
1983年に神奈川県横浜市で設立された株式会社総合環境分析。計量法に基づき都県知事の登録を受けた分析機関として、水質検査や土壌分析といった環境計量証明事業を行う民間企業だ。代表取締役の石渡壮氏に、事業内容や経営者としての思い、今後の展望についてうかがった。
水質をはじめとする「環境調査」の事業を継承
ーーこれまでのご経歴をお話しいただけますか。
石渡壮:
高校卒業後、フリーターだった私に、「うちの会社でアルバイトをしないか」と父が声をかけてくれたことが入社のきっかけです。当時は将来的に会社を継ぐという話は特にありませんでしたが、つい最近、自分の根底にあった家業への思いを認識するできごとがありました。実家の母から送られてきた中学時代の作文に、「将来は父の会社を継ぐ」と書いてあったのです。
入社して2年間は、サンプル(検体)の現場採取や客先からの回収といった外回りの仕事を経験しました。ご依頼の中には、国から法的に義務付けられた環境調査も多いため、お客様と関わる上で法律を学ぶ必要もあります。3年目に正社員となり、営業部へ転属してからは「分析の技術者ではないからこそ営業で結果を出さねば」と、法律の学習にも励みました。
民間企業だけではなく、官公庁など自治体施設での売上比率も高めていき、31歳の時に取締役に就任し会社のNo.2となりました。父の誘いで中小企業家同友会にも入会し、地域の経営者ともつながりながら、少しずつプレイヤーから経営者へ転向していきました。
水道水の水質検査に力を入れたことで、神奈川県内だけではなく関東全域と山梨県・静岡県にまで取引先を拡大できたことも誇りです。豊富な実績が認められ、その他の環境調査でも弊社が入札で指名されやすくなりました。

ーー事業の内容や強みについて教えてください。
石渡壮:
民間の環境計量証明事業者として、水質や土壌の検査・分析、排気ガス・大気の測定、産業廃棄物処理、アスベスト含有率分析などを行っています。化学技術を用いてデータを分析する対象は、水・固体・気体とさまざまで、産業分類としては技術サービス業にあたります。
神奈川県内にある環境計量証明事業者の中でも、水道法にもとづく検査機関に登録されているのは弊社を含めて10社程度です。水道法が改正され2004年に登録制に移行されるまでは、「水道法」の水質検査は民間企業が参入できない領域でした。弊社最大の強みは、水道水・飲料水をはじめとする「水質」の検査事業であり、受注数や技術の高さにおいて県内トップクラスを誇ります。
「世の中に必要な仕事」ゆえの高い成長意欲
ーー会社を継ぐ決意や、当時の思いもお聞きしたいです。
石渡壮:
弊社は私が生まれた翌年に父が創業しました。両親、歴代社員の方々が、この会社と共に私を育ててくれたといっても過言ではありません。父たちが成長させた会社を「途絶えさせたくない」という思いが、後継者となった一番の理由であり、さらに良い状態にした上で次の代に「総合環境分析」をつなぐことが自分の役目だと考えています。
環境分析が「世の中になくてはならない業界」であることも、会社を継いだ理由の一つです。日本は、工業化が加速した1960年代から70年代に深刻な環境汚染に陥りました。環境関連の法律が整備されて少しずつ改善していったものの、公害の被害者数は甚大であり、救済を求める人々により今でも続いている裁判もあります。
化学の力で目に見えないものを数値化する「環境分析」は、国民の健康と安全な暮らしを守ることに貢献していることは間違いありません。日本国内だけではなく、国際社会的にも必要不可欠な仕事です。業界および仕事の大切さを、社員たちにも日頃から伝えています。
ーー現在の経営方針を教えていただけますか。
石渡壮:
「10カ年の経営計画」を社内外に打ち出すと共に、会社を成長させる必要性も唱えています。たくさんスタッフが乗り込み、一つの方向を目指して進んでいく「会社」は、まるで「船」のようです。船は規模が大きいほど安定感があり、少しくらいの波ではビクともしませんし、多くの仲間が乗船できます。仲間の大切なものや夢も、たくさん積めることでしょう。
仲間たちが安心して働ける場所であるためにも、私は会社をさらに成長させたいのです。10カ年計画の5年目が進行中ですが、2〜4年目は売上目標をそれぞれ2期ずつ前倒しで達成したほか、3期連続で過去最高を更新しています。会社を成長させるには、仕事とプライベートのバランスも無視できません。社員の待遇もアップしつつ、人材を増やす取り組みは将来のために必要な「先行投資」だと考えています。
ーー会社が大きく成長するきっかけがあったのでしょうか?
石渡壮:
2022年に開設した「甲信分析センター」の影響が大きいですね。中小企業家同友会で出会った同業経営者の方と共に、山梨県内に拠点をつくったことで、長野県にまで営業範囲を広げることができました。弊社が地元企業を吸収・合併した形なので、先方としては非常に大きな決断だったと思いますが、弊社の発展だけでなく、山梨県内の雇用も増えて地域貢献もできる結果となりました。
次世代に引き継ぐべき企業として地域貢献・人材育成にも注力

ーー注力している取り組みについてお話しいただけますか。
石渡壮:
地域に雇用を生み、住民を増やすことは企業ができる「地域貢献」の一つです。弊社では、会社の近くに人が集まるように、最高30万円の「引っ越し支援金」を支給しています。既存社員が通勤時間を削減できるだけでなく、新入社員のサポートにも役立つ制度だといえるでしょう。
次世代を担う人材として、若手の環境計量士も増やしていかなくてはいけません。「環境計量士」とは、高難易度の国家資格であり、環境計量証明事業所に最低一人は在籍する必要があります。資格取得者に合計100万円の賞与を決定したことで、見事に試験に合格した若手社員が現れました。人材に向上心が芽生えるほか、レベルアップにも直結する取り組みの成功例ですね。
ーー今後の展望をお聞かせください。
石渡壮:
2024年の春に立ち上げた新規事業の「アスベスト分析」を伸ばしていくことで、民間企業のお客様を増やしたいと考えています。データ分析技術にAIを組み合わせられれば、社内全体の生産性が上がる可能性もあります。
営業面にも伸びしろがあると考え、幹部と共にマーケティングを学び始めたほか、環境分析に関する情報発信を目的にWebの領域も強化中です。さまざまな取り組みを続けた先で、「10カ年の経営計画」の最終目標である売上12億円を達成したいと思います。
編集後記
人々が安心して暮らせるように、定期的に調査されている環境状態。水質や大気の安全性は誰にとっても身近なテーマである一方で、環境計量証明という業界の実態はあまり知られていない。「総合環境分析」が存在感を増すことによって、業界全体が照らし出され、「なくてはならない仕事」が守られていくといえる。

石渡壮/1982年、東京都町田市生まれ。2003年、株式会社総合環境分析に入社。2年間は検体採取等の現場業務に従事。営業職として関東・東北・中部地方など広域で営業を行い、自社拠点がなかった県の市場も開拓。2020年、代表取締役に就任。3期連続で過去最高売上を更新、山梨県や愛知県にも拠点進出。