
日本全体で働き方改革が推進され、ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、企業が持続的に成長するためには、強力な組織づくりが欠かせない。その課題解決に貢献するSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)型クラウドサービスを複数提供し、特に組織改善プラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」を主力事業として展開しているのが、株式会社スタメンだ。本格的なバンド活動を経て、広告代理店からキャリアをスタートさせ、その後、ベトナムでの海外事業立ち上げを経験し、現在は同社の成長を牽引する代表取締役社長の大西泰平氏。多様な経験を通じて「企業の組織活性化」という新たな働きがいを見出したという大西氏に、多彩なキャリアの変遷から、テクノロジーを活用した理想の組織づくり、そして今後の展望まで、詳しく話を聞いた。
キャリアの原点と多様な経験
ーー学生時代から現在に至るまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。
大西泰平:
学生時代は音楽で生計を立てていきたいと考えており、バンド活動に打ち込んでいました。そのため、企業に勤めてオフィスワークをするというイメージが全く持てませんでした。就職活動を始めたのも、音楽活動を続けるための生活手段を見つけるためでした。当時はテレビ全盛期だったこともあり、エンタメの世界に近いテレビ局の採用選考を受け、最終面接まで進んだこともあります。そこで不採用となった後、テレビとは異なる形で世の中に面白い仕掛けができる仕事として、広告代理店という業界を知り、業界4番手の会社に入社しました。
ーーその後、どのような経緯でご自身の会社を設立されたのでしょうか。
大西泰平:
広告代理店でキャリアを積んだ後、29歳で転職した会社で、海外事業責任者としてベトナムでの拠点立ち上げを経験しました。約2年間で200名規模まで成長させるという大きなミッションを達成したのですが、その中で、強い組織づくりが事業成長の鍵であることを肌で感じたのです。
帰国後、後の共同創業者となる加藤厚史氏からお声がけいただき、2016年に株式会社スタメンを一緒に創業することになりました。そこで、新たなチャレンジとして、「組織のエンゲージメント向上」というテーマで事業を立ち上げていくことになります。
ーーベトナムで事業を立ち上げたご経験は、現在の経営にどう活かされていますか。
大西泰平:
ベトナムでの事業立ち上げは、経営、ゼロからのビジネス構築、そして海外での勤務と、すべてが初めての経験でした。まさに、がむしゃらに仲間と動き回る日々でしたね。一つひとつできることを積み重ねていくうちに、気づけば少しずつ事業が形になっていく手応えを感じました。
売上が立ち、顧客が増え、社員も増えていくなかで、それまでの広告代理店などでの経験が着実に活かされているという実感を持てました。初めてのミッションでも、これまでに培ってきた経験を組み合わせれば、困難な挑戦でも形にしていけるのだと実感できた経験でした。
会社設立から、成長を牽引する事業へ

ーー貴社の主力事業についてお聞かせください。
大西泰平:
弊社の主力事業である「TUNAG」は、組織のDX活用の推進と、従業員体験(EX)の向上をワンストップで提供するプラットフォームです。企業がビジネスを展開していくなかで、部門間や拠点を超えたコミュニケーションが難しくなる“組織不全”は、どの会社でも起こりえます。そのような組織課題を取り除くため、適切なテクノロジーを活用するDXと、それによって社内の連携や相互理解が深まり、一人ひとりの生産性が向上するEXを同時に実現できるよう支援しています。働く人々がやりがいと充実感を持って働ける環境や仕組みをより良くすべく、クライアント企業の経営陣や人事の方々と一緒に日々挑戦しています。
ーーどういった業界や規模の企業が「TUNAG」を導入されていますか。
大西泰平:
「TUNAG」は、多くの企業で活用されています。特に相性が良いのは、外食、小売、流通、物流、介護、医療、製造業といった、現場で働く方々が中心となるノンデスク産業です。従業員規模も幅広く、数十名ほどの小規模企業から、数千名、さらには1万人を超える大企業まで、規模を問わずにご導入いただいています。導入企業からは、業務効率化やコミュニケーションの円滑化だけでなく、理念の浸透や組織の活性化、部署間連携の促進といった成果が出ているという声を多数いただいています。
ーー社長として特に注力されていることは何ですか。
大西泰平:
2023年に社長に就任しましたが、社長になったからといって、創業から築いてきた路線を大きく変えたわけではありません。これまでの基本路線を継続しつつ、新しい挑戦の量と質を高めていっている段階です。
中でも最も意識したのは、技術やクリエイティブ領域に対する姿勢です。現在、開発組織やテクノロジーが会社に与える比重をこれまで以上に高めていくと明確に決め、エンジニア組織の規模拡大や、新たな技術幹部の採用と経営への参画を積極的に促しています。
100億円達成と東証プライム鞍替えを目指す
ーー今後の事業展望についてお聞かせください。
大西泰平:
まず、早期に売上高100億円を突破し、企業価値を高めていく過程で東証プライムに鞍替えすることを目標にしています。その過程で、現場で働く人々を中核とするノンデスク産業におけるDXとEXのサービスにおいて、業界をリードする存在になることを目指しています。
編集後記
広告業界という全く異なる世界からキャリアをスタートさせ、ベトナムでの海外事業立ち上げという困難な挑戦を乗り越えてきた大西氏。その多彩な経験のすべてが、現在の「人と組織」をテーマにした事業へとつながっている。単なる自己実現ではなく、自身の能力を最大限に活かし、社会にポジティブな影響を与えたいという思いが、同社の原動力となっていると感じる。外的環境が厳しさを増す現代において、同社が掲げる「強い人と組織を作る」という理念は、多くの経営者やビジネスパーソンにとって、道しるべとなるであろう。

大西泰平/筑波大学卒業後、大手広告会社などを経て、2014年よりITベンチャーのベトナム拠点事業責任者として、海外子会社をゼロから2年で200名を超える拠点として立ち上げる。帰国後、取締役として株式会社スタメンの創業に参画。創業事業であるTUNAGを事業部長として統括するとともに、営業、マーケティング、デザイン、開発、財務などの幅広い職能を活かした全社最適な経営戦略の推進を担う。2023年1月より現職。