
落とし物の返却プロセスをデジタル化し、業務効率の改善に取り組む企業がある。株式会社findだ。同社が手がける「落とし物クラウドfind(ファインド)」は、写真1枚の登録でAIが特徴を抽出し、チャットでの問い合わせを可能にするシステムだ。サービスローンチ後1年で、駅や商業施設など2,300拠点に導入され、10万人以上の落とし主の課題解決に貢献しているという。「落とし物が必ず見つかる世界」の実現に向けて邁進する、代表取締役CEOの高島彬氏に話を聞いた。
父の背中と自身の体験が導いた起業
ーー起業するまでの経緯ときっかけを教えてください。
高島彬:
私の父は町工場の社長です。祖父が創業者だったこともあり、高校時代から、「社長になりたい」という漠然とした思いがありました。しかし、事業のイメージを持てていなかったため、大学を卒業して2年ほどバンド活動に打ち込み、その後オリックス株式会社に入社しました。
当初は3年で起業するつもりでしたが、多様な業界の経営者との出会いや同僚や先輩との充実した日々に没頭し、気づけば5年の月日が流れていたのです。そこから部署異動後はさらに4年間をオリックスで過ごしたのですが、スタートアップとの事業開発に携わる機会があり、担当していたスタートアップで30人の組織が300人規模に急成長していく過程を間近で見たことが、起業を決意するきっかけとなりました。
ーー創業のいきさつをお聞かせください。
高島彬:
弊社の共同創業者である和田は前職で仕事を通じて出会いました。同世代ということに加え、仕事に対する考えや人生の価値観が似ていたことから、いつの日か共に起業する夢を持ちました。コロナ禍の最中、月2回のオンラインミーティングではお互いに起業のアイデア出しを続けましたが、人生を懸けたチャレンジとして値するようなものには中々出会えませんでした。
そうした矢先、私が外出中に落とし物をしてしまったのです。落とし物を探すこと自体、もちろん大変でしたが、その過程で生じる駅員さんや店員さんの労力が膨大で、非常に苦労されている現実を目の当たりにしました。この体験を和田に話したところ、落とし物の課題をテクノロジーを用いて解決しようという話になり、弊社を創業することになったのです。
現場のホスピタリティをテクノロジーで支える

ーー「落とし物クラウドfind」はどのようなサービスなのでしょうか。
高島彬:
落とし物ひとつとっても、拾って届ける人やそれを預かって登録する人、管理する人など、多くの人が関わっています。そうした方たちの業務を効率化させるのが、「落とし物クラウドfind」です。
従来の落とし物の問い合わせは電話が中心でしたが、「find」を使えばチャットで簡単に問い合わせができ、担当者はダッシュボードで情報の一元管理が可能です。また、落とし物の登録は写真を1枚撮るだけで完了し、AIが落とし物の特徴を抽出して、探しやすい形式でデータベース化します。現在は鉄道会社を中心に、バスやタクシー、スタジアム、商業施設、そして一部の警察署でもご利用いただいています。
ーーサービスのビジネスモデルについて教えてください。
高島彬:
落とし主からではなく、企業から業務効率化の対価としてサービス利用料をいただいています。実は、創業当初は違うビジネスモデルを想定していたのですが、京王電鉄さんに提案させていただいた際に、お忘れ物取扱所で働く方々のホスピタリティに裏打ちされた大変な現場業務に触れ、サービスの方向性が変わりました。たとえば京王電鉄さんのお忘れ物取扱所では、汚れたスポーツウェアの落とし物があれば、落とし主のために洗濯をして綺麗な状態に整えていたのです。現場業務を知ったことをきっかけに、現場で働く方の仕事が楽になるような業務改善型のアプローチを考え、ホスピタリティをテクノロジーで支援する今の形に進化させた次第です。
国内から世界へ広がる善意の輪

ーー貴社にはどのような人柄の方が多いでしょうか。
高島彬:
弊社で働いている人たちの共通点は、いい意味でお節介であることです。仕事でやり取りする中で、困っている人がいれば自身に関係ないことでも手を差し伸べるという場面に多く立ち合います。なぜなら、弊社は「落とし物を落とし主の元に返す」という思いやりで成り立つサービスを提供しているため、人の役に立ちたいというマインドの人が集まっているからです。案件が増えていることもあり、来年にはスタッフを3倍にしたいと考えているので、同じようなマインドを持つ方に来ていただけたら嬉しいですね。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
高島彬:
費用対効果を上げるためには、お客様の協力が不可欠であるため、導入後の現場のサポートやコミュニケーションを一層大切にしていきたいと考えています。また、「find」のパワーアップに向けて、横断検索や多言語のリリース、宅配ロッカーと連携した着払いの簡略化など、さまざまな方法でのグレードアップを視野に入れています。さらに、ビジョンの実現に向けて、アジア圏をはじめ、他国での導入といった次の構想を練っているところです。
編集後記
テクノロジーで効率を高めながら、人の温かさを守る。一見相反するその両立に、昨今のデジタル化への一つの答えを見た気がする。人々の善意を包み込むテクノロジーは、きっと国境をも軽々と超えていくことだろう。

高島彬/オリックス株式会社に入社し、環境エネルギー分野に従事したのち、スタートアップとの事業開発を担当。「落とし物が必ず見つかる世界」の実現を目指し、2021年に株式会社findを共同創業。落とし物に関係する当事者の課題を解決する「落とし物クラウドfind」はサービスローンチ後、2年弱で全国28社、2,300拠点に導入され、10万人以上の落とし主の課題解決に貢献。