
農林水産省のデータによると、埼玉県のカロリーベースの食料自給率(※)は26.3%で、全国平均の38%と比べても低い。全国平均も決して高いとは言えず、さらに人口減少が進むことを考えると、楽観できる状況ではない。
こうした中、埼玉県川越市を拠点とするアースシグナル株式会社は、持続可能な農業を目指し、「営農型太陽光発電」の設置を提案している。エネルギー事業に関する知見を活かした同社が、どのように創業し、社会問題の解決に取り組んでいるのか、代表取締役の笠原喜雄氏に話を聞いた。
(※)カロリーベースの食料自給率:国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標のこと。
太陽光発電を活かした事業で持続可能な社会の発展に貢献したい
ーー太陽光発電事業を始めたきっかけと、これまでの歩みを教えてください。
笠原喜雄:
高校を2年で中退し、紹介されて外壁の請負工事を始めました。親方のもとで約2年間修行を積んだ後、2004年に「笠原工業」を創業しました。外壁工事を主な仕事としていましたが、「社会にもっと貢献でき、自分のアイデアを形にできる仕事がないか」と模索し続けていました。
そんな中、一般住宅に太陽光発電を設置すると国から補助金が出る制度が始まりました。当時、弊社では屋根工事も請け負っており、太陽光発電という優れた技術を活かせば、社会に貢献できる新しい取り組みができるのではないかと考えて、2009年にアースシグナル株式会社を設立し、太陽光発電とリノベーションを事業の柱として出発しました。
その後、地域で発電した電力を地域内で消費することで電力自給率を上げられるのではないかと考え、このアイデアを形にするために、アースシグナルソリューションズ株式会社を設立しました。
従来、太陽光発電によって生み出される電力は、購入後の使用場所が不明でしたが、地域内で発電・消費する仕組みを作れば、地域経済に何億円もの資金が還元され、地域課題の解決につながると考えたのです。この実現のために、小売電気事業者として経済産業大臣の登録を受けました。
現在、弊社が最も力を入れている事業の一つが「営農型太陽光発電」で、地上約3メートルの高さに太陽光パネルを設置し、その下で農業を行うというものです。これにより、農作物の販売収入に加え、発電した電力を自家利用することで農業経営のさらなる改善が期待できます。
ーーなぜ、地域貢献に力を入れるのですか。
笠原喜雄:
もちろん企業である以上、収益をしっかり上げていくことは必要ですが、弊社では地域社会とつながる事業に取り組むことを第一に考えています。その理由は、これからの時代において地方が衰退していくことは、国全体の衰退と同義だと考えるからです。
では、地方を活性化させるためにはどうすればよいのか。弊社が持続可能な発展を目指して選んだ手段が、再生可能エネルギーの地産地消と、食料自給率の向上です。これらを通じて地域経済を支え、地域とともに成長していける企業でなければ、今後の競争環境で生き残ることは難しいと考えています。
エネルギー事業の知見を活かした取り組みで地域の課題解決をサポート

ーー改めて、貴社の業務内容を教えてください。
笠原喜雄:
弊社では地域全体の持続可能性を高めることを目指し、再生可能エネルギーの開発を主軸に、そのエネルギーを地産地消する取り組みを進めています。
また、不動産事業にも注力しており、2016年には中古住宅をリノベーションする専門店を立ち上げました。全国で800万戸を超える中古住宅や空き家の流通を活性化させるために、築30年以上の住宅をリノベーションして再び不動産市場に供給しています。これが空き家対策となり、人と地球にやさしいサステナブルな住宅の提供にもつながっています。
さらに、2023年には「GXラボ」を福島県の楢葉町に設立しました。もともとは弊社のバックオフィス業務を担うための組織でしたが、知人が福島県楢葉町のまちづくりで復興支援を行っていることを契機に、楢葉町の課題解決に取り組むようになったことから、同町に設立しました。現在は、これまでのエネルギー事業で培った知見を活かし、自治体の脱炭素化や地球温暖化対策の支援も行っています。
ーー貴社の強みはどこですか?
笠原喜雄:
弊社の強みは、単に再生可能エネルギーを生み出すだけでなく、不動産事業、リノベーション事業、EVのカーシェアリングや省エネ住宅の開発も手がけている点にあります。これらの要素を一体化し、社会問題の解決に向けた包括的な提案ができることが、高く評価されています。
実際、お客様の約8割は紹介による取引です。また、弊社の事業の約7割は法人向けのBtoB案件ですが、残り3割は一般のお客様です。災害や停電、電気料金の高騰といった課題に対し、どうすればお客様に安心・安全な暮らしを提供できるかを常に考えて、今後はBtoC事業を強化していきます。
再生可能エネルギー、EV、省エネ住宅の各事業が一連の流れでつながっているため、一般のお客様にもニーズに応じた具体的な提案ができると自負しています。将来的には、BtoBとBtoCの比率を半々にすることを目指していますが、これが実現できれば、より多くの人々に向けて、持続可能な安心できる暮らしの提供が可能だと考えています。
「なくてはならない企業」を目指すうえでの今後の課題
ーー社会問題に真っ向から立ち向かう貴社が目指す未来はどのようなものですか?
笠原喜雄:
弊社のビジョンは「循環型未来社会を創造する」ことです。その実現のためには、安心で快適かつ安定した生活基盤を提供し、人々が持続可能な暮らしを送れる環境をつくることが必要だと考えています。
地域において重要な役割を果たすだけでなく、最終的には社会全体にとって「なくてはならない企業」になることが目標です。人々の生活に欠かせない電力や食料を安定的に供給する企業であるためには、事業体としてさらに規模を拡大する必要があります。企業が成長することで、地域の再生可能エネルギーの普及量が増え、食料自給率が向上し、社会貢献の輪が広がっていくと信じています。
この目標を達成するためには、採用や人材教育の強化が欠かせません。お客様の多様なニーズに応えるため、グループ全体でさらに複合的な提案ができる体制を整える必要があります。お客様の期待に応えると同時に、企業としての成長を実現することが、現時点での最優先課題です。
また、3年後には売上100億円、営業利益率10%を目指しています。この目標に向けて、社会課題の解決が可能な分野に積極的な投資を行い、将来の展望を描ける企業体を目指していく決意で日々の業務を進めています。
編集後記
社会問題の解決に真正面から取り組むアースシグナル株式会社は、「すべての人が幸せに暮らし続けられる未来」を目指し、事業活動と社会貢献を積極的に展開している。その姿勢が地域の住民から支持され、笠原氏の卓越したリーダーシップのもと、同社の事業は着実に拡大を続けている。
笠原氏が語る「社会になくてはならない企業になりたい」という言葉には、同社の確固たるビジョンが反映されている。地域に根差した取り組みを基盤に、日本国内だけでなく、やがては世界にもその事業を広げていく未来が見えてくる。アースシグナル株式会社がその使命を果たし、世界へと羽ばたく日もそう遠くはないだろう。

笠原喜雄/2004年、「笠原工業」として個人事業を開業。2009年、アースシグナル株式会社設立、代表取締役に就任。2021年、産学官金出資のまちづくり会社、株式会社もろやま創成舎の代表取締役に就任。2022年、電気小売事業者としてアースシグナルソリューションズ株式会社設立、代表取締役に就任。同年、(一社)脱炭素まちづくり推進機構設立。代表理事に就任。2023年、GXラボ株式会社を福島県楢葉町に設立、代表取締役に就任。