーー入社時に感じられた課題はどのようなものがありましたか?
中島久晶:
社員の定着率の低さが弊社の課題であり、その解消が必要だと考えました。まず第一に、社内のITシステムを全面的に刷新しました。弊社は受注から据え付け、アフターメンテナンスまで一貫して行うことを強みとしていますが、それぞれの工程でシステムが分断されていたことが大きな課題だったのです。
一つの案件を全員が把握できるシステムに組み替えることで、仕事の流れがスムーズになって無駄な作業が減り、社員に時間的な余裕が生じた結果、部門間での気遣いや協力が自然と生まれるようになりましたね。
次に実施したのは、世代間のコミュニケーションギャップの解消です。徹底的な対話を心がけ、互いを知る機会を増やすため、上の世代には若手の考え方の特徴を説明し、若手には先輩方の会社への貢献を伝えるなど、双方の理解を深める橋渡しを精力的にこなしました。
また、2023年4月に管理職の世代交代を実施し、丁寧な説明と対話を重ね、離職者を出すことなく移行を実現させました。現在は30代の管理職も多いため、管理職同士での知見共有や、世代を横断したプロジェクトチームの編成など、新しいマネジメント手法を導入しているところです。
最後は福利厚生面の充実で、特徴的な制度として子ども手当を導入。第1子、第2子は月額1万円、第3子以降は1人2万円と、多子世帯を手厚く支援する設計で、これは単なる福利厚生ではなく、少子化という社会課題への企業としての取り組みでもあります。
日本の経済や文化の継承のためにも、社員が安心して子育てできる環境づくりが重要です。弊社には、第3子以降のお子さんがいる家庭が多いことは私の大きな誇りとなっています。これらの取り組みにより、社員の定着率改善に成功しました。今後も会社にとって大事な財産である社員が、安心して働ける環境づくりに力を入れていきます。
職人技とデジタル化の両立で市場トップシェアへ

ーー貴社の主力製品とそれに関連する特徴について教えてください。
中島久晶:
弊社はアルミ溶解炉の開発・製造・販売を行っており、北海道から鹿児島まで全国のお客様にご利用いただいています。この分野ではトップクラスのシェアを維持し、独自の特許技術を活かした製品で「業界の常識を変えてきた」と自負しています。
弊社の製品は完全オーダーメイド制で、熟練職人による手作業が基本です。溶接やレンガの組み立てなど、高度な技術を要する工程が多く、大量生産とは異なるアプローチが必要です。そのため、職人技の継承に関しては、従来の「見て覚える」方法に加え、若手の育成を加速するために技術の可視化にも取り組んでいます。
熟練職人の作業工程を細かく分解し、それをスキルマップとして整理し、達成度に応じて給与が連動する仕組みを導入することで、若手のモチベーション向上にもつなげているのです。また、デジタル化の取り組みも進めており、作業日報のデジタル化やスキルシートの体系化を進めています。
しかし、デジタル化は目的ではなく手段に過ぎません。職人の技術を見える化し、次世代への技術継承を円滑に進めることを真の目的に据えて、日々の業務を行っています。
2040年カーボンニュートラルへの挑戦。環境対応型工業炉の開発戦略
ーー環境対応についてどのような取り組みを進めていますか?
中島久晶:
工業炉は製造業のCO2排出量の中でも大きな割合を占めており、特に自動車業界では、2040年のカーボンニュートラル達成に向けて、サプライチェーン全体での取り組みが加速しているところです。
そこで弊社は、エネルギー効率を30%以上改善した新型炉の開発を進めています。最大の課題は、省エネルギーと品質の両立ですね。アルミの溶解温度を下げれば省エネにはなりますが、製品品質に影響が出る可能性があるので、独自の温度制御技術と断熱技術を組み合わせることで、この課題の解決に挑戦しています。
ーー次世代の人材育成についてもお聞かせください。
中島久晶:
工場には長年、一人親方として常駐している職人さんが多くいますが、60代、70代の方が多く、引退時期が迫っています。新たな一人親方の確保が難しい現状を踏まえ、内製化を進める一方で、熟練職人の技術やノウハウを社内に蓄積する取り組みを進行中です。
これまでは中途採用を中心に人材確保を進めてきましたが、新卒採用も検討すべき時期を迎えています。特に問題が発生した際に、他者や環境のせいにするのではなく、自分に何ができるかを考える「自責思考」を持った人材の確保を重視していきたいですね。
私は「人が組織をつくる」という信念を持ち、社員ひとり一人が、お客様、仕入先様、そして社会に対して真摯に向き合える環境をつくることが、経営者としての使命です。ときには理想論と思われることもありますが、私自身がそう信じ、発信し続けることで、会社全体が前向きな方向に進んでいくと確信しています。これからも社員が誇りを持って働ける会社づくりに邁進していきたいと思います。
編集後記
伝統的な製造業が抱える課題に対して、若手ならではの柔軟で革新的な発想で立ち向かう姿勢に感銘を受けた。特に印象的だったのは、デジタル化と職人技の融合を実現するための真摯な取り組みであり、単なる効率化に留まらず、技術継承の重要な手段として位置づけられている点だ。また、環境対応への意識も高く、時代の変化に対応するために自社の強みを活かしながら確実に前進している。今後の挑戦にますます注目したい。

中島久晶/1988年愛知県生まれ、南山大学卒業。新卒で株式会社一条工務店に入社。2015年事業承継のため株式会社メイチューに入社。2023年に同社専務取締役に就任。ITや組織運営を中心に会社運営に携わる。